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「パックさん!」
彼の自宅兼病院に―――
ケガをしたハニー・ホーネットたちを運び入れ、
小一時間ほども経った頃、
奥から、手術着に身を包んだパックさんと、
奥さんのシャンタルさんが現れた。
二人が手術帽を脱ぐと、その白銀のような
長髪があらわとなる。
そしてこちらを見ると一礼し、
「全員、命に別状はありません」
「あとは体力を取り戻せば、大丈夫でしょう」
それを聞いたハニー・ホーネットの女王バチと、
アルラウネの少女、土精霊様はホッとした
表情になる。
「%△#%◎&@□▲~……」
「ありがとうございます、と言っています」
まだ十才ほどの少年に見える精霊が、半人半植物の
少女に寄り添い通訳する。
「あ~良かった!」
「これで一件落着だのう」
メルとアルテリーゼも笑顔になり、これで
万事解決、と思っていると、
「……ええと、申し上げにくいのですが」
「言わなくてはいけない事があります」
パック夫妻が真面目な顔になって、こちらと
向き合う。
「%×$☆!%△#%??」
「全員、助かったんですよね?
まだ何か……」
アルラウネの少女は茶色の髪と一緒に首を傾げ、
その隣りの土精霊様のエメラルドグリーンの瞳に、
不安の色が混じる。
「見て頂いた方が早いと思います」
「どうぞこちらへ―――」
反転して廊下の奥へ歩いて行く二人の後を追って、
私たちはついていった。
「飛べない……ですか」
一匹のハニー・ホーネットを前に、私は開口一番
率直な感想を口にする。
地球でいうところのミツバチそのままの
ずんぐりむっくりした体形。
ただ、左右対称についているはずの羽が……
「完全に片側の羽がダメになっていますので、
もう片方の羽も落とした方がいいかと思います」
パックさんが専門的な立場から提案をする。
「▲※○○%×$☆!?」
「何とかならないのですか、と聞いて
いますが……」
アルラウネと土精霊様が沈痛な表情で
訴えてくるが、
「せめて半分でも残っていれば、残りを何かの
素材で補強出来たかも知れませんが―――
根本からバッサリやられていますので」
「飛ぶ事は諦めた方がいいでしょう」
医者夫婦の言葉に、私は女王バチの方を見る。
『こういう場合はどうなるのか?』
と聞きたいところだが……
野生動物にそれを問うのは愚問かつ
酷というものだろう。
本来、自然界に無駄を許容する余地は無い。
殺される事はないだろうが、巣から追放するのが
『自然』であり『当然』のはずだ。
そこで私は先回りして口を開き、
「出来ればこのコを、街との連絡役に
してもらえませんか?」
片羽になったハニー・ホーネットを見て、
一つ提案してみる。
それを土精霊様を通じて聞いた、アルラウネと
女王バチは顔を見合わせ―――
「どういう事かと聞いています」
「基本的にこのコは、児童預かり所で預かります。
もし街に何か要望があれば、このコか土精霊様の
ところまで誰か派遣してください。
こちらとしましても、代表として連絡役が
いるのは助かりますので」
精霊の少年を通じ、また亜人の少女と女王バチは
話し込む。
「それなら、飛べるものを代表にした方が
いいのでは、と言っておりますが……」
当然の正論を突き付けられるが、
「こちらにも利益があります。
まず、街の人間に魔物に慣れてもらう―――
共存出来る魔物もいる、という事を知って
もらうため、このコで練習してもらいます。
またこのコも時々巣に帰ってもらって、
人間との生活はどういうものだったか、
そちらと共有させます。
お互い、悪い話では無いと思いますが」
あくまでも一方的な関係ではなく、双方に取って
利益のある話だと強調する。
まああれだけ子供たちと遊び回って、今さら
慣れるも何もとは思うが。
それを土精霊様から告げられた女王バチは、
しばらく考えている様子だったが、
「それでお願いします……
と言っております」
かなり強引な話だったが―――
やっと納得してもらえたようで、軽くフゥ、と
息が漏れる。
「いいんじゃない?
ちょうどこれくらいの大きさなら、
こうやって抱っこしても」
と、アジアンチックな顔立ちの妻が、
そのハニー・ホーネットを抱え、
「……お?
