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「ふぅう……さすがに疲れました」
「おー、お疲れさん」
ライシェ国の使者の方々を迎えてから数日後……
ようやく彼らは帰国の途につき、
それを見送った後、ようやく解放された私は、
支部長室のソファにもたれかかっていた。
「まー無理も無いッスよ」
「実質上、各国のワイバーン騎士隊創設者である、
メギ公爵様のお墨付きですから」
レイド君とミリアさんがそろって苦笑する。
ライシェ国の方たちが滞在した数日―――
使者たちはこの公都『ヤマト』の各施設の案内を
希望し、
その全てにおいて『担当者』として……
私が指名されるはめになったのである。
「でもよ、あの亜人・人外用の居住予定区域か?
すげぇ興味持たれていたじゃねーか」
「そうですね。
あちらも少数ながら、ワイバーンと一緒に
暮らしていく事になるでしょうから……
いい勉強というか練習になったんじゃ
ないですかね。
メルとアルテリーゼも、彼らの追加要望に
応えるため、大忙しですよ」
アラフィフの筋肉質のギルド長が、ずい、と
身を乗り出して語り―――
私もそれに受け答える。
「しかし、ミマームさんて言ったッスか?
ドラゴンやワイバーン、他の人外ともすごく
溶け込んでいたッスねえ」
「溶け込んでいたというか、遠慮なく突っ込んで
いたというか……
あの人、度胸があるのか何なのか」
褐色肌の次期ギルド長の夫の言葉に―――
タヌキ顔タイプの丸眼鏡の妻は微妙そうに返す。
「アルテリーゼをドラゴンと知って、
かつほとんど初対面で、あそこまで
グイグイ押せるのは珍しいでしょうね」
そういえばドラゴンに乗るのを目当てに来た、
フレンダさんって人もいたなあ……
それを思い出した私は、若干遠い目になる。
(■58話 はじめての きしゅう)
(■59話 はじめての らみあ参照)
「まあそういう存在も貴重なんじゃねぇか?
それに、悪い印象持たれないで帰ってもらう
だけでも」
「しかし、あれだけ馴れ馴れしい……
もとい抵抗が無かったのは、ライシェ国って
人外に寛容な国だったんですかね」
「どうだろうな。
あんまり他国の事なんて知らんからなあ」
アラフィフとアラフォーの私が話し合っていると、
若い男女が思い出したように、
「そういえばギルド長。
またワイバーン便が来てたんじゃないッスか?」
「シンさんに関わる事と言っていたような」
そこでジャンさんがハッとして、
「お、そうだ!
本部長が来て欲しいって言ってたんだっけ。
以前、ランドルフ帝国の姫さんが来ただろ?」
「ああ、その件についてですか?」
しかし、その事についてはもう報告はしたし、
何か進展でもあったのかと思っていると、
「一応、王族会議で―――
ランドルフ帝国が開戦前に、使者は送って
来るだろうとの推測を立てたらしい。
んで、その時どうやって『もてなす』か、
意見を聞きたいんだとよ」
「いや、そんな事を言われましても……
王族や外交官の接待の方法なんて、
私は知りませんよ?」
困惑して答えを返すと、
「シンさんの世界のやり方を知りたいんじゃ
ないッスか?」
「異世界でのもてなし方とか……」
レイド夫妻が、目を泳がせながら話す。
「私、元の世界では一般人ですからね?
