テラーノベル
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12話目もよろしくお願いします!
スタートヽ(*^ω^*)ノ
ふかふかのソファに横たわるレトルトの頭を、自分の太ももにそっと乗せて――
キヨは優しく、ゆっくりとその髪を撫でていた。
テレビでは、洋画のラブコメディが流れている。
だがキヨの視線は、画面よりもずっと、レトルトの横顔に注がれていた。
「気持ちよくて寝そう……」
『寝てもいいよ。起きるまで撫でてる』
「キヨくんの手、気持ちええなぁ」
レトルトの目はとろんとしていて、柔らかく笑っていた。
キヨはふと、細い首筋に目を落とす。
昨夜つけた、小さな赤い痕――
その存在を見つけて、少しだけいたずらっぽく笑った。
『……やっぱ俺、独占欲強いな』
「ふふ、知ってる……」
ぽそりと返されたその言葉が可愛くて、キヨはまた指先で髪を梳いた。
『なぁ、レトさん』
「ん……?」
『今、俺すげぇ幸せだわ。ずっとこうしてたい』
その言葉に、レトルトは照れくさそうに目をそらした。
でも、膝の上の位置から離れようとはしない。
ちょうどそんなタイミングだった。
――♪プルルルル……
静かな室内に鳴り響いたスマホの音に、2人ともぴくりと肩を揺らす。
『うわっ……ガッチさんだ』
キヨがスマホを手に取り、通話ボタンを押す。
「やっと出た!何回かけたと思ってんだ、キヨ!!今どこにいる?」
『……今、レトさんち。ちょっとだけ休んでただけ。なんかあった?』
「“ちょっとだけ”が8時間ってどういうことだよ。今すぐ資料に目通して、夕方までに報告あげてくれ。お前が止まってるせいでプロジェクト進んでないんだぞ!」
『……うわ、マジか……』
キヨは小さく呻いて、ソファの背にもたれた。
レトルトはそのやり取りを見上げて、不安そうに覗き込む。
「……行かなきゃ…いけないの?」
『んー……行きたくない。けど、行く』
通話を切って、キヨはレトルトの髪をもう一度優しく撫でた。
『仕事、ちゃんと終わらせてくる。また、すぐ会えるようにするから』
レトルトは小さく頷く。
「うん……待ってる」
名残惜しそうに体を起こすキヨの腕を、レトルトがそっと掴んで――
一瞬だけ、引き寄せてキスをした。
「頑張ってね、キヨくん」
『……頑張れる。レトさんがいるから』
キヨは少し寂しそうに笑って、立ち上がった。
仕事と、恋と。
どちらも本気で向き合おうとしているキヨの背中を、
レトルトは名残惜しそうに見送った。
キヨが玄関の扉を閉めた瞬間――
レトルトの部屋に、しん…と静寂が戻ってきた。
数秒前まで、温もりがあった。
何気ない会話や笑い声、撫でられる感触、
そして、何よりあの真っ直ぐな視線が、そこに確かにあったのに。
「……行っちゃった」
レトルトはソファに座ったまま、ぼんやりとドアを見つめる。
肌に残るキヨの香りと、体温の余韻がやけに生々しくて――
逆に、それが今いないことを強く突きつけてくる。
枕を抱きしめて、顔をうずめる。
「キヨくん…」
小さな声がこぼれる。
昨日の夜も、今朝も、キヨがいてくれて嬉しかったのに。
今たった数分離れただけで、こんなに胸がぽっかりするなんて。
「……依存してんの、俺の方じゃん……」
そうつぶやいて、レトルトはスマホを手に取った。
でも、キヨにすぐ「寂しい」なんて送るのは癪で――
代わりに、昨晩一緒に撮った写真を見返す。
膝枕中のレトルトを上から撮ったキヨの写真。
不意打ちで撮られて、「やめてよ」と言いながらも笑っていた自分。
その笑顔が、今の自分とあまりにも違っていて、
苦笑してスマホを胸に抱いた。
「……次はいつ会えるかなぁ」
会いたい。
でも、重いって思われたらどうしよう。
言えない。
でも、伝えたい。
ぐるぐる巡る思考を止めたくて、
レトルトはクッションをぎゅっと抱きしめた。
キヨの声が聞きたい。
あの低くてちょっと甘い、意地悪そうで優しい声。
「……キヨくん……」
つぶやいたその名は、
ただ静かに部屋の空気に溶けていった。
「……もう、ダメや……やっぱ無理……」
ソファに突っ伏しながら、レトルトはスマホを握りしめる。
ついさっきまで一緒にいたキヨの気配が消えて、部屋は妙に広くて、静かすぎる。
おまけに、フレンチトーストの甘い香りだけが部屋に残っていて、余計に寂しさが増していく。
「……うっしー……」
半ば反射的にLINEを開いてメッセージを打った。
《ねぇ、今暇〜?ゲームしない?》
いくら親友とはいえ、急すぎたかもしれない
なんて思っていると、
《しかたねぇな》
《15分で行く》
という返事と共に、スタンプの牛のキャラが「ダッシュ!」していた。
レトルトはその画面を見て、ぽつりと笑った。
⸻
15分後。
ピンポーン、とチャイムが鳴る。
ドアを開けると、そこには袋をいくつも抱えた牛沢がいた。
「おう、おまたせ。途中でコンビニ寄ったらつい色々買っちゃったわ!レトルトの好きなやつ買ってきてやったぞ。感謝しろよ?」
「流石、俺の親友やな!分かってるやん!」
「当たり前だろ?何年親友様やってると思ってんだよ」
悪戯っぽくニヤリと笑ううっしー。
「…………うるさい笑」
顔を逸らしつつも、受け取ったコンビニ袋の重さが、なんだか心に沁みた。
リビングに並んだのは、プリンにポテチにチョコレート、ジュース、アイス、そして……エナドリ2本。
「これでゲーム何時間でも出来るぞー!今日はレトルトが満足するまで付き合うからな!」
「持つべきものは友達やな!うっしー、ありがとう!今日は絶対負けないからな! 」
沈んだ気持ちが嘘のように晴れ上がり
親友うっしーとゲームに夢中になるレトルトだった。
⸻
テレビをつけて、ゲームを起動する。
レトルトのいつものポジション、ソファの真ん中に座ると、牛沢が横にストンと腰を下ろす。
画面のキャラがジャンプするたびに、レトルトの顔も次第に明るさを取り戻していく。
心の隙間を、昔から知る親友がそっと埋めてくれる。
でも、レトルトはまだ知らない。
その後ろで――スマホが震え始めていることを。
『キヨくん』の名前が、画面に光っていた。
つづく
コメント
3件
顔がにやけて戻りません!
この続きが気になる書き方最高です、、