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《国際オンライン会議/SMPAG・IAWN 緊急セッション》
画面の中に、
いくつもの顔と国旗が並んでいた。
NASA/PDCO、JAXA/ISAS、ESA、
各国宇宙機関のロゴ。
その横に、
日本・アメリカ・ヨーロッパ・中国など
主要国の政府代表。
オメガ予測落下日まで、あと25日。
第二の矢ツクヨミの衝突から一夜明けた、
「世界会議」の時間だった。
議長役は、
SMPAG(スペースミッション計画諮問グループ)の
事務局長。
「――では、
まずプラネタリーディフェンス側から、
ツクヨミ衝突の結果と、
現在のコリドー状況の報告をお願いします。」
画面が切り替わり、
NASA/PDCOのアンナ・ロウエルが映る。
「こちらPDCO、アンナ・ロウエルです。」
「結論から申し上げます。」
「第二インパクター“ツクヨミ”は、
オメガ破片Fragment Bに
“命中した可能性が高い”。」
「地上観測、美星スペースガードセンターを含む
IAWNネットワークのデータ、
そしてJPL/CNEOSの軌道解析を総合すると――」
背後のスライドに、
砕けた石のCGが映し出される。
「Fragment Bはさらに砕け、
地球落下が懸念されるコアは
直径“約60メートル”。」
ざわめく各国代表たち。
アンナは、あえて平板な声で続けた。
「220メートルから120メートル、
そして60メートルへ。」
「“人類絶滅級”のリスクは
ほぼ回避されたと見ていい。」
「しかし、
60メートル級でも
広島型原爆の数百発分に相当する
衝突エネルギーです。」
「落下地点によっては、
大都市が致命傷を負う規模。」
次に映ったのは、
赤い帯のかかった地球の地図だった。
「最新のコリドー解析の結果、」
「この60メートル級コアの
“落下予測帯”は、」
「東アジア内陸部から
日本列島周辺にかけての
細い帯へと絞られつつあります。」
日本の窓の中で、
鷹岡サクラは黙ってその帯を見つめていた。
(ここが、
“世界の代わりに試されるかもしれない場所”
ってことね。)
《同会議・科学セッション》
続いて、JAXA/ISASの白鳥レイナが映る。
「JAXAプラネタリーディフェンスチームの
白鳥レイナです。」
「日本側からは、
美星スペースガードセンターを含む
国内観測ネットワークの結果を共有します。」
背後に、
美星スペースガードセンターの
夜空の写真とログが映る。
「ツクヨミ衝突後のフレア、
スピン状態の変化、
光度曲線の解析から、」
「オメガ破片の“石の心臓”は
確かに殴られたと見ています。」
「ただ――」
彼女は赤い帯の地図を示した。
「問題は、
“どこに落ちるか”の方です。」
「現時点ではまだ、
数百km単位の誤差があります。」
「IAWNネットワークを総動員しても、
“具体的な落下地点”が
数十kmスケールで分かるのは、」
「早くて“あと10日~2週間後”。」
各国代表の窓の中で、
それぞれがメモを取る。
「それまでの間、
プラネタリーディフェンスとして
“宇宙側で出来ること”は、
かなり限られてきます。」
「追加のキネティックインパクターを
今から設計・打ち上げる時間はない。」
「核オプションは、
物理的には議論の余地がありますが、」
「SMPAGでも“最終手段”として
検討リストに残すにとどめる、
というコンセンサスです。」
アンナが言葉を継ぐ。
「要するに、
“これ以上の大きなバットを
振り回す時間はもうない”。」
「私たちに出来るのは、」
「①観測を続けてコリドーを絞り込むこと。」
「②各国政府に
“いつ・どのくらいの精度で
何が分かるのか”を正確に伝えること。」
「③そして残りは、
“地上側の防災と避難計画”に
委ねることです。」
彼女は、
画面越しに各国の代表を見る。
「プラネタリーディフェンスは、
“空の上を守る仕事”でした。」
「ここから先は、
あなた方の国民を
どう守るかの話です。」
《同会議・政府代表ラウンド》
議長が、
各国代表に問いかける。
「では、
