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不意の電話が嫌いだ。メールやチャットアプリで済むこの時代に、わざわざ電話をしてくる理由は急用だからだと相場が決まっているから。今日だって、朝の7時にマネージャーから電話が来て、電話嫌いな仁人に謝罪をしつつ、メンバー全員の集合時間の30分前に来て欲しいと言われて、嫌な予感がしながらも事務所に向かえば、難しい顔をしたマネージャーと勇斗がいて、案の定。
『さのじんは”ガチ!?“週3密会お泊まりデート』
マネージャーからタブレットで見せられた週刊誌から届いたメールの添付データには、既に完成されているように見えるデータ原稿と、写真が何枚か添えられていた。
「記事の内容はさておき、まず、この写真が吉田さん本人か確認していただきたいのですが……」
マネージャーがそう言って、画像データを開く。見慣れたタワーマンションのエントランスに出入りする男の姿は、どれもまぎれもなく自分だった。
「これは……」
放った声は震えていた。顔も酷いことになっているだろう。立っていられるのが不思議なくらいだ。マネージャーが仁人を見つめる。仁人の次の言葉を待っている。
「はい、間違いなく仁人です」
倒れそうな仁人の肩を抱き、そう力強く返事をしたのは、勇人だった。
「そうでしょ?だって、ここ最近、仕事しすぎてぶっ倒れそうな俺を心配して、うちに家事しに来てくれてたもんね?」
なんてことはない、という風にあっけらかんとした明るい口調で話した彼に、抱いた肩に力を込めて、な?と促される。仁人は慌てて調子を合わせた。
「あ、そ、そう。そうなんです」
「ほら、前にYouTubeのドライブ企画で言ってたじゃないですか。仁人のサブスク。あれ、マジでやってるんです。俺たち。仁人ってマジで便利で~」
「人のこと便利とか言うな!」
「そうですか。相変わらず仲が良くて何よりです」
いつもの調子のやり取りを見て、そう答えたマネージャーの表情は、あからさまにほっとしていた。
「ですが、この記事ではまるでお二人が本当に交際しているかのように面白おかしく書かれています。お二人の世間的なイメージを損なう前に、掲載を中止するように申し立てる予定です」
「それは是非……」
その言葉に、仁人は安堵し、同意しようとした。しかし、隣の男がそれをきっぱりと遮る。
「いや、このまま発売させましょう」
マネージャーは、困惑した顔で勇人を見た。
「発売させるって、どうして……」
「だってこれって、今人気絶頂のM!LKのネタを求めて俺たちを付け回した結果、メンバーの家に出入りする姿しか取れなかったってことでしょ?俺たちがクリーンな何よりの証拠じゃないですか。しかも”さのじん”!ファンは色んな意味で喜ぶと思うんですよね」
そう言い切る勇人は、先を見据える策士の顔をしていた。
勇人の勢いに気圧されていたマネージャーも、「確かに…」と顎に手を添えて考え込む。
「正直、ここまで記事が出来ているのであれば、週刊誌もいまさら記事の取り止めに応じる気はないでしょうし、佐野さんがそう言うならば、上と相談してこのまま掲載の流れになるかと思いますが、吉田さんはそれで大丈夫ですか?」
マネージャーの言葉に、仁人はただ頷くしかなかった。
「ぶふっ!!『さのじんは”ガチ”!?』気持ち悪!!」
他のメンバーにも事前に共有した方がいい、という勇人の提案によって、控え室に集められ、青い顔をしながら恐る恐る発売前の週刊誌のページを捲った3人の反応は三者三様だった。
「うひゃひゃひゃひゃ!!!!吉田さんばっちり撮られとるやん!!『M!LKのリーダー吉田仁人は多忙なセンター佐野勇斗の通い妻!?』やって!!あ~オモロ」
「うるせえ!メンバーの世話しに行くのに変装なんかいらねーだろ!」
記事の内容と掲載された写真を隈なく見て、大笑いする太智。
「びっっっくりしたぁ、全然それっぽいことは感じなかったけど、ついに勇ちゃんか仁ちゃんが撮られたのかと思ったわ……ほんまに終わりかと思ったぁあ~~~。驚かすなや!!」
半泣きしながら、最後には逆ギレして年上2人の肩を殴る最年少、舜太。
「勇ちゃん張ってたら職場と自宅の往復しかしないわ、仁ちゃんしか撮れないわで、話題になるならなんでもいいやって感じで記事にしたんだろうね」
そんな2人を両手でなだめながら、冷静に分析する柔太朗。
誰もこの記事を「本当」だと思っているメンバーがいないことに仁人は心の中で安堵した。
「でも、よっしーそんなに頻繁に勇ちゃんの家行ってたんだね。全然知らなかった。この記事だと3日に1回くらいは行ってるみたいだけど」
「確かに。言ってくれてもいいやんか~」
柔太朗の鋭い指摘に仁人は身を固くする。
「仁人は俺んちの家事をしに来てくれてたの!!お前らに言うと遊びに来るだろーが!!」
そんな仁人を庇うように勇人がさり気なく前に立って口を挟んだ。
「ね~じんちゃん♡俺たち結婚したんだよね~♡」
「け、結婚してねーわ!こいつほっとくと家に埃積もらせるし、飯も適当に済ませるから!」
