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それは、最初から嘘だった。
そう思うまでに、
少し時間がかかった。
最初は、
忘れただけだと思っていた。
忙しかったし、
考えないようにしていたし、
大事なことほど、後回しにする癖がある。
だから、思い出せなくても不思議じゃない。
でも、
「思い出せない」のではなく、
「思い出そうとしていない」
のだと気づいたとき、
胸の奥が、静かに冷えた。
私は、知っていたはずだった。
何を、とは言えない。
言葉にした瞬間、
壊れてしまう気がしたから。
日常は、何も変わらない。
朝起きて、学校に行って、
当たり前の会話をする。
誰も疑っていない。
疑われてもいない。
それが、一番怖かった。
ある日、
引き出しの奥から、
見覚えのないメモが出てきた。
自分の字だった。
短い文章。
走り書き。
でも、内容だけが、
どうしても理解できない。
「もう一度、考えるな」
誰に向けた言葉なのか、
すぐに分かった。
私自身だ。
その紙を見た瞬間、
頭の中で、
何かが確定してしまった。
私は、
忘れたんじゃない。
忘れることを、
選んだのだ。
思い出したら、
元には戻れない。
だから、
最初から知らなかったことにした。
そのほうが、
生きやすい。
理由は、
まだ思い出せない。
でも、
思い出さない理由だけは、
はっきりしている。
それが、
優しさだったのか、
卑怯さだったのか。
判断するには、
もう遅い。
夜、
メモを破って捨てた。
ゴミ箱の中で、
紙はきれいに折れ曲がっていた。
まるで、
最初から存在しなかったみたいに。
布団に入ると、
胸の奥が、
少しだけ軽くなった。
これでいい。
私は、
何も知らない。
そう言い聞かせながら、
目を閉じる。
明日も、
同じ日常が続く。
その日常が、
嘘の上に立っていることを、
私はちゃんと知っている。
知っていたはずだった。