【side 涼太】
「…一体、どこへ向かってる?」
宮舘の静かな問いに、車内の空気が凍りついた。康二が必死に誤魔化そうとするが、宮舘はもう騙されない。彼は、ただまっすぐに、バックミラー越しに岩本の目を見つめ続けていた。そして、さらに確信に満ちた、決定的な一言を放った。
「…ねぇ。もしかして、翔太に会わせようとしてる…?」
その言葉は、もはや質問ではなかった。図星を突かれた康二は「ひっ…」と息を呑み、岩本はぐっと唇を引き結ぶ。沈黙が、肯定を意味していた。
宮舘は、ふぅ、と長い息を吐き、静かに目を閉じた。
(…やっぱり、そうか)
このお節介で、不器用で、どうしようもなく温かい男たちが、自分たちのために何かを企んでいることには薄々気づいていた。
だが、それが、こんなにも大掛かりなことだとは思っていなかった。
「…頼むから、今すぐ引き返してくれ」
宮舘は、目を開けずに、静かに、しかし、はっきりとした口調で言った。
「今の俺は、翔太に会える状態じゃない」
【side 翔太】
一方、その頃。深澤たちの車内でも、似たような状況が繰り広げられていた。
「…お前ら、なんなんだよ、今日…」
渡辺は、後部座席でふてくされたように腕を組み、窓の外を眺めていた。このルートには、見覚えがある。昔、まだJr.だった頃、メンバーと、そして…涼太と、よく遊びに来た場所へと続く道だ。
嫌な予感が、胸をよぎる。
渡辺は、助手席の深澤の肩を、ぐいと掴んだ。
「…なぁ、ふっか」
その声は、自分でも驚くほど低く、怒りを抑え込んでいた。
「この先に涼太を連れて行くとか、言わないよな?」
その言葉に、運転していた阿部の肩が、びくりと跳ねる。深澤は「えーっと、なんのことかなー?」と、わざとらしく目を泳がせた。
その態度で、渡辺は全てを確信した。
「…ふざけんなよ」
渡辺は、シートを蹴り飛ばさんばかりの勢いで叫んだ。
「今、あいつに会って、何話せって言うんだよ!また喧嘩になるだけだぞ!俺は行かねぇ!今すぐ降ろせ!」
車内で、渡辺は暴れ始めた。
【裏側】
その、ほぼ同じタイミング。
康二は、宮舘に気づかれないよう、こっそりとスマホを取り出し、深澤に短いメッセージを送っていた。
『ふっかさん、ヤバい!舘様にバレた!「引き返せ」って言われてる!そっちはどう!?』
数秒後、深澤からも、焦りに満ちた返信が届く。
『こっちもだ!翔太が大暴れ!「降ろせ」の一点張り!作戦、失敗かも!』
それぞれの車の中で、最大の壁にぶち当たる。作戦は、目的地を目前にして、完全に暗礁に乗り上げてしまった。
コメント
8件
ゆり組(T-T)

やっぱ引き込まれるような作品ですね! つい見合っちゃいます! 続き楽しみです!!