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アスミは倒れたまま、夜の静けさに包まれていた。冷たいアスファルトの感触が背中に広がり、どこか意識が遠のきかけていた。だがふいに、近づく車のライトが視界の端にぼんやりと映り込んだ。ゆっくりと明るさが増し、車はアスミのすぐそばで止まる。ぎりぎりで彼女を避けるように少し横に寄り、静かにエンジン音が低く鳴り響いていた。
「大丈夫か?!」
ドアが開く音に続いて、男性の強い声が響いた。その声に呼び戻されるように、アスミの意識が少しずつ浮かび上がってくる。いつの間にか体も動くようになっていた。ゆっくりと顔を上げると、男がこちらに近づいてくるのが見えた。
「大丈夫かね?」
少し訛った方言混じりの言葉に、アスミはこの男性が同じ地域の人だと感じた。どこか懐かしい響きに、意識がさらにはっきりとしていく。
「あなたこそ……」
アスミは驚いた。声が出たのだ。自分で口を動かし、言葉を発したことに少しばかりの感動すら覚えた。さっきまで体が動かせないような気がしていたのに、何かが目覚めたかのようだった。
「うわ、顔に怪我しとるやないか。病院行こか」
柔らかな声で男性は続ける。見上げると、彼はまだ若いようだが、その表情にはどこか穏やかな落ち着きがあった。
彼は携帯を取り出すと、すぐに救急に連絡を取り始めた。
「もしもし、救急お願いしたいんですけど……ええ。あ……1時間かかる? 〇〇病院ですね、わかりました」
電話を切ると、彼は再びアスミに目を向けた。その視線には心配の色が濃く、彼のまなざしに不思議な安心感が宿っているように感じた。
「病院行くから、僕の車に乗って」
その言葉とともに彼はそっとアスミを抱き上げた。彼女の体が自然にその腕に預けられる。助手席に運ばれる間、彼の腕に感じる温もりに、自分がまだここに生きているという実感がじわじわと胸に広がった。
このまま誰にも気づかれず朝を迎えていたら、彼女はこの場所でただの孤独な影として消え去っていたかもしれない。
その考えが頭をよぎり、冷たく締め付けられるような感覚が胸に刺さった。しかし、今は違う。車の中で彼の温かい視線に包まれたことで、希望がかすかに灯っているように感じられた。