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大陸最強と謳われたギルド『聖域』
かつては白亜の巨塔と称えられ
清潔と秩序の象徴だったその本部は、今や見る影もなく荒れ果てていた。
「おい、どういうことだ! また洗浄機が止まったぞ! おまけに空調も効かん! 昨日は風呂の魔温器が爆発して死にかけたんだぞ!」
食堂に集まった上位ランカーたちが、あちこちで怒号を上げている。
かつては指先一つ触れずとも、俺が組み上げた自動清浄結界によって磨き抜かれた輝きを保っていたギルド内。
だが今はどうだ。
廊下の隅には綿ホコリが溜まり、空気循環が死んだせいで下水の不快な臭いさえ漂い始めていた。
「うるさい! 私だって必死に修復しているのよ! でも……ゼノンの術式が複雑すぎて、どこをいじればいいか全然判らないの!」
新入りの「天才魔導師」ともてはやされていた女が
半泣きで分厚い魔導書をめくり、制御盤の前で立ち往生している。
無理もない。
彼女は知らないのだ。
俺がこの十年間、数千もの術式を『多重重合』させ、自分にしか解読できない独自の魔導言語(プログラミング)でギルド全体のインフラを制御していたことを。
俺という「核」を失ったそのシステムは、今や巨大なゴミの山に過ぎない。
そして、最上階の執務室。
ギルド長・バルトスは、デスクに山積みになった「設備故障の苦情」と「有望株からの離脱届」を前に、額に青筋を立てていた。
「……バカな。ゼノンがいなくなって、まだ一ヶ月も経っていないのだぞ? なぜ防具の『自動修復』が効かない! なぜポーションの『鮮度保持』が切れる! あんな雑用係一人いなくても、この『聖域』は最強のはずだ!」
そこへ、顔面蒼白の報告員が飛び込んでくる。
「ギルド長、報告です。昨日のSランク討伐クエスト、失敗しました。副団長の鎧が付与切れで砕け散り、再起不能の重傷です……」
「……っ、黙れ! 黙れ黙れ黙れ!」
バルトスは拳を机に叩きつけた。
彼らが今まで享受し、「自分たちの実力だ」と信じて疑わなかった勝利の数々。
そのすべては、俺が裏で24時間体制で回していた演算(付与)の結果だ。
ガソリンを抜いた高級車がただの鉄の塊でしかないように
彼らは今、ただの「重くて脆い鉄屑」を身に纏った、虚勢ばかりの見栄っ張り集団へと成り下がっていた。
「ゼノン……あの陰気な男め。わざと細工をして出ていきおったな! こうなれば手段は選ばん」
バルトスは暗部から呼び寄せた不気味な男に、一枚の似顔絵を突き出した。
「『影の処刑人』を呼べ」