テラーノベル
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保育参観、当日。
朝一番のリモート会議を終えるなり、僕はいつもとは違う勝負スーツに袖を通した。髪もきっちりセットして、十時少し前に保育園へ滑り込む。
朝、ゆずを送り届けたあと、近くのカフェで仕事をしていたひよりさんとも、門の前で合流した。
「間に合った……!」
ホールに入ると、ちょうど、うさぎ組の『パイナップル体操』が始まるところだった。
ステージの真ん中で、ゆずは緊張しているのか、直立不動になっている。けれど、曲が流れると、小さな手足がぴくりと動いた。
きょろきょろ周りを見ながらも、一生懸命、先生の真似をして踊っている。その健気な姿に、僕の涙腺は早くも崩壊寸前だった。
次は、親子で参加するふれあい競技らしい。借り物競走や、簡単な障害物競走をするようだ。
「お父さん、お母さんも頑張ってくださいね」
先生の声に合わせて、子どもたちがぞろぞろと保護者のもとへ戻ってくる。
「ママ! パパ!」
ゆずが満面の笑みで駆け寄ってきて、そのまま僕たちに抱きついた。親子競技までの待ち時間。気づけば、年長さんらしき女の子たちに囲まれていた。
「ねえねえ、だれのパパ〜?」
「かっこいい〜!」
子どもは正直だ。二ヶ月間のダイエットは、大成功だった。……そのはずなのに。ふと見ると、隣にいるゆずの瞳に、みるみる大粒の涙が溜まっていく。
「……ゆず? どうしたの?」
「うっ……うわあああああん!!」
突然の大号泣。ひよりさんが慌てて抱っこしても、泣き止む気配はない。
「パパぁ〜! だっこぉぉ!」
「えっ、僕!?」
慌てて交代したとたん、小さな手がセットしたばかりの髪を容赦なくかき乱し始めた。
「ちょっ、ゆず!? やめなって!」
「パパ、かっこわるくなってぇぇぇ!!」
「ええっ!?」
「かっこいいパパはいやぁぁ! ゆずだけのパパなのおぉ!」
――まさかの、強烈な独占欲バグ。なんとか宥めた頃には、髪は爆発。眼鏡は指紋だらけ。ワイシャツには涙と鼻水の跡。
「ぷっ」
「……ご、ごめん。笑っちゃいけないんだけど……あまりにも悲惨で。せっかくかっこよくしたのに、台無しになっちゃったね」
「うん。今は何も言わないで……泣きたくなるから……」
こうして僕は、その悲惨な姿のまま、集合写真のレンズに収まることになった。
#ギャップ
ひより
3,413
ひより
3,504
#三角関係
霞花怜
5
#白い結婚
夕凪ゆな
123
***
夜。ゆずが眠った後のリビングで、僕はソファに腰掛けていた。
目の前のテーブルに、温かい紅茶の入ったマグカップが二つ、そっと置かれる。
「お疲れ様。今日は本当に大変だったね」
「まさか、あんなに泣かれるなんて……完全に想定外の仕様だよ……」
深いため息をつくと、ひよりさんがふふっと笑った。
「私、ゆずの気持ち、よく分かるけどね」
「え?」
トスン、と軽い重みが膝に落ちる。気づけば、膝の上に彼女がいた。細い腕が首の後ろに回り、甘いシャンプーの香りがふわりと近づく。
「だって、今日の陽一さん、本当に格好よかったんだもん」
そう言って、胸板に額を預ける。
「……私も、他の子やママたちに見せたくなかった」
「ひよりさん……」
ゆっくり顔を上げた耳が、ほんのり赤い。潤んだ瞳で見つめられ、心臓が大きく跳ねた。
「昼間は、ゆずと半分こ。でも……」
伸ばした指先が、頬に触れる。
「夜は、私だけの陽一さんでいてくれるよね?」
「……っ」
返事のかわりに、唇を重ねた。
二ヶ月間の特訓で少しだけ引き締まった肩に、彼女の手がそっと触れる。
彼女は潤んだ瞳のまま、耳元にそっと囁いた。
「ねえ、陽一さん」
「……なに?」
「そろそろ、ゆずを……お姉ちゃんにしてみる?♡」
コメント
1件
はぁ…もう、ゆずちゃんの独占欲、可愛すぎますよ🥺💕 パパをかっこよく見せたくなくて髪をぐちゃぐちゃにしちゃう姿、最高に愛おしい…! でも夜のひよりさんの「夜は私だけの陽一さん」って…正直、一番グッときました。私、独占欲ってテーマ、大好きなので…今夜も素敵なエピソードをありがとうございます🌙🤍