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雪遊び
新年を迎えた。ついに咲茉は年末に沖縄へのフライトの本番を迎え、3泊4日の滞在で無事に帰ってきた。この時も竜一たちからもらったブレスレットを着けて行ったそうだ。飛行機に対する恐怖心や過去のトラウマを完全ではないものの克服できた咲茉は、長距離の空の移動に以前よりも少し自信を持てるようになった。
数年振りに、30cm以上の積雪があった。一面の雪景色に保育ルームの子どもたちは大喜び。みんなで雪遊びをすることになり、竜一がまりあや雪にも声を掛けた。すると偶然まりあを見掛けた朋也と、中吉の弟や妹も一緒に遊ぶことになった。
「りゅう兄ちゃん!こたろー!」
「俺たちも来たよ!」
「きょうこも!」
子どもが増えて賑やかになった。
「まりあちゃーん!エマちゃーん!」
雪も合流した。
「ね、ねえっ、りゅう兄ちゃん!」
「どうしたの?末吉くん」
「あれ!あれ!」
「え?」
末吉が興奮気味に指差した先には咲茉の姿。
「あの人、女優の前木結羽ちゃんじゃない!?」
「ほんとだ!ゆうちゃんだ!」
「きょうこも知ってる!」
吉と恭子も目を輝かせる。
「あ、3人とも会うの初めて?結城さーん」
拓馬や数馬と雪だるまを作っていた咲茉が、自分を呼ぶ声に気付き、2人と手を繋いでこちらに来た。
「結城さん、紹介するね。この子たち、根津くんの弟の吉くんと末吉くん、妹の恭子ちゃん」
『初めましてだね。ゆうきえまです。よろしくね』
軽く屈んで小学生たちの目線に合わせて話す咲茉。
「えっ、まえきゆうじゃないの?」
『前木結羽は芸名なんだ。ほんとの名前は結城咲茉っていうの』
「本名も可愛い!えま姉ちゃんって呼んでもいい?」
『うん、もちろん!ありがとう。よろしくね』
咲茉が笑いかけると中吉の弟妹も嬉しそうに笑った。
「りゅうーっ!」
鷹に呼ばれ、竜一はその場を離れた。
「吉、末吉、恭子。くれぐれも前木結羽さんの本名を周りにバラしたりこの学校に通ってることを言いふらしたりするなよ」
中吉が釘をさす。
「「「うん!分かった!」」」
『ありがとう。……あ、ごめんね、ちょっと電話が掛かって来ちゃった』
「ん。いいよ。拓馬くんと数馬くん、結城さんが戻るまでこっちで遊ぼうか」
「あしょぶ!」
「かじゅまもあしょぶ…!」
『根津くん、ありがとう。……もしもし、“前木”です!』
咲茉が速足でその場を離れる。
「ゆうちゃん…、じゃなかった。えま姉ちゃんめちゃくちゃ可愛いな!」
「テレビで見るよりもっと可愛い!」
「今日はえまお姉ちゃんとも遊べて嬉しい!」
芸能人に会えてはしゃぐ中吉の弟妹に、朋也が今日も鼻血を垂らして幸せそうに笑う。
「実は俺、体育祭で結城さんをお姫様抱っこしたんだよね」
「えーーっ!何それずるい!!」
「へんたいがえま姉ちゃんを!?」
「ともやくんすごい!」
予想通りの反応。朋也の出血が更に増える。
「お前もう帰れ」
毎度のことだがやっぱり呆れる中吉。
「ごめんごめん。吉たちがどんな反応するのか見てみたくて」
鼻血を垂らしながら爽やかに笑う朋也。
『ごめんねー、戻りました』
「えまねえちゃ!」
「おねえちゃん…」
拓馬と数馬が咲茉にぎゅっと抱き着く。それを見てまた朋也が鼻血を垂らす。
『…わ!?山羊くんまた鼻血出てるの?こんな頻繁に鼻血出してたら貧血になっちゃうよ』
咲茉がポケットからティッシュを取り出して朋也に渡す。
「ありがとう。結城さんって、ほんと優しいよね。色白で美人で髪も色素薄いし目も宝石みたいに青くて綺麗だし」
『えっ?…あ、ありがとう…?』
突然自分を褒め始めた朋也に咲茉が戸惑う。
「雪の精みたいな結城さんが両手を拓馬くんと数馬くんと繋いでて…。3人まとめて天使みたいだなーって……」
言いながら、鼻に詰めたティッシュから血が滴り落ちる。キャパオーバーのようだ。
「おい、へんたい!ちっちゃい子だけじゃなくてえま姉ちゃん相手にまで鼻血出すな!」
「えま姉ちゃんは俺らが守る!」
吉と末吉が咲茉を庇うように朋也の前に立ちはだかる。中吉は弟たちが随分と勇敢になったものだと成長を嬉しく思いながらも、そんな勇敢な姿さえ朋也とっては鼻血の材料になってしまうのが分かっているので、あまり彼を煽らないでくれと内心頭を抱えた。
「えま姉ちゃん!へんたいは俺たちが食い止めるから逃げて!」
「きょうこ!えま姉ちゃんとあっちに逃げろ!」
「分かったー。えまお姉ちゃん、あっちで雪姉ちゃんたちと遊ぼ」
『えっ?う、うん。そうだね。…とりあえず、山羊くん、はいティッシュ』
咲茉が朋也に残りのティッシュを手渡し、恭子と手を繋いでその場を離れようとしたその時。
「へーちゃ、たほ(逮捕)ー!」
「たほ…」
きゅむ、と拓馬と数馬が朋也の脚にしがみついた。
ふっ……
二組の双子のあまりの可愛さに朋也が昇天した。
ドサッ!
