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第10話「距離」
その日の放課後。
ゆかりは、音楽室にいた。
気付けば、ここに来ていた。
窓の外を見る。
少しずつ暗くなっていく空。
静かな時間。
そのとき。
「速水さん」
後ろから、声。
先生の声だった。
振り返る。
そこには、先生がいた。
音楽室の中に。
(……)
扉を見る。
閉まったまま。
開く音も、気配もなかったはずなのに。
(いつ、入ってきたんだろう)
小さな違和感。
でも、それ以上は考えなかった。
「体調は、もういいのか?」
先生は、いつも通りの声で言う。
ゆかりは、少しだけ間を置く。
「……うん」
短く答える。
先生は、それを聞いて軽く頷く。
何も変わらない。
ただの会話。
でも。
少しだけ、距離が近い。
「頭痛は、大丈夫?」
もう一度、聞く。
その声は、さっきよりも少しだけ近かった。
その瞬間。
先生の手が、ゆかりの頭に触れる。
軽く、撫でるように。
自然な動き。
拒否する理由が、浮かばない。
ゆかりは、そのまま動かなかった。
少しだけ、目を閉じる。
触れられている感覚が、残る。
安心する。
(……なんでだろう)
理由は、分からない。
でも、それでよかった。
(第10話 終)
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