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ちろりーぬ
164
なーさん。です
200
恋情
森ノ宮学園高等部に来て、もうすぐ丸2年。
私・結城咲茉には好きな人ができました。
野球部とベビーシッター部を兼部の狼谷隼くん。彼との出会いは高等部の入学式のあの日。ぶつかってよろけた私の腕を掴んで、転ぶのを阻止してくれた。
鋭い目つきに無愛想な態度、表情もあまり変わらない。周りの女の子たちはそんな彼を見て少し怖いと言うけれど、私も最初はほんのちょっとだけそう思ったけれど。そんな印象は私がベビーシッター部に入部してすぐに払拭された。
狼谷くんはいつも淡々としているし弟の鷹くんやスタッフの兎田さんにすぐげんこつを食らわせるけれど、ほんとはすごく優しくて、何だかんだ面倒見がいい。
家まで送り届けてくれたり、夏休みの練習中に倒れた私を保健室まで連れて行って、先生が戻ってくるまで傍にいてくれたり。バイト先でストーカーと化したお客様と私が口論になって手を上げられそうになった時も、その人に誘拐された時だって鹿島くんと一緒に助け出してくれた。
いつも助けてくれる。いつも力になってくれる。支えてくれる。大好きな“友達”。だからバレンタインには(1日遅れだったけれど)マフィンを焼いて狼谷くんに渡した。前にチョコレートは甘いからあんまり好きじゃないと言っていたからビターチョコを使って、生地も甘さ控えめで作ったマフィン。そのお返しに狼谷くんがホワイトデーにくれたのは、星の形の瓶に詰められたカラフルな金平糖。
春休みの練習中に吹部の仲間が話していたのを聞いた。バレンタインにもホワイトデーにも、渡すお菓子の種類で意味が異なる、と。ちょっと気になって後で調べたら(まあサイトによって若干変わるけれど)、マフィンには“あなたは特別な存在”、“本命の相手へお勧め”と書いてあった。そんなの知らずにマフィンを焼いて狼谷くんに渡しちゃった。でも、狼谷くんは鹿島くんとは違うけれど特別大好きな友達だから、あながち間違いではないし…、と思いながらついでに金平糖の意味も調べた。そしたらこっちは“あなたのことが好き”と書いてあって。心臓がはち切れそうなくらいバクバクと音を立て始めた。
私が狼谷くんを他の男の人と違うふうに意識するようになったのは、多分そのことがきっかけだと思う。
狼谷くんは何を思って金平糖を選んでくれたの?ただ、星の形の瓶が私が好きそうだと思ったから?それとも…、狼谷くんもお菓子によって意味が変わるのを知っていて、調べた上で敢えて金平糖を選んでくれたの?
分からない。彼の考えていることが。
でも狼谷くんは優しい。いつだって優しい。
私が作り方を教えた花冠を、鹿島くんと作って私にもプレゼントしてくれた。
ひょんなことからテレビのお仕事をするようになった時も無理してないかと気に掛けてくれた。
野球部の夏の大会では2試合目から吹部も同行して演奏で応援。惜しくも負けてしまって、学園に戻ってきてから泣いてしまった私に、“かっ飛ばせ狼谷”と叫んだ私の声がちゃんと聞こえてたって言って頭を撫でてくれた。悔しいのは狼谷くんたちなのに。
体育祭のマーチングでカラーガードをすることになった私の練習を、成功するまで見届けてくれた。
遠足の終わりに観覧車に乗った時は2人っきりでドキドキして。向かいに座る狼谷くんの顔がまともに見られなくて、私は窓の外の景色ばっかり眺めていた。観覧車を降りる時には手を差し伸べてくれて、そんなことを自然とできる彼の優しさにまたドキドキしてしまった。
兎田さんと鹿島くんと狼谷くんで、パワーストーンのブレスレットを作ってプレゼントしてくれた。使われた石の名前や効果が記載されたカードを見ると、どれも“精神の安定”とか“成功や勝利”とか“心の平穏”、“幸運”と書いてあって。3人がトラウマを克服する為に沖縄へのフライト練習をする私のことを気に掛けてくれているのが伝わってきて嬉しくて涙が出てきてしまった。沖縄まで飛行機に乗る練習は無事に終わって帰って来られて、狼谷くんが“おかえり”と言って頭を撫でてくれた時はまたドキドキして、でもとっても嬉しかった。それ以来、3人からもらったブレスレットは私の宝物でお守りになったの。
狼谷先生が風邪を引いてうどんを作りにお邪魔した時は、男の子の、しかも好きになった人のお家にいるっていう状況にものすごく緊張した。でも、狼谷くんも鷹くんも、狼谷先生も、私が作った料理を美味しいって言って食べてくれて。狼谷家の人たちの役に立てたのが本当に嬉しかった。
みんなで雪遊びした時は、吉くんたちや数馬くんたちの可愛さに気を失ってしまった山羊くんの下敷きにされた私を根津くんと一緒に助け出してくれて、腕を引っ張って雪の中から起こしてくれた。そしてその後保育ルームでココアを作っている時に、みんなのところへ持って行くのを手伝うと声を掛けてくれた。そして雪で冷えきっていた私の手を、狼谷くんは大きくてがっしりした手で包み込んで温めてくれた。
好き。大好き。私、狼谷くんのことが好き。
狼谷くんは私のこと、どう思っているんだろう。ただの部活の仲間かな。世話の焼ける相手かな。数ある可能性の中で、どうしても、彼が自分と同じ気持ちでいてくれることへの希望が捨てきれない。そんなの、厚かましいにも程があるって分かっているのに……。
狼谷くんは優しくて格好いい。スポーツも万能で野球に対して一生懸命で。女の子たちからの人気も高い。そんなの私だって知っている。でも正直、クラスは違っても同じ部活で一緒に過ごせる時間が嬉しくて堪らない。
平常心でいなくちゃ。好きだって知られたら、どんな顔をして狼谷くんに会ったらいいのか分からない。
今の関係が壊れるのが怖くて、何のアクションも起こせないまま、私の高校2年生が終わろうとしていた。
つづく
コメント
1件
うわああ…咲茉ちゃんの“好き”が確信に変わっていく瞬間、すごく丁寧に描かれてて胸がぎゅってなったよ🥺💔 マフィン→金平糖のやりとり、あれって絶対両想いフラグだよね??観覧車で顔見られないのも、手を温められたシーンも、全部が切なくて甘酸っぱい…! でも「今の関係が壊れるのが怖い」って気持ち、すごくわかるなあ。狼谷くん、優しすぎて“友達の優しさ”と“特別な優しさ”の境界がわからなくて、咲茉ちゃんが悩むの当然だよ…。 次が気になって仕方ないです…!続き、待ってます🌙🤍