コリドーに含まれると見られる
各国の首脳・代表の方にお聞きします。」
「この状況を、
自国民にどう伝えるか。」
アメリカ大統領ルースが口を開いた。
「我々アメリカは、
“第二の矢ツクヨミは
技術的には成功した”という事実と、」
「“しかし落下リスクは
依然として残っている”という点を
明確に伝える。」
「幸い、
現時点のコリドーでは
北米大陸の直撃リスクは
相対的に低い。」
「だが、
それを“他人事”として扱うつもりはない。」
「東アジア、とりわけ日本が
リスクの中心に近づいているなら、」
「アメリカは同盟国として
最大限の技術支援と
人道支援の準備を進める。」
次に、
ヨーロッパ連合の代表が話す。
「EUとしては、
“世界規模の終末が遠のいた”という
希望を伝えながらも、」
「“どこか一地域が
甚大な被害を受ける可能性”が
むしろ現実味を増したことを
隠さない方針です。」
「市民には、
“感情的なパニック”ではなく、
“冷静な備え”を促します。」
議長が、日本に視線を向ける。
「日本国・鷹岡首相。」
サクラは、
一拍置いてからマイクをオンにした。
「……日本は今、
この赤い帯の“ど真ん中”に
立たされているように見えます。」
「科学的には、
まだ“必ず日本に落ちる”と
言える段階ではない。」
「でも“日本がコリドーの中にいる”ことは
事実です。」
各国の視線が集まる。
「私は、
自国民に対して
“危険があるのに
何も言わなかった”
リーダーにはなりたくない。」
「同時に、
“まだ分からない部分”まで
断定的に語って、」
「無用なパニックを生みたくもない。」
彼女は深く息をついた。
「ですから日本は、
“今日から毎日”、」
「政府として把握している
オメガの状況、コリドーの変化、」
「そして避難や備えに関する情報を
国民に向けて説明します。」
「“まとめて一週間分”ではなく、
“その日の分”を。」
「世界がどんな顔をしているかと同じように、
隕石の顔も“毎日変わっていく”のだから。」
ルースが
小さく頷くのが画面に映った。
議長がまとめる。
「……本日の結論として。」
「プラネタリーディフェンスとして
“宇宙側で打てる手は
ほぼ出し切った”。」
「ここから先は、
観測と情報共有、」
「そして各国が
“自国民に何をどう伝えるか”が
最大の課題になります。」
「IAWNとSMPAGは、
コリドー更新ごとに
速やかに各国へ通知する。」
「各国には、
“隠すか/見せるか”ではなく、
“どう見せるか”を
選んでほしい。」
会議は、
静かな緊張を残したまま
終了した。
《総理官邸・記者会見場/夕方》
照明の熱と、
記者たちのざわめき。
壇上に立つ鷹岡サクラは、
台本を見ずに前を向いた。
「――本日、
日本政府は
国際枠組みIAWN/SMPAG、」
「そしてNASA、JAXAをはじめとした
プラネタリーディフェンスの専門家と、」
「オメガ隕石に関する
緊急会議を行いました。」
フラッシュが光る。
「第二のキネティックインパクター“ツクヨミ”は、
オメガの破片に命中した可能性が高い。」
「その結果、
“人類全体が一度に滅びる”ような
最悪のシナリオは、
大きく遠のいたと考えられます。」
会見場に
かすかな安堵の空気が流れる。
しかしサクラは、
すぐに続けた。
「一方で――」
「オメガの“石の心臓”とも言える
直径60メートル級のコアが、」
「なお地球に向かっている
可能性が残っています。」
「最新の解析では、
その“落下予測帯”が、」
「東アジア内陸部から
日本列島周辺にかけての
細い帯へと絞られつつあります。」
会見場の空気が
一気に重くなる。
サクラは、
中学生にも届くよう
ゆっくりと言葉を選んだ。
「簡単に言うと――」
「“世界中どこに落ちるか
分からなかった状態”から、」
「“もし落ちるとしたら
このあたりの国のどこか”まで
絞られてきた、ということです。」
「日本もその中に、
はっきりと含まれています。」
ざわめき。
記者が手を挙げる。
「首相、
つまり“日本に落ちる”と
お考えですか?」
サクラは、
首を横に振った。
