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🌸第15話 すれ違い
数日後の午後。
ひよりは授業を終えて、
キャンパスの中庭をゆっくり歩いていた。
風が吹いて、
木々の葉がさらさらと揺れる。
……今日、陽くんゼミ長引くって言ってたな)
そんなことを考えながら歩いていると──
前から数人の男子が歩いてくるのが見えた。
楽しそうに話しながら、笑い声が近づいてくる。
ひよりは自然と視線をそらそうとした。
でも。
その中の一人がふっと笑った瞬間、
胸の奥が ずきっ と痛んだ。
食堂で感じた、あの痛み。
理由の分からない、胸の奥のざわつき。
ひよりは立ち止まりそうになった。
息が浅くなる。
(なんで……?
誰……?)
思い出そうとすると、
胸の奥がきゅっと締めつけられる。
そのとき──
男の子の足が、ほんの一瞬止まった。
ひよりを見たまま、
驚いたように目を見開いた。
(……ひより?)
でも声は出ない。
喉がつまったように動かない。
ひよりは視線をそらしたまま、
胸を押さえて小さく息を吸った。
(……苦しい)
男の子は何か言いかけたように見えた。
けれど、結局何も言わずに、
友達に呼ばれて歩き出した。
すれ違う瞬間、
ひよりの心臓はどくんと跳ねた。
(……知らない人、のはずなのに)
(なんで……こんなに痛いの)
ひよりは胸に手を当てた。
風が吹いて、髪が揺れる。
そのとき。
「ひよりー!」
明るい声が背中から届いた。
振り返ると、
陽が走ってくるのが見えた。
「ごめん、ゼミ早く終わった!」
陽の笑顔を見た瞬間、
ひよりの胸の痛みがすっと和らいだ。
「あ……うん。びっくりした」
「なんかあった?」
「……ううん。なんでもないよ」
ひよりは笑った。
陽の前だと、自然に笑える。
さっきのざわつきが、
少しずつ遠ざかっていく。
(……あの人、誰なんだろう)
(なんで……あんなに)
理由はまだ分からない。
ただ、胸の奥に小さな棘のような痛みだけが残った。