まあ、関わった以上は協力しますけど―――」
「実際、シンに任せておけばたいていの事は
何とかなっちまっているしな。
今回は単なる意見を求めての事だと思うが」
ギルド長が一応フォローを入れてくれる。
「あんまりいい傾向じゃないんですけどね……
1人の意見に頼りがちになるのって」
「ま、今のところはそれだけだ。
詳しい予定とか来たらすぐに知らせる」
こうして、予定としての王都行きが追加された後、
いくつか雑談しながら情報共有し、ギルド支部を
離れた。
「……これは事実ですかな」
「わたくしが虚偽の報告をするため、
わざわざ大陸へ渡ったとでも?」
ライシェ国沿岸からはるか東、海の向こうに
位置するランドルフ帝国。
その王宮の一室で、王族の一人である
ティエラ・ランドルフは―――
軍人の制服に位の高そうな中年男性を前に、
丸テーブルを挟んで対峙していた。
「ワイバーン騎士隊の存在は、亡命してきた
アストルという男から聞いておりましたが。
それが人の姿となり、意思疎通が可能という
情報はありませんでした」
「ワイバーンだけではなく、ドラゴンや魔狼、
他国にはフェンリルもおり、人と結婚した者まで
いるとの事です。
さらにはラミア族、獣人族、ハーピー、
アルラウネにアラクネともわたくしは直接
会って話をしました。
未確認ですが、最近は人魚族とも友好を結んだ
国もあると……」
それを聞いた男は大きくため息をつき、
「さらには『全属性』魔法の使い手の存在―――
そしてもう1人その可能性がある者、
それが『万能冒険者』だと……
確かにそれなら、クラーケンごとき相手では
ありませんでしょうな」
「『万能冒険者』の情報なら、すでにその
亡命者が持っていたのでは?」
眉毛の上でパープルの前髪を揃えた彼女の言葉に、
彼は頭を抱える。
「ドラゴンの妻がいて、ワイバーンやその他の
人外勢力を従えていると……
アストル自身、それは噂であり情報操作だと
言っておりましたが、裏が取れた形となります」
ティエラは若干哀れみを含めた視線を彼に向ける。
この情報をどう取り扱っていいのか、困惑している
事は容易に想像出来た。
男はチラ、と彼女を見上げるように視線を上げて、
「失礼ですが―――
変身や幻影魔法を使われたという可能性は?」
「認識阻害魔法の検査も何度も受けました。
その痕跡は無かったとのお墨付きです。
そもそも、潜入が明るみに出てしまった
発端は……
新作料理としてクラーケンを振る舞われた
からです」
(■148話 はじめての いかりょうり参照)
それを聞いた男は何度も書面と目の前の彼女を、
見比べるように視線を上下させ、
「しかし、こんなものを報告しようものなら、
私が頭を疑われかねないですよ」
「否定出来ないところが辛いですね……
わたくし自身、未だにあれが本当に
現実だったのかどうか、半信半疑ですので」
深呼吸のように、二人で同時に大きく息を吐く。
「カバーン殿とセオレム殿は?」
「まだ別室で聴取されています。
情報の整合性を確認されているのでしょう」
そこでしばらく沈黙が続き、
「……あと、もう1つ懸念がございます」
男の方が、意を決したように口を開く。
「わかっています。
魔王・マギアの存在―――
そして彼は、聖女・ミレーレ様の教えが
曲解されている事を、憂慮していました。
穏便に言えばそうですが、内心は激怒していたで
しょうね」
「ワイバーンの方も言わずもがな、でしょうな。
いくら別の大陸とはいえ、仲間が非道な扱いを
受けていると知れば―――
気分の良いものではないでしょう」
現実に、ランドルフ帝国は自国でもワイバーンを
使役するために集めているが、
それは卵やヒナを奪ってきたり、またそれらを
人質にするなどの、魔物や動物に対する扱いと
同様の手法であった。
「しかし、どうしてもこれは伝えねば
なりません。
もちろん、これで戦争回避になるまでの
高望みはしませんが……
一度使節団を送り込むくらいの検討は
されるはず」
「確かに、それくらいが落としどころと
なるでしょう。
飛行戦力としてのワイバーンの確保は、
まだまだ時間がかかりますし―――
そういった方向へ話を持っていけば
通るかと。
後はあちら側の状況を見て、どれだけが
開戦を思いとどまってくれるか」
重苦しい雰囲気から、若干光が見えてきたような
感覚を男女は共有するが、
「でも、もしかしたら……
これであなたの軍での立場を悪くして
しまうかも。
先に謝っておきますわ。
ごめんなさい」
「おやめください、ティエラ様!