え、何このコ。
モコモコしているんだけど」
「おや、本当じゃ。
良い手触りだのう」
続いて欧米風の目鼻立ちがクッキリとした
妻も、そのコを撫でる。
そういえば地球のミツバチも、昆虫にしては
その毛並みの存在感が特徴的だったような。
何はともあれ、こうして―――
飛べなくなったハニー・ホーネットは
児童預かり所へ引き取られる事になった。
「そうか、タイガー・ワスプに……
そいつは災難だったな」
魔物の討伐報告と、ハニー・ホーネットの救出、
その後の経緯などを話すため―――
私は冒険者ギルド支部へ来ていた。
「それであの、児童預かり所へその
ハニー・ホーネットを預かってもらう
件なのですが」
するとジャンさんは『ン?』と表情を変え、
「別にいいんじゃねぇか?
もともと、チビどもとあのハチどもは
仲良かっただろう」
アラフィフのギルド長は、白髪交じりの短髪を
ポリポリとかいて、
「そうッスねえ。
それに大人しかったし」
「魔狼の子が1人増えると思えば」
レイド君とミリアさんも『何の問題が?』
というふうに流す。
冬の間にすっかり受け入れられていたからなあ。
「ありがとうございます。
そのコは、残っている羽を完全に落とした上で、
児童預かり所に引き渡されるそうですので……」
「……まあ、魔物に取っちゃケガってのは、
死んだも同然だしな。
それに、魔物に慣れさせるっていう案も
面白い」
ジャンさんが飲み物をあおりながら語り、
「そういえば、そのタイガー・ワスプって
どうなったッスか?」
褐色肌の青年が話題を変えて来て、
「メルとアルテリーゼが、もうギルドに
運び入れていますよ。
1匹は研究用として、パック夫妻に
引き渡す予定です」
私の言葉に、ライトグリーンのショートヘアの
女性が、丸眼鏡をくいっと直し、
「それにしても、シンさんの討伐数が……
ギルド長にはまだ及ばないにしろ、
シルバークラスでは異常な数になっていますよ」
「そ、そんなにですか?」
私はソファに深く腰掛けて聞き返す。
「そりゃあ、お前―――
ジャイアント・ボーアに始まって、
ワイバーン、ハイパーロックリザード、
それにジャイアント・バイパーもいたなあ」
「そうッスねえ。
後はマウンテン・ベアー、キング・クラブ、
確かヒュドラも倒してたッスよね?
オッサンと一緒に」
ギルド長と次期ギルド長が、父と息子のように
しみじみと思い出しながら話し、
「他にグラトニー、食人植物、
ランペイジ・エイプにカリュブディス……
王家の結婚式の時はギガンティック・ムースも
狩ってきた事がありますよね?
それとホワイト・バイソン、アース・モール、
グランド・ワームにガルーダと―――
多分、ギルドの取り分だけですごい金額に」
それらの事務処理をしてきたであろう、
女性職員が遠い目をしながらつぶやくように語る。
「すいませんあの、そのへんで……
そ、それに結婚した後は、基本あの2人と
一緒に狩っていましたし」
何せドラゴンと一緒にいるのだ。
過剰戦力もいいところだし、決して自分の
能力だけで出来た事ではないだろう。
「おお、そういえば話は変わるが―――
近いうちにライシェ国から客が来るかも知れん。
王都からのワイバーン便で、その国でも
ワイバーン騎士隊が創設されたとの報告が
あった。
その礼でとか」
あー、確かメギ公爵がその件でライシェ国へ
行っていたような。
「でも、ライシェ国から客というか使者が来るなら
王都にでしょう?
別に公都は関係無いんじゃ」
私が首を傾げると、ジャンさんは『ん~』と
うなり始め、
「それがなあ……
メギ公爵がライシェ国で、お前の事をすげぇ
褒め称えたようなんだよ。
その流れからすると、顔を見に来るくらいは
あると思っていた方がいい」
何してくれてんのメギ公爵様……
「まあ、シンさんの能力を知らなくても―――
有名人ッスからね」
「せっかく王都まで来たのだからと……
公都まで足を延ばす事は考えられます」
まあ、来たら来たで会わないわけにも
いかないんだろうなあ。
悩みの種を一つ増やし、私は支部長室を
後にした。
一週間後―――
「これで何本運んできたかな」
「30本くらいかなー?」
私とメルは、二十メートルはあろうかという
大木を見上げていた。
ブナかヒノキに見えるその木は、ドラゴンの
アルテリーゼ・シャンタルさんを中心とした、
飛行部隊が植林のため運んできてくれたものだ。
「本当に持ってくるとは思わなかったよー。
でも、これであーしたちもここで本格的に
暮らせるねー。
ありがとーシンさん!」
両手が翼、下半身が鳥の女性―――
ハーピーが私たちに向かって頭を下げる。
ピンクヘアーをエアリーボブにまとめた少女、
確かテルリルさんと言ったっけ。
「いえ、よしてください。
それに、これも街の計画の一環ですので」
ここは、公都『ヤマト』の南に位置する、
新規開拓地区。
前々から計画に上がっていた―――
亜人・人外用の居住予定区域である。
(■144話 はじめての ぷろれす参照)
目的は、人間以外の種族が人間の生活に慣れる、
その逆バージョンを想定したもの。
将来的に、ラミア族やワイバーン、魔狼、
ワイバーンといった他種族と、結婚や商売など
いろいろな形で交流するため……
その練習用として彼らの生活スタイルを再現した
地区を作ったのである。
「シンさん!