『!?』
「きゃっ!」
咲茉と恭子が倒れた朋也の下敷きになってしまった。
『山羊くん!?山羊くん!』
「お兄ちゃん助けてー!」
「うわあきょうこー!」
「えま姉ちゃん!」
吉と末吉が必死で恭子を引っ張って朋也の腕の下から助け出す。しかし咲茉のほうは朋也に覆い被さられている範囲が広く、しかも意識を失った人間なので余計に重たくてびくともしない。
「おい、朋也起きろ」
中吉が朋也を引っぺがそうとするが、やはり重たい。でも上に乗っかられている咲茉はもっと重たくて苦しい筈だ。
中吉はもう一度朋也を退かそうと腕に力を入れた。
ぐいっ
朋也を持ち上げるその瞬間、不思議と朋也の身体が軽くなった。そして自分の隣にもう1人の影。
「…ったく。意識ない人間ってこんな重いのかよ」
「「はやと兄ちゃん!」」
隼が中吉と一緒に朋也を持ち上げていた。そしてある程度持ち上がったところで、ごろんと横に転がす。
『…あ、狼谷くん…』
「狼谷。ありがとう。助かった」
「べつに。お前もそいつのお守り大変だな」
中吉が朋也の鼻にティッシュを詰め直す。隼は パンパン、と手を払い、咲茉の手を握って身体を起こさせた。
『狼谷くん、ありがとう』
「ん」
「ごめんね、結城さん。痛いとこない?頭打ったりしなかった?」
『う、うん。大丈夫。雪がクッションになったおかげで重さの分埋もれて平気だったよ。恭子ちゃんは?』
「きょうこも大丈夫。乗っかってたの、ともやくんの腕だけだったから」
『よかった。びっくりしたね』
咲茉が可笑しそうに笑う。
「どこも打ってなくても冷たかったろ」
隼が咲茉の頭に付いた雪を手で払い除ける。
『確かに冷たかった。ありがとう』
ふにゃりと咲茉が笑い、隼が頬を少し赤くして顔を背けた。
「恭子ちゃん、結城さん、大丈夫?」
竜一たちが心配そうな顔をしてこちらに来た。
「うん、大丈夫」
『私も何ともないよ』
2人の返事を聞いて安心する一同。
「いや〜、でもはたから見てて、山羊クンがエマちゃん押し倒してるように見えてさ。わーお大胆って思っちゃった」
兎田がケラケラと笑う。
「「え?へんたいがきょうことえま姉ちゃんの上に倒れたんだから、そうじゃないの?」」
“押し倒す”の意味をよく分かっていない吉と末吉が不思議そうな顔をした。
「おい兎田。てめえくだらねえこと言ってんじゃねえぞ」
隼が鋭い目つきで兎田を睨む。
「あー、はいはい。スミマセンデシタ。…ほら、みんなで雪遊びするんじゃないの?」
「ゆちがっせんするじょ!」
「するー!」
「おねえちゃまたち、いっちょにゆきだゆまつくりまちょ! 」
「ゆきだんま…」
再びテンションの上がる子どもたち。
「楽しそう!俺も交ぜて」
「あっ、へんたいが復活した」
意識を取り戻した朋也。鼻血は止まったようだ。
「朋也。まずは結城さんと恭子を巻き込んで倒れたこと、ちゃんと謝れ」
「えっ、そうだったの?ごめんね、恭子ちゃん。結城さんも」
「いいよ」
『気にしてないから大丈夫だよ』
「エマちゃんは、ちょっとは気にしよう」
兎田がボソリと突っ込みを入れた。
みんなで雪合戦をすることになり、雪玉を量産していく。
「…おい、山羊。お前そっちのチーム入れよ」
「俺?いいけど」
「えーっ!なんでへんたいなんか」
「いらないよっ!」
ぶうぶう文句を言う根津家の双子。
「本気でぶつけられる相手いねえと俺がつまんねえだろ」
「えっ」
「…じゃ、いくぞ」
隼が大きく振り被った。
「え、ちょっ、待っ……」
ビュンッ
パアン!