それに、それがしも公聖女教の信者です。
軍として事前情報の提供に感謝いたします。
さっそくこれを戦略会議にかけましょう。
なるべく大勢を巻き込んで……!」
彼女はそれを聞くと彼に一礼し―――
部屋から退室した。
「ティエラ様!」
「そちらはどうでしたか?」
彼女がしばらく長い廊下を歩いていくと、
赤い短髪にブラウンのボサボサの髪型をした、
アラフィフとアラフォーの従者と出会い、
「カバーン、セオレム。
そちらの聴取は終わったのですか?」
ティエラが二人を気遣うと、
「まあ、何とか」
「疑われまくりでしたけどね。
無理もありませんが」
三人は同時に苦笑し、奇妙な連帯感が生まれる。
「それにしても軍の連中―――
新しいオモチャを与えられたガキのように、
浮かれまくっていて困る」
「やはり、船に搭載出来る誘導飛翔体の目途が
立ったのが大きいんでしょうね。
下手をすると再来年には開戦ですよ」
従者たちの報告に、彼女は悲しげにうつむく。
「まだ、戦争回避の望みが潰えたわけでは
ありません。
わたくしたちの報告書を元に―――
一度向こうの大陸へ使節団を送れないか、
検討に向けて動いてくれる人もおります。
後はそれで考えを変える方々が増えてくれる
事を、祈りましょう」
ティエラの言葉に、従者たちは力強くうなずき、
「よし! そんじゃあ―――
お嬢、ワイバーンの件もちっと動いて
みましょうや」
「ワイバーンの確保そのものを止めさせる事は
難しいでしょうが……
せめて扱いを改善するよう、圧力をかける
くらいは」
彼らは前向きに意見を出し合い、出来る範囲で
動き始めた。
「お疲れ様。
メル、アルテリーゼ」
冒険者ギルド支部を抜けた後、私は……
亜人・人外用の居住予定区域へと来ていた。
そこには同じ黒髪の―――
東洋ふうと西洋ふうの、対照的なタイプの
妻二人がいて、
「お疲れー、シン」
「使者の見送りはもう済んだのかの?」
「ピュー」
すでに作業は一通り終わっていたのか、
一息ついていたところのようだ。
「ああ。それをギルド支部に報告して……
あと、近いうちに王都に呼ばれる事になりそう」
私は妻たちと、先ほど言われた事を共有する。
「もてなし方、ねえ」
「大々的に出迎えでもするのかのう」
「ピュイ」
彼女たちも少し考え込むが、何せ国同士の
行事だからなあ。
興味はあるがそうそう意見は出てこないだろう。
「そっちは?
どんな感じだった?」
妻たちに、今日の作業について聞くと、
「基本的には材料の追加だねー」
「木材や石材、後は土か。
方々から少量ずつ運んで来た」
以前、一つの山からごっそり土を持ち帰ろうと
したところ―――
そこの主的な存在の魔物と戦うハメに
なってしまった。
(■152話
はじめての きょじゅうく(じんがい)参照)
その教訓もあって、今は素材の収集先を
なるべく分散させていたのである。
「そこに住んでいる動物や、魔物とか……
間違えて持ってきちゃったら問題になるからね」
「そもそも、土地ごと持ち帰るって発想が
無かったよ」
私の言葉にまずメルが呆れ気味に答え、
「ああ、そうそう。
各種族の代表から、そろそろ異種族用の
大型浴場をと言われておるが」
「ピュッ」
続いてアルテリーゼが、言伝を思い出す。
「それについては、ワイバーンの巣に作った浴場を
参考にしようという話が出ているから―――
今、その人たちを呼び出しているんだ。
間もなく到着すると思うから、それからだね」
その後も雑談がてら、情報を共有し……
亜人・人外用の居住予定区域の開発を進めて
いった。
「……おばけ?」
数日後、私のもとに要望というか相談が
持ち込まれた。
児童預かり所―――
そこの所長、リベラさんに呼ばれ出向いたのだが、
「子供たちが言っている事ですので……
私が直接見たわけではないのですが」
話の内容は、例の人外用の居住区が絡んでいた。
彼女の話では、人間が人外用の施設に慣れるに
あたり―――
そのお試しとして、すでに共同生活の長い、
預かり所の子供たちが選ばれたという。
ラミア族、魔狼、ワイバーンと……
ともに暮らしてきた月日はそれなりにあり、
子供たちもまた、彼らの住処で暮らすと
言われると遊びに行く感覚で、喜んでそれを
引き受けたらしい。
「ラミア族やワイバーンのところでは、
これといった問題は起きなかったという
事です。
ただ、ハーピー族や魔狼、獣人族の家で、
夜になると奇妙なものを見たとか」
「奇妙なもの、ですか。
それは子供たちだけ?」
メルの問いに、リベラさんは首を左右に振り、
「いいえ。