人造湖に、魚を放流しました!」
そこに現れたのはラミア族―――
明るいブラウンの長髪の女性、タースィーさん。
彼女たちの本拠地である湖を模した、
直径三十メートル、深さにして二十メートルほどの
湖を作ったのである。
ただ湖の水は水魔法で出したものではなく、
近くの川から調達した。
水魔法だと貝が異常に増殖するのと、生き物が
巨大化するので―――
そこは自然の水にしてもらった。
「地上への出入り口も四方に付けました。
水中以外からは階段で入れるようになって
います」
「ありがとうございます。
ただ、監視担当の人は常に置いてくださいね。
さすがに水深が深いですから、子供が落ちたり
したら危険なので」
「はいっ!」
報告を終えたタースィーさんは、いそいそと
来た道を戻っていく。
「テルリルさん、ハーピー族は他に何か
必要なものはありますか?」
「男?」
彼女に火の玉ストレートを投げ込まれ、
しばし言葉に詰まるが、
「確か合意の上なら持ってっていいんじゃね?」
「そっかー」
そこで納得しないで。
メルも煽らないで。
「そうではなく物資的な物です。
他種族の男を呼びたいんだったら、
それなりの住まいも必要ですよ?」
「なるほどー。
そりゃ、あーしらだけでいいって話じゃ
ないね。
長老たちに聞いてみるよー」
ばさばさと飛び立ち―――
入れ替わりに、今度は上空からワイバーンが
迫ってくる。
「シンさん!
手頃な岩山を発見したッス!」
「すぐ調達に向いますか?」
ワイバーン……多分『ハヤテ』さんに乗って、
レイド夫妻が声をかけてきた。
「いえ、後でドラゴン組と合流してからに
しましょう!
それまで少し休んでください!」
こちらも大きな声で返し―――
亜人・人外用の居住区建設は続いた。
「お、お疲れ様ですだ、シンさん」
ずんぐりとした体格の熊型の獣人が、
労いの言葉をかけてくる。
夕方、間もなく日が暮れる頃……
作業が一段落した私たちは、各種族からの
追加の要望を、順次聞いていた。
「ボーロさんもお疲れ様です。
どうでしょうか、居住区は」
獣人族の代表としてやってきたボーロさんに、
新規開拓地区の確認をし、
「本当に感謝しておりますだ。
まさか、丘を作っちまうなんて。
これなら、俺のような山暮らしをしていた
獣人たちも、喜ぶと思いますだよ」
「山から生えている木ごと運んできたからのう。
さすがに疲れたわ」
「ピュウ~」
アルテリーゼが自分で自分の肩を揉みながら
話すと、
「お、お疲れ様でございますだ、ドラゴン様!」
深々とボーロさんが頭を下げる。
「アルちゃんお疲れー」
メルが彼女の後ろに回って、肩を揉み始める。
獣人族たちに用意したのは、標高十メートルほどの
なだらかな丘で―――
無人の山から、その土を運んで作ったものだ。
その中腹とふもとにあたる部分に、木造の
家屋を配置。
そこでまずは様子を見てもらう事にしている。
「しかし、その山は大丈夫だったんだべか」
「と言いますと?」
ボーロさんの質問に思わず聞き返す。
「土に魔物の匂いが残っていたような
気がしただべ。
結構大型の魔物のような」