ドサドサッ
隼の投げた雪玉をギリギリのところで躱す朋也。雪玉が後ろの木に勢いよく当たり、枝に積もった雪が落ちる。
「…へえ。上手く避けたな」
隼が口元に笑みを浮かべる。
「はやと兄ちゃんすげえ!」
「俺たちとも勝負だ!」
吉と末吉もやる気満々で隼のチームに向かって雪玉を投げる。
「まけないじょ!」
「えーい!」
保育ルームの子どもたちも雪玉を投げるが、すぐにぺしょんとその辺に落ちてしまう。
「ゔっ!かわいい……!」
また鼻血を吹いて倒れる朋也。
「まりあちゃん、恭子ちゃん、行くよーっ!」
「いの姉ちゃん、こっちも投げよう!」
「そ、そうね!」
「きりんもまけましぇんよ!ねっ、えまおねえちゃま、ゆきねえちゃま」
『うん!』
女子組は女子組で楽しんでいる。
雪合戦の後は雪だるま作り。狼谷兄弟が作ったのはボールやバットをめり込ませた野球雪だるま。虎太郎は小さな雪だるまを大量に作り、ちょっと怖いと苦笑いする竜一。女子組が作ったのはおもちゃのネックレスやままごとセットの食材をくっつけた雪だるま。 根津兄弟は立派な滑り台を造り、そこを子どもたちが楽しそうに滑る。そしてその様子を、鼻にティッシュを詰めた朋也が幸せそうに写真におさめる。兎田は鹿島兄弟の雪像を造り、最早“雪だるま作り”ではなくなった。
「大分長い時間雪で遊んで身体冷えてきたし、そろそろ中に入ろっか」
「そうですね」
兎田の提案に竜一が賛同する。
「えーっ!」
「まだ遊ぼうよー!」
「おでもまだおへやはいんねえじょ!」
子どもたちは半分くらいがまだ室内に入るのを嫌がる。
『あったかいココアでも淹れて、みんなで飲もうよ』
「ココア!?」
「飲む!」
「のむーっ!」
咲茉の言葉にあっという間に室内に入る気になる子どもたち。
こうして楽しい雪遊びは幕を閉じた。
調理部のまりあが調理室から大きめの片手鍋を借りてきてくれて、保育ルームのキッチンで咲茉がココアを作る。待っている間、他のメンバーは部屋の暖房やストーブで身体を温めている。
「結城」
『あ、狼谷くん』
「向こう持ってくの手伝う」
『ありがとう』
そこで隼はマグカップやおたまを持つ咲茉の手が真っ赤になっているのに気が付いた。
「…お前、手、どうした?やたら赤いな」
『雪遊びに夢中になっちゃって。私の手袋、撥水加工されてないから雪の水分がしみてきて冷えちゃったの』
「しもやけするぞ」
人数分の最後のマグカップをお盆に乗せた咲茉の手を、隼がそっと包んだ。火の傍で鍋を掻き回してココアを作っていた筈なのに、その手はまだまだ冷たかった。
『狼谷くんの手、あったかい…』
ほっとしたように笑顔を浮かべる咲茉。隼の心臓がドクンと大きく脈打つ。
「…っ…、まあ、俺体温高えから…」
自分でもよく分からないことを言いながら、隼は咲茉の手を握る手に少し力を込めた。
『……も、もう大丈夫だよ。ありがとう。ココア冷めないうちにみんなのとこ持って行こ』
「…ああ、そうだな」
隼と咲茉が2つのお盆を持ってキッチンスペースを後にした。
『お待たせ〜。ココアできたよ。熱いから気を付けて飲んでね』
「ありがとう! 」
「めっちゃいいにおい!」
「えまおねえちゃま、ありがとうごじゃいましゅ!」
「狼谷もありがとう。ごめんな、運ぶの手伝えなくて」
「気にすんな」
みんなでココアを口に含む。保育ルームの幼児には少し冷めたものを配ったので火傷の心配はなさそうだ。
「わっ、美味しい!エマちゃん後で作り方教えて!」
『うん、いいよ』
「中吉兄ちゃんの作るココアがいちばん美味しいって思ってたけどえま姉ちゃんのココアも同じくらい美味しい!」
『そう?それは光栄だなあ』
ココアを飲んで、身体の芯から温まった一同だった。
つづく
コメント
1件
わあ、もう第26話なんですね!雪遊びのシーン、とっても賑やかで微笑ましかったです☃️ 子どもたちが咲茉さんのことを「えま姉ちゃん」って呼んで懐いてるのが可愛くて…芸能人としてだけじゃなくて、普通のお姉さんみたいに距離が縮まってる感じがほっこりしました。 隼くんが咲茉さんの冷えた手を包み込むところ、すごくドキドキしました。「俺体温高えから」って照れ隠ししつつ力を込めるところが、彼らしい不器用な優しさだなあって。最後のココアの温かさが、みんなの心にも沁みわたってるのが伝わってくるエピソードでした🌷
ちろりーぬ
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なーさん。です
200