そこの種族の方々も確かに見た、と。
正確には家の中ではなく、家から外を
見た時に何かいたとかで」
うーん……
見間違いという事も考えられるけど、
子供たちだけじゃなく、他種族も見ていると
なると……
「我らは日中しか作業していなかったからのう。
夜中にそんなものが現れているとは」
「ピュウ~」
アルテリーゼもラッチと一緒に、不思議そうな
表情を作る。
しかし、放置するわけにもいかない。
あの地区は人と人外が相互理解するために
作った場所。
このタイミングで、水を差されるわけには
いかないのだ。
「わかりました。
原因がわかるまでは、いったん子供たちは
戻してください。
調査しに行ってみます。
その間、ラッチをお願い出来ますか?」
「はい、喜んで。
よろしくお願いします」
リベラさんは深々と頭を下げると、私たちも
一礼して、応接室から退室した。
「おお、シンさん。
もしかしてあの件だべか?」
人外用地区に到着すると、ひとまず私たちは
聞き込みを開始した。
まずは獣人族のボーロさんから。
彼は、そのずんぐりした体を震わせながら、
「た、確かにオラも見ただよ。
子供たちが騒ぐので、何かと思って外を
見たら―――
変なものがビュンビュン飛び回るように
動いていただ」
彼の話によると、深夜の森の中を……
生き物とも何とも取れない物が、猛スピードで
木々の間を飛び回っていたらしい。
ただ、どうもそれは木々にぶつかりながら、
もしくは蹴って移動していたようにも見えた、
との事。
「姿形って見えなかった?」
「申し訳ねぇだ。
あまりにも早過ぎて、そこまでは……
それに外も暗かったですし」
メルの質問に、彼はすまなそうに頭を下げる。
「危険は無かったかの?」
「一応子供たちは、外に出さないように
しただべ。
家の中に入って来る気配も無かったですだよ」
今度はアルテリーゼの問いに答え、取り敢えず
こちらから近付かなければ危ない存在ではない
らしい、という事が伺える。
「断定は出来ませんが、それでケガをしたという
話は無いようですし―――
危害は無い存在のようですね」
ただそれを差し引いても、正体不明のままに
しておくわけにもいかない。
私たちは、次の聞き込み先へと向かう事にした。
「おお、シン殿!」
「シンさんが来って事は……
やはりアレの事かい?」
漆黒の短髪に、和風な顔立ちの青年と―――
隣り合うようによりそう、赤髪を逆立てた
細身の女性。
魔狼の長・ロウさんと、元盗賊頭の女性、
ノーラさんのカップルだ。
「お察しの通りです。
この地区に現れたという、正体不明の存在……
その調査をしています」
そして今度は二人に対し聞き込みを続ける。
「我は、生き物に違いないと見ている。
匂いもあったのでな。
ただ、今この森には我のような魔狼や
獣人に、樹上にはハーピー族もいて―――
今ひとつ確信が持てぬのだ」
確かにこの人口森には、そこを住処とする
種族たちが集まっている。
それらがごちゃ混ぜになったら、どれがどの
匂いやら、判別はつきにくくなるのだろう。
ロウさんの次に、今度はノーラさんが
口を開いて、
「この森以外で、そういう話は出ているのかい?
少なくともアタイの耳には入ってないけど」
そこではた、と気付く。
「そういや、そんな話は聞いてないね」
「となると……
この森限定で、という事かのう?」
確かに、ハーピー族も目撃しているという
事だし―――
それならワイバーンもそれなりの高所に
住処を置いているので、彼らからも話が
出ていないとおかしい。
「ハーピー族からも、話を聞く必要が
ありそうですね」
「それなら、あちら側の木々を中心に
巣を作っている。
ただ高所なので、気を付けて行かれよ」
そして私たちは二人と別れると―――
ハーピー族たちの元へと向かった。
「ほーん。
それで調べ回っているんだ。
まあ、あーしも?
アレ、オバケとは思ってないけど」
両手が鳥の翼をした、ピンク色の髪が特徴的な
ハーピー族……
テルリルさんが調査に応じてくれた。
「し、しかし結構揺れますね……
大丈夫なんでしょうか」
私とメル・アルテリーゼは、地上およそ
十五メートルほどの位置に設置された、
彼女の『家』の中にいた。
「平気だと思うよ?
補強に、アラクネの糸も使っている
ようだし」
「いざとなれば、我とメルっちどちらかが
シンを抱えるでな」
メルは身体強化が使えるし、アルテリーゼは
ドラゴン。
この程度の高さは問題にならないらしい。
「それでテルリルさん。
この高さでそれが見えたんですか?」
「あーしたちは夜目がそれほど効かないから?