心配そうに聞いてくるが、アルテリーゼと
メルは微笑んで、
「あー、何か鹿の大きいヤツが出てきたけど」
「シンによって、今は公都の氷室行きじゃ。
明日か明後日には出回るのではないか?」
「ピュッ」
妻たちの答えを聞いて、彼はポカンと口を開ける。
そう―――
山の土を調達する最中、メルのいう大型の
鹿の魔物と遭遇。
そして妨害の排除、および動物性たんぱく質の
確保という崇高な理由のもと―――
命と共にお肉を頂く事にしたのである。
「逃げてくれれば良かったんだけどねー」
「まあおそらくあやつの縄張りだったので
あろう。
退くことは出来まいて」
ナワバリを荒らす、のではなく……
ナワバリごと持ち帰ります、だったからなあ。
魔物に取っては災難以外の何物でもなかった
だろう。
「それで、他に何か足りない物、
もしくは作って欲しい物などは」
「山の中で育つ植物もありますだべ、
その栽培と収穫を許可して欲しいですだ」
「わかりました。他は―――」
各種族の要望を書き込んだ手元の紙に、
私はボーロさんの希望を追加していった。
「あ、来ましたね」
数日後、私は家族と一緒に児童預かり所へ
来ていた。
片羽根を失ったハニー・ホーネット―――
その受け入れと説明をするためだ。
子供たちを前に、コホン、と咳払いし、
「えーみなさん。
聞いてはいると思いますが、先日……
ハニー・ホーネットたちがケガを負いました。
その中に、片方の羽が無くなっちゃったコが
います。
それで今後は、この施設で暮らす事に
なりました。
みなさん、仲良くしてあげてください。
ではどうぞ」
私の合図で、土精霊様と一緒に―――
アルラウネの少女に抱かれて、その
ハニー・ホーネットが姿を現す。
それを見て子供たちから、『うわー』
『かわいそー』と声が上がり……
「見ての通りもう飛ぶ事は出来ませんが、
このコと遊んだ事のある人も、この中に
いると思います。
これからも仲良くしてあげてください」
「「「はーい!」」」
元気の良い返事が聞こえ、顔合わせが
終わったところで―――
私たちは応接室へと場所を移した。
「もう片方の羽はそのままにしたんだね」
「%◎&@▲※○……
□&○%$■☆♭*」
「パックさんのお話では、今後の生活を考えれば
切った方がいいとの事でしたが……
バランスを合わせて根本から切ると、神経を
傷付ける恐れがあったとの事です。
そこで中途半端に切るくらいなら、残した方が
いいと判断したようです」
メルの質問に、アルラウネの少女と通訳の
精霊の少年が答える。
「せっかく残った羽だしのう。
その方が良いか」
「ピュウピュウ」
アルテリーゼも同意し、そのコを見つめる。
「しかし、名前はどうするかな……
ずっとハニー・ホーネットって呼ぶのも
不便だし」
私の言葉に、五十代の上品そうな女性、
リベラ所長がそのコを撫でながら、
「子供たちが勝手につけるんじゃないでしょうか。
ラッチちゃんやレムちゃん―――
それにプリムちゃんのように」
そうだなあ、一緒に暮らすんだからそのうち……
「えっと、プリムちゃん?」
聞いた事の無い名前に、私は聞き返す。
「あら?