いつもの調子で肩を組まれ、仁人も慌ててそれに合わせる。嘘は言っていない。呼び出される度に、彼に押しつけられた合鍵で頼まれてもいないのに散らかった部屋を掃除し、溜まった洗濯物を洗って乾燥機に入れ、栄養バランスに気を使いつつスタミナのつく食事を作って彼を待つのが日常になっていた。そこに肉体の関係も含まれるだけ。
嘘は言っていない。言っていないことがあるだけ。そう自分に言い聞かせて、平静を取り繕った。
「うわあ結局さのじんや!!またいちゃいちゃしとる!!」
「太ちゃんこの話興味ある?」
「ないなぁ」
「あーもーうるせーな!!マネージャーから説明があったとは思うけど、記事に関しては、世間の反応を見つつ、俺と仁人のSNSで事実を伝えるってことで上とも話はついてるから」
「騒がせてごめんな。じゃ、レッスンやるよー」
いつも通りふざけ出した年下たちを軽くあしらいながら、勇人が最年長らしくその場を収める。そして、リーダーの仁人が最後にいつも通り場を仕切って、空気を日常のM!LKの雰囲気へと切り替えていった。
「仁ちゃん」
控え室からレッスン室に向かう移動の途中で、背中から柔太朗に声をかけられる。
「よっしーのおかげではやちゃんが仕事に専念できてるなら俺らも安心だね。はやちゃんを支えてくれてありがとうリーダー。これからもよろしく」
そう柔太朗に微笑まれて、仁人はちゃんと笑って返事ができているかわからなかった。
記事が公開されてから、一週間が経った。センセーショナルな見出しで世間の話題を集めたが、勇人の狙い通り『佐野勇斗のクリーンさと、それを支えるリーダー吉田仁人の献身』に賞賛の声が集まり、ファンは彼らの絆の深さを喜び、それを下世話な記事にした週刊誌に批判が集中した。
週刊誌の記事は、勇斗の人気を確かなものとし、そして今まで世間には隠されていた仁人の世話焼きで献身的なギャップを世に広く知れ渡らせるきっかけとなり、まさに勇人の狙い通り、吉田仁人と、 “さのじん”の人気は加熱した。溺愛系王道主人公イケメン×ツンデレというまるで二次元のような組み合わせが、今までアイドルに興味がなかったという層にも受け、新しいファンが増えた。新しいファンは熱狂的で、仁人のグッズは即完売することが珍しく無くなった。仁人は入口は狭くとも沼のように深いコアなファン層を持つ、グループの中でも唯一無二の強みを得た。
それに伴って、一部の過激なファンのコメントが目立つようになった。
“あの記事は本当だと思ってる”
“お泊まりってことは絶対……。え、腰痛って、そういうこと?”
目に余る内容に苦言を呈した他のファンとの諍いで、コメント欄が荒れるようになった。中には”勇人くんの言動もさのじん厨を助長させている”というようなアイドル本人への批判の声もあった。
そのどれもが、仁人を苦しめた。
「もう無理!!耐えられない……!!」
呼び出されたいつもの勇人の部屋で、そう吐き出した。部屋の主はいつかのソファーに悠々と腰掛けていて、それに対して仁人は許しを乞うかのように床に座って勇人の膝に顔を押し当てて、両手で彼のズボンの裾を握りしめた。その右手の中指には、いつか渡されたお揃いのハイブランドの指輪が光っていた。
「どしたの?仁ちゃん」
勇人はそう言いながら優しく仁人の髪を撫でた。仁人の個人ファンクラブの会員数が勇人を越してから、勇人はずっと上機嫌だった。
「さのじん厨のこと?あの子たちさ、結構目敏いから怖いよな~。仁ちゃんの腰痛のこともそうだし。俺も煽りすぎたところはあるから、個人チャンネルで少し釘刺しとけば……」
「そうじゃなくて!!」
仁人の鋭い声に、髪を撫でる手が止まった。
「メンバーにも、ファンにも、ずっと、ずっと嘘をつき続けてる……!!本当の俺たちは、みんなが思うような綺麗な関係じゃない。ただの性欲処理だろ……!!」
ズボンを握る手に力が籠る。
「あの記事が出た時に柔太朗に言われたんだよ。勇人を支えてくれてありがとうって。実際は、溜まったモンを出すために呼び出されるだけの後暗くて汚い関係なのに」
柔太朗の優しくて真っ直ぐな目が見られなかった。あの日から、飾らない自分を見せることを信条にしてきた仁人は、自分に嘘をつき続けている。:
「勇人はすごいよ。夢に貪欲で、実現のために今何が必要なのかをいつも冷静に考えてる。週刊誌は流石に想定外だっただろうけど、それすらも利用してさ。お揃いの指輪も、枯れない花も、カメラの前での言葉も、全部お前の目標のための手段に過ぎないんだろ」
だから、これでおしまい。
仁人の指から外された、仁人の趣味ではない、大振りなリングが無機質な音を立ててテーブルの上に置かれる。勇人の息を飲む音が聞こえる。
「ずっと間違えてたんだ俺たち。俺たちはただのM!LKのメンバー同士。リーダーと最年長。もうメンバーやファンに言えないことはしない」
その日以降、仁人が勇人の家に行くことは無くなった。
コメント
4件
すれ違い……続き待ってます🥺

続き書いてくださいお願いします😭

え、終わり?
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るあ
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#ご本人様には関係ありません