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◆ 最終話 MINAMO2の発表
春の夜。
都心のホールで行われている、UMI社の新製品発表会。
照明は控えめで、巨大スクリーンもない。
壇上に立つのは、淡い灰のジャケットを着た外国人の開発責任者。
背後には、日本側の技術チームが静かに並んでいる。
会場のほとんどの来場者は、
水色・緑・黄緑のMINAMOをすでにかけていた。
誰もが“見る準備”はできている。
「次のMINAMOは、
装着していることを、さらに忘れさせる ことを目標にしました
もちろん従来のテレビ電話は可能です」
その言葉と同時に、
りくの視界の端が、ほんの一瞬だけ切り替わる。
■ AirWay統合 ― MINAMOサウンド
まず示されたのは、
耳元に何もない横顔の映像。
「骨伝導イヤホンは、
MINAMO本体に完全統合 されます」
機能名は、
MINAMOサウンド。
耳にかける部品は消え、
ツルの内側から、音と振動が自然に伝わる。
りくは無意識に、自分の耳に触れる。
何も変わっていないのに、
環境音とBGMが、ちゃんと分かれて聞こえている。
音質は“特別ではない”。
だが、生活には十分すぎるほど自然だった。
■ 無線給電の進化と薄さ
次に映し出された断面図。
無線給電はさらに強化され、
エリアに入った瞬間、急速充電が始まる。
それでも──
「ツルの厚みは、+0.2センチ に抑えています」
会場がざわつく。
りくのMINAMOも、
見た目は今までとほとんど変わらない。
おしゃれ眼鏡の延長線。
誰も“新型”だとは気づかないだろう。
■ 視界と操作の進化
視界補完は 32K相当。
だが数字の説明はすぐ終わる。
「重要なのは解像度ではありません。
見えすぎないこと です」
補完視力は 1.50 を維持したまま、
視界外UIはさらに整理される。
通知は“端”ではなく、
意識の外側 に置かれる設計。
■ 自動モードと新ジェスチャーAI
街、大学、電車、美術館。
場所に応じて、MINAMOは勝手に切り替わる。
操作ジェスチャーも進化した。
指を動かそうとする
ほんの予兆 をAIが読み取り、
誤作動はほぼ消えている。
次世代スマートリングとの連携で、
指先の動きはさらに正確になる。
■ そして、会話はそのまま続く
発表が終わる頃。
りくの視界に、
胸元から上だけ映る人影が、自然に重なる。
距離感は近すぎず、遠すぎず。
「終わった?」
淡い緑のワンピースを着た、いまりだった。
肩の力が抜けた、いつもの表情。
MINAMOサウンド越しの声は、
空気と混ざって、違和感がない。
■ 日常へ
会場を出ると、夜の街。
人々は静かに歩き、
誰もスマホを見ていない。
りくはMINAMOを軽く触る。
厚くなった感じは、ない。
ミナ坊が、控えめに文字を出す。
『りく
MINAMO2は
あなたの生活を変えません
ただ、支え方が少し上手くなります』
りくは小さく笑った。
「……十分すぎるよ」
32Kでも、
新機能でも、
それが主役ではない。
何も変わっていないように感じること。
それこそが、MINAMO2の完成だった。
世界は今日も静かで、
人はただ、自然に前へ進んでいる。
それが、
MINAMO社会の“次の当たり前”だった。