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#ヤクザ
夏目萌*優しい彼~コミカライズ
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鷹槻れん

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#強引
パジャマのボタンが、ひとつ、またひとつと外れていく。
もう、あと少しで後戻りできなくなる。
そう思った、まさにその時だった。
「……ママー! パパー! どこにいるのお!?」
「っ!?」
廊下から、ドタドタと慌ただしい足音が近づいてくる。
僕たちは、光の速さで飛び起きた。
ひよりさんは慌ててパジャマを整え、僕はソファの下に落ちていた上着を羽織る。
ただし、裏返しだった。
しかも、ボタンは一段ずれている。
リビングのドアが勢いよく開いた。
涙でぐしゃぐしゃになったゆずが、一直線に駆け込んでくる。
「ママぁ! パパぁ!」
ひよりさんは何事もなかったような顔で、ゆずを抱き上げた。
「どうしたの? 寂しくなっちゃった?」
「ママとパパ、いないのやだぁ……」
小さな手が、ぎゅっと服を掴む。
その顔を見た瞬間、僕たちは何も言えなくなった。
結局、そのまま寝室へ戻り、三人で川の字になることにした。
ひよりさんが、ゆずの背中を優しくトントンと叩く。
「大丈夫。ママもパパも、ここにいるよ」
「……うん」
安心したように目を閉じるゆず。
その寝顔を見守っているうちに、僕たちまで眠ってしまった。
――そして、この夜を皮切りに。
難攻不落の“防衛システム”が、立ちはだかることになる。
翌週の夜。
ようやく、いい雰囲気になったとき。
「おばけ、こわいよぉ……」
寝言まじりの声とともに、ゆずが起きてきた。
その次の夜。
今度こそ、と思ったとき。
「ちっち、でるー!」
予期せぬ外部割り込みが発生した。
さらに別の日。
ひよりさんが僕の膝に乗り、そっと頬に触れた直後。
廊下の方から、小さな足音が聞こえてくる。
ぺた。
ぺた。
ぺた。
「……ゆず、来てるね」
「寝てるときの方が勘が鋭くないか……?」
監視網が厳重すぎる。完全に、セキュリティブロックがかかっている。夜のリビングは、たびたび甘い空気になりかけては、強制終了されていった。
***
ある日の早朝四時。まだ外も薄暗い時間。
僕は、妙な重みで目を覚ました。
「ん……う、わ……っ!?」
ゆっくり目を開けると、上にひよりさんがいた。
いたずらっぽく微笑みながら、寝起きで固まる僕を見下ろしている。
遮光カーテンの隙間から、わずかに青白い光が差し込んでいた。
「……いま何時……?」
「ふふ。朝、四時です♡」
「ええ……っ、早すぎない……?」
寝起きで、頭がまったく回らない。それなのに、容赦なく距離を詰められて、身体だけが勝手に目を覚ましていく。
「あ……元気♡」
嬉しそうに目を細められ、僕は慌てて視線をそらした。
「せ、生理現象だよ……! 起き抜けは誰だってこうなるって……」
「夜は何度も邪魔されちゃうから、今しかないよ?」
彼女は僕の胸元に両手をついて、にっこり微笑む。そして、自分の襟元にそっと指をかけた。
「……ねえ。私と“朝活”、してくれるよね?♡」
そのまま逃がさないと言うように、ぎゅっと抱きしめられる。
音を立てないように寝室を抜け出し、そろりそろりとリビングへ向かった。ゆずを起こしたら終わり。
これはもう、甘い夫婦時間というより、もはや早朝のミッションだった。ようやくリビングにたどり着くと、そのままソファへ転がり込む。
「……静かにね♡」
「それ、ひよりさんにも言えるから……」
「私は大丈夫だもん」
「どこが……?」
何度も邪魔されたぶんを取り返すみたいに。
早朝のリビングで、甘い時間だけが静かに深まっていった。
――三十分後。
ソファの上で、僕は完全な屍と化していた。
「り、リソースが……もう完全に、ゼロになった気がするよ……」
頭の中では、バッテリー残量一パーセントの警告音が鳴っている。
「ゆずが起きるまで、ここで寝てていい……?」
「うん。頑張ってくれてありがと♡」
ちゅ、と頬に優しいキスが落ちる。
一方のひよりさんは、信じられないほど元気だった。むしろ、肌つやが最高にぴかぴかしている。
「……なんで、そんなに元気なんだ……?」
「ふふ。陽一さんのおかげです♡」
「僕のリソースを全吸収して回復してない……?」
「気のせいですよ♡」
絶対に気のせいじゃない。彼女は鼻歌まじりにキッチンへ向かい、手際よくお弁当と朝ごはんを作り始めた。
トントン、と小気味よい包丁の音が、静かなリビングに響く。キッチンに立つ後ろ姿を見ながら、ソファに沈み込んだ。
こんな限界ギリギリの“朝活”から始まる一日も、僕たちらしくて、案外アリなのかもしれない。
コメント
1件
うわあ……第250話、お疲れ様でした!いやもう、ゆずちゃんの「防衛システム」が強固すぎて笑ってしまいました(笑)。「おばけこわい」「ちっちでる」の流れ、完全に親あるあるですよね。でも最後の早朝4時「朝活」ミッション、ひよりさんのしたたかさと陽一さんのリソース枯渇具合が絶妙で、読んでてほっこりしながらもニヤニヤしちゃいました。こういう「家族の形」、すごく好きです。次も楽しみにしています!