私は小さい頃からなんでも完璧にこなせていた。
「美咲はお利口さんだねぇ。」
私は小さい頃から美人だった。
「美咲はべっぴんさんだねぇ。これは町の人もみんな美咲に注目するわけだ。」
私は小さい頃から何事にも必死だった。
「ねぇ、ちゃんとやろうよ。全然完璧じゃないよ」
ただ、自分が”完璧”だから、周りにも”カンペキ”を求めるようになった。
それが間違いだった。
いつしか、世間全体的に知られるアイドルを目指すようになった。周りのみんなは応援してくれて、やっとアイドルになれた。
けどそれは物凄く小さな事務所で有名になれるかどうか程遠かった。
グループアイドルで、みんな芸歴があったり、養成所に入っていたりと経験豊富ですごく期待していたのに1人だけぽつんと、その期待を裏切る子が居た。
竿味千紗。この子は弱気で何も出来なくて、いつも私達の足を引っ張ってばかりだった。
でも、ほかのメンバーや私みたいにこの子にも輝いてもらいたいと思っていて、いつしかその子に”カンペキ”を求め強く当たるようになってしまった。それからというもの千紗はグループの標的となった。
「ねぇ千紗。コーラ買ってきてよ。」
グループのメンバーのリコがそう言った。
買いに行かなくていいよ。自分で行かせればいいよ。
今思えばグループのリーダーとしてこのような声がけをしても良かった。
「うん…買ってくるね…」
「っ…」
優しすぎる。か弱すぎる。この子は、絶対に私たちと同じ位には立てない。そう思ってしまった。
あるライブの時、千紗はこう言った。
「…美咲ちゃんはいいよね…人気あるし…」
「はぁ、…?」
こんな時まで、自分にないものねだりかよ。もうちょっと自信つけろよ。
ほんとにムカつく。
私が不機嫌にしてるのを見たリコは
「ほーら美咲、千紗いくよ!!!」
と言った。
ライブが終盤になり、私たちはいつもと同じようにヲタクに対して
「今日もありがとう!」
「楽しかったー?」
などと声をかける。ただ、千紗だけは違った。
「わたし、千紗は今日をもってこのグループを脱退致します。」
会場は困惑していた。そりゃそうだ、だってメンバーでも知らなかった事だったから。
千紗は私からの精神的な攻撃や、グループイジメを原因で辞めたんだと思う。でもそれは千紗の激しい思い込みで、虐めなどはしていなかった。
それで言うと、私は千紗のことを大切に思っていた。
千紗が居なくなって2ヶ月、私たちのグループ「ナイトガーデンLove」は解散した。
元々人気があった訳では無いから解散しても何も変わらなかった 。
それから私はキャバクラで働いたり、言わば夜の仕事に就いた。アイドル時代、どの時間帯でも 「おはようございます」というのが礼儀だったので「こんばんは」という挨拶に慣れなかった。
そんな中千紗がテレビに出ているのが目に入った。
またアイドルを始めているのかと少し複雑な気持ちになったが、 歌って踊って笑顔を見せて、楽しそうな千紗を見ていると少し安心できた。
「負けたくない…」
元々負けず嫌いの私は千紗に先を越されて少し不安も感じて、またアイドルを始めると決意した。
そして、「いま話題のアイドル」と言われるほどの名を持った。
ちさみたいに「人気のアイドル」とは言われないけど…
私は千紗とまた同じステージに立ちたいと思った。でも、そのまま言うのは恥ずかしさがあり「ライブバトル」と称してコラボに誘った。千紗のマネージャーはすぐに受け入れてくれて、でもそれは千紗がアイドルとしての最後のライブだと知らされた。
そしてそのライブ当日。
私が先にステージ立っていると、キラキラとしたオーラを放つ千紗が目の前に現れた。
ダメだ…勝てるわけが無い…
「久しぶり千紗。」
私も、少しは成長したんだよ?という思いものせてニコッと笑いかける。
そんな私を見た千紗は、少し顔は引き攣っているが笑顔を見せた。
1曲目は千紗が歌う番だった。
すごく通る綺麗な歌声。あの時とは全く違う。ほんとに成長したんだなぁと、
“トンビが鷹を産む”と言う言葉があるように、
私は元々優れていたけど傍から見たら平凡なトンビ、千紗はものすごく輝くスーパーアイドルの鷹。
このことわざの意味がやっと理解が出来た。
ただ、私も負けてられない。
パンチの効いた歌声でこの大きな会場を魅了してやる。
歌いながら激しいダンスをする。これはもう慣れたもんだったけど大勢を前にしたら少し緊張もした。でも何とか歌いきる。
隣を見ると少し千紗の調子がおかしいようだった。そんな時
「千紗ちゃん!頑張ってー!!!!」
と声がした。
「頑張るよー!!!」と千紗。
やっぱり凄いなぁ。この千紗をアイドルじゃないとは言えない。これは”完璧”なアイドルだ。
さっきまであった私色のサイリウムは千紗のサイリウムの色で埋め尽くされていた。
投票結果発表。
正直負けたと思った。でも引きわけで終わった。平和な終わり方だけど、私は少し悔しさを感じた。
負けるなら堂々と負けたかった。キラキラと輝いている正真正銘アイドルの千紗と、話題になってるだけのただのアイドルの私が同じ位に立てているのが自分自身憎かった。
千紗も悔しそうな表情を浮かべていた。
「みんな…私とミーこのライブどうだった?」
「もうみんな知ってると思うけど、私は今日このライブでみんなとお別れします。」
観客席では鼻を啜る音や泣き声が聞こえる。
「私は、みんなにいっぱいの幸せをもらいました。
私が辛い時だってみんなは私を笑顔にしてくれた。でも、私もみんなに笑顔を届けられました。それが私の一番の幸せです。」
「わたし千紗は、10年、20年、その先の100年や1000年を超えても、ずっとあなたのアイドルです。」
そう言って千紗は私にマイクを渡した。マイクが握られていたその手は汗まみれで、手が震えていて、でも顔は笑顔で引退するのにも関わらず涙ひとつも見せなかった。
その笑顔を私にも向けた。でもそれは私を嘲笑うようにも見えた。
憎い。悔しい。悲しい。嬉しい。
そっか、千紗は私のことが嫌いで仕方がなかったんだ…
一時、あのグループにいた時千紗を邪魔だと思っていた。でも、絆はあると思っていた。ただ私たちが舞い上がって千紗がついていけてなかっただけだったんだ。
ごめんなさい千紗。
私はあなたの事を何も出来ないと思っていたけどそんなことは無かった。
何も出来ていなかったのは私の方だったんだね。
本人に直接謝りたいのに、千紗は芸能界をも引退してしまい、その千紗という輝きを失った芸能界は少しどんよりした空気だった。
「負けない。」
見てな。次は私がこの芸能界を輝かせて見せるから
-美咲の思い-
コメント
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美咲ちゃんの思いを知りながらも千紗ちゃん視点のストーリー読み返すと更に面白くなる(( やっぱ人って影響されるんだなあって改めて思った、美咲ちゃんが芸能界を輝かせるアイドルになれることを私は祈ってます、!!!(