シンさんはご存知なかったんでしょうか。
そこの、植物の女の子の名前ですよ」
アルラウネを指しながら彼女は補足する。
「なんでプリムちゃん?」
メルが疑問をそのまま口にするが、
「始めのうちは、植物のお姉ちゃん、って
みんな言っていたんですよ。
それがいつの間にか、プランちゃん、
プリムちゃん、って変化していきまして」
「◎&@□▲※○」
「当人は気に入っているようです」
『プリムちゃん』は土精霊様を通じて、
機嫌良さそうに返す。
「まあ、このコともどもお願いします。
リベラさん」
「お任せください。
でもこのコ、虫の魔物にしては
ふかふかしていますね。
手触りが何といいますか……」
ミツバチタイプだからなあ。
触り心地はまるでぬいぐるみのようだ。
「ほお、どれどれ……
あ、これは良い。良いぞ」
「キュウ~♪」
アルテリーゼとラッチも、その感触を
存分に楽しむ。
「へえ、蜂の魔物ってこんなに
モコモコしているんだねえ」
「いや多分、蜜を集める蜂だけかと……」
と、私は説明の途中で言葉が止まる。
みんなに混ざってハニー・ホーネットを
撫でているのは―――
やや薄い茶色、ベージュと呼べばいいのだろうか。
そんな色のミドルショートの髪をした、青い瞳の
女性だった。
「「「……誰?」」」
全員が思った疑問を口に出すと、
「あ、申し遅れました。
ミマームと申します」
そう、彼女は名乗り―――
自己紹介を始めた。
「はあ、ライシェ国からのお客様でしたか」
「いやあ、そんな大層なものじゃないですよ。
私はその使いパシリっていうか。
もうすぐ国の使者様が到着するから、
その先触れとして来たんです」
改めて席を設け、ミマームさんをもてなす。
そこでお互いに自己紹介を行い、状況を整理する。
「それで各所に連絡を済ませて、後は公都で
待っているだけだったんですけど―――
亜人やら何やらいっぱい普通にいる
施設が目に入ったので、つい」
「まあ確かに興味は引くだろうけど」
「ピュイ!」
メルは正直に感想を語り、
「ライシェ国……
確か、ウィンベル王国と最恵国待遇を
結んだ国ですよね?」
「どうして公都へ?」
土精霊様とリベラさんが質問すると、
「さー、そこは私には何とも。
ワイバーン騎士隊が我が国でも創設
されたので―――
その返礼に来たのは知っているんですが」
ただの使者だしなあ。
詳しい事情までは知らないか。
ふと、そこでミマームさんを凝視している
アルテリーゼに気付く。
「……アルテリーゼ、どうかしたのか?」
「…………」
しばらく彼女をジッと見ていたが、やがて
目をカッと見開いて、
「お主は!」
「あ、貴女は!?」
え? アルテリーゼの知り合い?
と思って事態を見守っていると、
「ごめん勘違いだわ」
「うん。
よく考えなくてもドラゴンの知り合いなんて
いなかったわ」
二人の答えに、それ以外の室内の人間の肩が
ガクッと崩れた。
「ウン! うまい!
王都でもいろいろ飲み食いしたけど、
公都がダントツに美味しい!!」
「あはは……
まあ、そう言われて悪い気はしません」
その夜―――
ライシェ国の使者を歓迎して、ささやかな
パーティーが開かれた。
場所は中央地区、冒険者ギルドの訓練場。
そこに各テーブルを設置し、可能な限りの
種類の酒・料理が並べられる。
『ささやかな』と断っているのは……
実は公都『ヤマト』まで来る事は、彼らの正式な
スケジュールには入っていなかったらしく、
いわば非公式、おしのびでの行動で―――
そこで主要関係者だけ集めての、少人数での
パーティーになったのである。
「そういやムグムグ。
我が国の使者にモグモグ。
いろいろ聞かれていたようですけど
大丈夫ですかズズー」
「あの、食べながらでなくていいですから……」
私はというと―――
『あのメギ公爵様が尊敬する人物』として、
つい先ほどまで質問攻めにあっていた。
急遽呼ばれたバルク・ドーン伯爵や、ギルド長が
所々で助け船を出してくれたので……
やっと抜け出せ、ミマームさんを見つけて
逃げ込んでいたのだが、
「シンー!」
「厨房から、料理を手伝って欲しいと
呼ばれておるぞ。
……という事にして、引っ込んだ方が
よかろう。
使者たちはまだ話し足りぬようだからな」
「ピュイー」
そこへメルとアルテリーゼがやって来て、
離脱を促す。
「ではメルっち。
シンを連れて行ってくれ。
我も後から行くから」
「りょー」
と、妻の一人が私の手をつかむと、
そのままパーティー会場の外へ向かって
駆け出し、
その場に、ひたすら飲み食いする使者と、
それを呆れるような目で見る女性が残された。
アルテリーゼはそんな彼女を見ると
一息ついて、
「……どういうつもりじゃ?
ミマーム」
「あー、やっぱバレていたか。
しかしアンタが人間の男と再婚とはねえ」
料理のお皿を持ったまま、ミマームは
ドラゴンと隣り合って小さな声で話す。
「グリフォンともあろう者が、こそこそと……
堂々としていればいいではないか」
「そうもいかないんだよねえ。
今はライシェ国の宰相ってのを
していてね。
当然、非公式にだけど」
「…………」
その答えに、アルテリーゼは黙り込む。
「安心おし。
敵対とかそういう事じゃないから。
まあ縁あって私も人間のお手伝いを
ちょっとやっているだけさね」
こうして、人知れず人外の二人は―――
しばらく小声で話し込んだ。