一緒にいた人間族の子供たちには見えていた
ようだけど。
ただあーしにも、ビュンビュンと何かが
風を切るような音は聞こえたよ?」
うーん、しかし……
比較的高所に住むワイバーンからは、目撃情報は
来ていない。
それに下にいる魔狼や獣人たちも目撃している……
という事は高度は関係無いのかも知れない。
「どちらにしろ、夜まで待たないとダメか。
メルとアルテリーゼはどうする?」
確か二人とも、このテの話には弱かったはず。
と思っていると、
「んー? もちろん付き合うけど?」
「それに、まだ安全だと決まったわけでは
あるまい?」
と言いつつ、一人ずつ腕にしがみつく。
「いや、オバケだったら私やメル、アルテリーゼが
いてもどうにも―――」
「ままままだそう決まったわけじゃないしー」
「そそそそれにじゃ、オバケなら森にだけ
出るというのもおかしな話であろう?」
震えながらも、二人はオバケ説を否定する。
ファンタジー世界の住人であっても、
非現実的なものに弱いのは女性だからか―――
そんな事を思いながら、私は待機場所の選定を
考えていた。
「シン殿。そろそろだと思いますが」
「確かこのくらいの時間でした」
時間にして午前一時過ぎくらいだろうか。
獣人族の男女が、私たちに告げる。
猫型の獣人族の兄妹、ゼンガーさんとミーオさんの
家を待機場所にしてお邪魔していたのだが、
その二人が何か気配を察知したのか、
細長いシッポと、赤髪を逆立てその中から耳が
ピン! と立つ。
「外で飛び回る、かあ」
「明確な目撃情報が無いほど、ものすごい
速度で動き回る―――」
メルとアルテリーゼが窓の方へと視線を向ける。
すると―――
「……!
アレですか!?」
風をビュンビュンと切るような音が聞こえて
きたと思ったら、『それ』が私たちの視界に
入ってきた。
何かが動いている。それはわかる。
しかし、猛スピードで動くそれの外観は、肉眼では
とらえられない。
「これです、シン殿。
害は無いようなのですが」
「ただあまりにも早過ぎて―――
正体がわからないのです。
捕まえようにも、この速度では」
ゼンガーさんとミーオさんが、困惑した表情で
語る。
「うーむ?」
「??
どうしたの、アルちゃん?」
疑問の声を上げるドラゴンの妻に、人間の方の妻が
問いかける。
「あれは生き物ぞ?
我の目にもハッキリとは見えぬが……
シッポ、そして翼のようなものがある」
これまでで一番具体的な外観が、アルテリーゼから
説明される。
「み、見えるのですか?」
「でも確かに、そう言われれば……
何やら細長い体をしているような」
兄妹は、その飛び回る物体を改めて確認する。
「まあ生き物なら、対応出来るかな」
私が扉に向かうと、妻二人も後に続き、
「ほんじゃ行きますかー」
「お主らは外に出ないように。
我らで何とかしてくる」
家の家主二名を残して―――
私たちは外、現場へと急いだ。
「これは……群れ?
いや、いたとしても数匹か」
見上げながら、アルテリーゼはつぶやく。
私たちの頭上―――
視認出来ないスピードで行き交う影。
それが、木々の間を飛び回っていた。
「翼とシッポがある、と言ってたけど……
それは四足歩行?」
「多分そうじゃ。
形としては、魔狼に近いかも知れぬ」
彼女の説明に私はうなずく。
という事は、これまでの情報を総合して、
・生き物である。
・翼で飛んでいる。
・木々にぶつかる、もしくは蹴っている。
・シッポがある。
・四足歩行の動物である。
以上の事を踏まえ―――
「……メル、アルテリーゼ。
多分落っこちてくると思うから受け止めてくれ。
数匹なら大丈夫だと思うし、もしケガでもしたら
すぐにパック夫妻のところへ連れて行こう」
「りょー」
「わかったぞ」
そして私はおもむろに上を向くと、
「翼のある、目にも止まらない速度で飛び回る
四足歩行の動物など……
・・・・・
あり得ない」
そうつぶやくように語ると、
「ケーン!!」
頭上で何かの鳴き声が聞こえたかと思うと、
白い影が降って来て、
それを妻二人がとっさに森の中を駆け―――
地上に落ちる直前で受け止めた。
やがてメルが二匹、アルテリーゼが三匹ほど
それを捕まえてきて、私に見せる。
その大きさは体長一メートル弱。
外見は、一言で言えば白い狐に翼をつけた
ようなもので、
「……これは?」
「う~ん、私にもわかんない」
メルが首を左右に振る。
冒険者として長く、魔物の知識が豊富な彼女でも
わからない、となると……
「アルテリーゼはわかる?」
「すまぬ。
我も見た事が無い魔物だ」
彼女もまた首を横に振る。
そこへ、獣人族の兄妹が駆け付けてきた。
多分、静かになった事で解決したと思ったの
だろう。
「シン殿!
相手は……えっ?」
「も、もしかして……
それは羽狐ですか!?」
妻たちが捕まえた『獲物』を見たゼンガーさんと
ミーオさんは、驚きの声を上げた。