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双葉 莉音
188
#フョードル・ドストエフスキー(文豪ストレイドッグス)
旅人X
1,210
#フョードル・ドストエフスキー(文豪ストレイドッグス)
人通りの多い通りを、二人は並んで歩いていた。先ほどのマジックショーの余韻はまだ残っている。 しかし、その空気をふっと切るように――
「……うっ、ひっく……」
小さな泣き声が聞こえた。
「……」
フェオドラの足が止まる。
視線の先。 店と店の間、少し人通りの薄い場所で、小さな子供がしゃがみ込んでいた。
「ママ……いないの……」
(……迷子ですね)
一瞬だけ、思考が働く。
時間の無駄。関係のない存在。 いつもの“フョードル・ドストエフスキー”なら、まず関わらない。
「……」
しかし、今はフェオドラとしてこの場にいる。
足は、自然と動いていた。
「どうしました?」
しゃがみ、目線を合わせる。
「……っ、ぐす……」
「大丈夫ですよ」
柔らかな声だった。
それは“魔人”のものではなく、 どこか懐かしい、穏やかな響き。
「お名前は?」
「……ゆう、と……」
「ゆうと君、ですか」
こくり、と頷く。
その様子に、ほんの少しだけ表情が緩む。
「お母様とはどこで離れました?」
「わかんない……」
「そうですか」
困ったものですね、と小さく呟く。
背後では。
「……」
ゴーゴリが、腕を組んでその様子を見ていた。
(ああ、そっか…)
少しだけ、口角が上がる。
(君は、そういう人だよね)
「とりあえず、目立つ場所に行きましょうか」
そう言って、そっと手を差し出す。
迷子の子は、少し迷ってから――
きゅ、とその手を握った。
「……」
その光景を見て。
ゴーゴリの中で、何かがくすぐったように弾けた。
(……これ)
(本当の夫婦っぽい!)
妙な感想だった。
けれど、妙にしっくりくる。
「フェオドラってば、完全にお母さんじゃん」
「やめてください」
即答だった。
「いやでもさ」
ひょいと隣に並ぶ。
「今の私たち、どっからどう見ても子連れの家族って感じじゃない?」
「…そんなことはありませんよ」
少しだけ、視線を逸らす。
「それに、私は必要な行動を取っただけです」
「ふぅん」
その“必要”の中に、感情が混じっていることくらい、分かっている。
しばらく歩くと、大きな案内板の近くに出た。
人も多く、目立つ場所。
「ここで待ちましょう」
「うん、それがいいね」
ゴーゴリも珍しく素直に同意する。
「ゆうとさん、お母様はきっとここを探しに来ます」
「……ほんと?」
「ええ」
迷いのない声。
「必ず来ます」
その言葉に、子供は少しだけ安心したようだった。
「……おねえちゃん、やさしいね」
「……」
一瞬、言葉に詰まる。
「……そうでもありませんよ」
そう言いながらも、 そっと頭を撫でた。
「!」
その様子を見て、ゴーゴリはまた思う。
(ああ)
(これ、ずるいなぁ)
しばらくして。
「あっ……ゆうと!」
遠くから、慌てた声。
母親らしき女性が駆け寄ってくる。
「ママぁ!」
子供が飛びつく。
「よかった……!本当に……!」
何度も頭を撫で、抱きしめる。
「このおねえちゃんに、助けてもらったの!」
フェオドラを指す。
「……ありがとうございます、本当に……!」
深く頭を下げられる。
「いえ、当然のことをしたまでです」
淡々と答える。
だが、その表情はどこか柔らかい。
「お礼を……」
「必要ありません」
すぐに断る。
「どうか、お気をつけて」
それだけ言って、背を向ける。
「……」
その背中を見送りながら、母親はもう一度頭を下げた。
少し歩いた後。
「ねぇ」
ゴーゴリが声をかける。
「なんですか」
「やっぱ君、いいお母さんになると思うよ!」
「……は?」
突然すぎる話題転換。
「あっ、もちろんお父さんは私――」
「馬鹿なこと言わないでください」
即座に遮る。
「頭冷やします?」
「え、冷水ぶっかけるやつ?」
「検討します」
「ひどくない⁈」
ケラケラと笑う。
「でもさ」
少しだけ、声が落ちる。
「さっきの、よかったよ」
「……」
「すごく、“君らしい”って思った」
「……そうですか」
短く返す。
だが。
ほんのわずかに、歩く速度が緩む。
「……時間の無駄だとは思いませんでしたか」
ぽつり、と。
「思わなかったよ」
即答だった。
「だってさ」
軽く肩をすくめる。
「君がやりたいことやってる時間って、見てて楽しいし」
「……」
「それに」
少しだけ笑う。
「君が優しいところ、ちゃんと知れて嬉しかったし」
「……余計なお世話です」
そう言いながらも。
その言葉を、否定はしなかった。
コメント
9件
マジで大好きです 神すぎる!!
「迷子の子に手を差し伸べるフェオドラ、すごく良かったです。あの“魔人”じゃなくて、自然に優しくできるのが彼女の本当の姿なんだなって。ゴーゴリの『本当の夫婦っぽい』も、くすっときました(笑)。二人の距離がちょっとずつ近づいてる感じが、じんわり温かいエピソードでした。」