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幼少期、痛覚を持たない人間になる実験体になった。それは成功し紛争、抗争の矢面に立たされ銃弾をひたすら浴びた。その過程でくっつかなくなった四肢は精巧に作られた機械になり、ぐちゃぐちゃになった臓器は培養され移植され続けた。かくして生命工学の全てが費やされたヒューマノイド試作体が誕生した。それが私。今、その実験施設から逃走しているが、追手がなかなかにしつこく迫ってくる。
「やばっ…!!」
弾切れの挙げ句、雨で濡れた路面にタイヤをとられスリップして転倒した。
囲め囲め!!
手下が捕獲器具を構えた時、 どこからか投げ込まれたフラッシュグレネードが煌々とはぜた。視界が眩むなか逃げようとすると、誰かに手を捕まれた。
「安心しろ!!敵じゃねぇ!!」
ようやく見えるようになった目でみると、ごく普通の青年。走りに走って雨がしのげる建物の軒下でとまった。
「ありがとう、助けてくれて…。」
「何であんな奴らに追われてるんだ??とりあえず中入ろ。」
開かれた扉の向こうは診療所で。
「今日はいつも以上に騒がしいかったな。」
「うん。この子が研究所のヒューマノイドにしつこく追いかけまわされててさ。」
「また厄介なヤツ助けたな。」
待ち合いスペースのソファから起き上がって、机に置いてあるウィスキーグラスを手に近づいてくる男。
「ただの医者…じゃなさそうね。」
「そうだな。医者だが便利屋の顔もある。」
「殺しにジゴロ、おつかいから子守りまでなんでもやるよ。」
「こいつはサイチ。ひょんなことから便利屋の仕事を手伝ってもらってる。俺はキクタだ。お嬢さんの名前は??」
「…。」
「まぁ無理して言わなくていい。何で奴らに追われてる??」
「それは…。」
サイチが外の気配を察知して、険しい目付きで私達を見る。キクタは手を引いて薬棚のいちばん下の引き戸の中に私を押し込んだ。
「ここに女が来なかったか。」
「(宵闇だ…。)」
宵闇は些細な気配も見逃さない。手で口を覆い息を殺し、その場を凌ぐ。
「来たぜ、緊急避妊薬がほしいって子がね。渡してほんの数分前に帰ったぞ。」
「何睨んでんだよ、キクタさんが嘘言うわけねぇだろ。」
「サイチ、事を荒立てるな。ほら、処方箋とサイン。」
「そうか。」
不服そうに返事をしたのが聞こえた。
「もういいぞ、狭かっただろ。」
引き戸が開いてキクタの手が伸びる。
「あんな奴いなかったのに。」
サイチは用心深く辺りを見回してドアを閉めた。
「まさか幹部じゃねぇだろうな。」
「要注意人物には変わりないわ。」
「マジかー。ここ絶対あいつらにマークされるぜ。」
「それより、濡れたままで寒いっしょ。」
「そうだったな、風呂準備するわ。」
「いや私はこう言うの平気…。」
「女の子は身体冷やしちゃダメなんだよ。」
サイチに背中を押されお風呂場に案内されて。
「(久しぶりに人間らしい扱いされたな…。)」
湯船に浸かりながら、掌でお湯をすくう。
「(逃げ出せたことは大きな一歩だわ。研究所もろとも終わらせてやる、私の手で。)」
すくったお湯に写る自分の顔は酷くやつれているけど。
「(回復したら早くここから出ていこう。)」
決心して湯船からあがった。