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#ギャップ
ひより
3,413
ひより
3,504
#三角関係
霞花怜
5
#白い結婚
夕凪ゆな
123
パジャマのボタンが、ひとつ、またひとつと外れていく。
もう、あと少しで後戻りできなくなる。
そう思った、まさにその時だった。
「……ママー! パパー! どこにいるのお!?」
「っ!?」
廊下から、ドタドタと慌ただしい足音が近づいてくる。
僕たちは、光の速さで飛び起きた。
ひよりさんは慌ててパジャマを整え、僕はソファの下に落ちていた上着を羽織る。
ただし、裏返しだった。
しかも、ボタンは一段ずれている。
リビングのドアが勢いよく開いた。
涙でぐしゃぐしゃになったゆずが、一直線に駆け込んでくる。
「ママぁ! パパぁ!」
ひよりさんは何事もなかったような顔で、ゆずを抱き上げた。
「どうしたの? 寂しくなっちゃった?」
「ママとパパ、いないのやだぁ……」
小さな手が、ぎゅっと服を掴む。
その顔を見た瞬間、僕たちは何も言えなくなった。
結局、そのまま寝室へ戻り、三人で川の字になることにした。
ひよりさんが、ゆずの背中を優しくトントンと叩く。
「大丈夫。ママもパパも、ここにいるよ」
「……うん」
安心したように目を閉じるゆず。
その寝顔を見守っているうちに、僕たちまで眠ってしまった。
――そして、この夜を皮切りに。
難攻不落の“防衛システム”が、立ちはだかることになる。
翌週の夜。
ようやく、いい雰囲気になったとき。
「おばけ、こわいよぉ……」
寝言まじりの声とともに、ゆずが起きてきた。
その次の夜。
今度こそ、と思ったとき。
「ちっち、でるー!」
予期せぬ外部割り込みが発生した。
さらに別の日。
ひよりさんが僕の膝に乗り、そっと頬に触れた直後。
廊下の方から、小さな足音が聞こえてくる。
ぺた。
ぺた。
ぺた。
「……ゆず、来てるね」
「寝てるときの方が勘が鋭くないか……?」
監視網が厳重すぎる。完全に、セキュリティブロックがかかっている。夜のリビングは、たびたび甘い空気になりかけては、強制終了されていった。
***
ある日の早朝四時。まだ外も薄暗い時間。
僕は、妙な重みで目を覚ました。
「ん……う、わ……っ!?」
ゆっくり目を開けると、上にひよりさんがいた。
いたずらっぽく微笑みながら、寝起きで固まる僕を見下ろしている。
遮光カーテンの隙間から、わずかに青白い光が差し込んでいた。
「……いま何時……?」
「ふふ。朝、四時です♡」
「ええ……っ、早すぎない……?」
寝起きで、頭がまったく回らない。それなのに、容赦なく距離を詰められて、身体だけが勝手に目を覚ましていく。
「あ……元気♡」
嬉しそうに目を細められ、僕は慌てて視線をそらした。
「せ、生理現象だよ……! 起き抜けは誰だってこうなるって……」
「夜は何度も邪魔されちゃうから、今しかないよ?」
彼女は僕の胸元に両手をついて、にっこり微笑む。そして、自分の襟元にそっと指をかけた。
「……ねえ。私と“朝活”、してくれるよね?♡」
そのまま逃がさないと言うように、ぎゅっと抱きしめられる。
音を立てないように寝室を抜け出し、そろりそろりとリビングへ向かった。ゆずを起こしたら終わり。
これはもう、甘い夫婦時間というより、もはや早朝のミッションだった。ようやくリビングにたどり着くと、そのままソファへ転がり込む。
「……静かにね♡」
「それ、ひよりさんにも言えるから……」
「私は大丈夫だもん」
「どこが……?」
何度も邪魔されたぶんを取り返すみたいに。
早朝のリビングで、甘い時間だけが静かに深まっていった。
――三十分後。
ソファの上で、僕は完全な屍と化していた。
「り、リソースが……もう完全に、ゼロになった気がするよ……」
頭の中では、バッテリー残量一パーセントの警告音が鳴っている。
「ゆずが起きるまで、ここで寝てていい……?」
「うん。頑張ってくれてありがと♡」
ちゅ、と頬に優しいキスが落ちる。
一方のひよりさんは、信じられないほど元気だった。むしろ、肌つやが最高にぴかぴかしている。
「……なんで、そんなに元気なんだ……?」
「ふふ。陽一さんのおかげです♡」
「僕のリソースを全吸収して回復してない……?」
「気のせいですよ♡」
絶対に気のせいじゃない。彼女は鼻歌まじりにキッチンへ向かい、手際よくお弁当と朝ごはんを作り始めた。
トントン、と小気味よい包丁の音が、静かなリビングに響く。キッチンに立つ後ろ姿を見ながら、ソファに沈み込んだ。
こんな限界ギリギリの“朝活”から始まる一日も、僕たちらしくて、案外アリなのかもしれない。
コメント
1件
うわあ……第250話、お疲れ様でした!いやもう、ゆずちゃんの「防衛システム」が強固すぎて笑ってしまいました(笑)。「おばけこわい」「ちっちでる」の流れ、完全に親あるあるですよね。でも最後の早朝4時「朝活」ミッション、ひよりさんのしたたかさと陽一さんのリソース枯渇具合が絶妙で、読んでてほっこりしながらもニヤニヤしちゃいました。こういう「家族の形」、すごく好きです。次も楽しみにしています!