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第11話「呼び声」
先生に触れられた日から。
気付けば、先生のことばかり考えていた。
授業中。
ふとした瞬間。
何もしていないときほど、思い出す。
声。
距離。
触れられた感覚。
(……)
ゆかりは、小さく息を吐く。
理由は分からない。
でも。
探してしまう。
あの香りを。
甘くて、少しだけ冷たい。
スノードロップの香り。
廊下を歩く。
人の間をすり抜けながら。
無意識に、目で追っている。
(……いない)
見つからない。
その代わりに。
「……先生」
小さく、名前が零れる。
自分でも気付かないくらいの声。
そのまま、時間が過ぎる。
委員会が終わる頃には、外はもう暗くなっていた。
ゆかりは鞄を持って、昇降口へ向かう。
靴を履き替える。
外の空気は、少し冷たい。
(帰ろ)
そう思ったとき。
「……先生」
また、呟いていた。
その瞬間。
「呼んだ?」
すぐ近くから、声。
ゆかりは、ゆっくり顔を上げる。
目の前に、先生がいた。
自然すぎて。
驚くことも、できなかった。
(……あ)
ただ、そう思うだけ。
先生は、いつも通りの顔で立っている。
「どうしたの」
当たり前みたいに聞く。
ゆかりは、少しだけ間を置く。
何も言えない。
でも。
安心していた。
さっきまで探していたものが、
そこにあったから。
(第11話 終)
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