「“日本に落ちる”とも、
“絶対に落ちない”とも、
今は言えません。」
「分かっていることは、
“日本がそのゾーンの中にいる”こと。」
「そして、
“まだ数百km単位の誤差がある”こと。」
「落下地点が
もっと具体的に分かるのは、」
「早くても“あと10日~2週間後”と
専門家から説明を受けています。」
彼女は会場を見渡した。
「私は今日から、
“毎日”このマイクの前に立ちます。」
「隕石のことだけでなく、
避難の準備、インフラの状況、
学校や会社に関する方針――」
「その日その日に
お伝えできることを、
必ずお伝えします。」
「“知らなかった”と
言われることがないように。」
「そして、
“知らされたせいで無駄に不安になった”
とも言われないように。」
一瞬、
会見場のざわめきが収まった。
《同・会見後のSNS/テレビ》
会見を中継していたテレビ局が、
スタジオに戻る。
コメンテーターが
興奮気味に話す。
「“毎日会見”というのは、
かなり踏み込んだ決断ですね。」
「それだけ政府として
“コリドーの中心にいる自覚”が
あるということです。」
一方、
SNSでは別の空気が広がっていた。
〈日本終わった?〉
〈とりあえず海外行ける人は行った方がよくない?〉
〈#日本脱出 計画会議〉
〈東アジアのどこかに落ちる→日本にも十分ありえる→マジで逃げたい〉
旅行会社のサイトは、
一時的にアクセスが集中し、
「ただいま混み合っています」の表示。
ある人気インフルエンサーが
ライブ配信で叫ぶ。
「政府は“落ちるかどうか分からない”って
言ってるけどさ!」
「“コリドーのど真ん中にいます”
って自分で言ったんだよ!?」
「だったら俺は行くよ、
海外。
逃げられる奴だけでも逃げろよ!」
コメント欄は荒れた。
〈そうやって金とパスポートある奴だけ助かるんだ〉
〈逃げても意味ないって専門家言ってたぞ〉
〈日本脱出組 vs 残留組で分断されそう〉
テレビの情報番組でも、
“海外移住の相談急増”といった
特集が組まれ始める。
《総理官邸・執務室/夜》
サクラは、
SNSの状況をまとめたレポートに目を通していた。
「“日本脱出”……か。」
天野里香秘書官補が、
申し訳なさそうに言う。
「正直なところ、
“行ける人は行きたい”という気持ちも
分からなくはありません。」
「でも、
全員が出て行けるわけでもない。」
「そもそも
受け入れてくれる国だって
限られてますし……」
藤原危機管理監が
淡々と付け加える。
「空港と港を
“パニック避難”で埋められると、」
「本当に必要な物資輸送や
救援チームの動きが
止まります。」
「“出て行きたい人”を
完全に止めることはできませんが、」
「政府として
“日本脱出を推奨する”ような
メッセージは出せません。」
サクラは、
窓の外の夜空を見た。
(ここに残る人も、
出て行く人も、
どちらも“生きようとしている”だけ。)
(どちらかを敵にするような
メッセージだけは、絶対に出したくない。)
「……明日の会見で、
その話もします。」
サクラは静かに言った。
「“行くな”とも“行け”とも言わない。」
「でも、
“ここに残っても
できる限りのことをする”と、」
「“国として最後まで
責任を放棄しない”と、」
「それだけは
はっきり言おうと思います。」
机の端には、
今日の国際会議の議事録と、
「プラネタリーディフェンス」と
大きく書かれたファイル。
空の上の戦いは、
ほぼ打ち尽くされた。
ここから先は、
地上の1000万通りの決断の物語が
始まろうとしていた。
本作はフィクションであり、実在の団体・施設名は物語上の演出として登場します。実在の団体等が本作を推奨・保証するものではありません。
This is a work of fiction. Names of real organizations and facilities are used for realism only and do not imply endorsement.
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