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ティナの言葉に、沢口は即座に。
「鮎川ティナ、いいねえ、実にいい、まだ若いのに恐ろしいねえ。しかしだ、こういった若者がこれからの精神医療を支えていくんだなあ」


と、反応した。

満足げな笑みをたたえ、チラチラと横目で相手の反応を伺っている。

こうした沢口の行動、含みを持たせた表情と勿体ぶった口調を受けて、瀬戸際は教授を受ける若人の如く。


「彼女が精神医療を? それはどういうことですか?」


「ああ、お前さんには話してなかったかな、鮎川ティナ、うちへ引き抜いたよ」


「うちへ?」


「そうだ、君もうかうかしてられないぞ、新たなライバル出現ってわけだから、まあね、仲良くやってくれたまえよ!」


沢口は皮肉な言い方をした。


「それでは、うちに脳神経内科を新設する訳ですか? あちらもよく手放しましたね、こんな優秀な人材を」


「ま、ほら、そこはさ、私の人脈というか信用というかだな、しかし空手形じゃないぞ、相手は古狸ばかりだからな。それと、新設云々の話はまだ未定だよ」


「それじゃあ彼女は…」


「君が主導の、鮫島結城専属のリエゾンチームに加わる。これだけマスコミも注目してるんだ、うちの宣伝にもなるし、目立ちたがり屋のお前さんにだって得な話だろう?」


自身のスマートフォンに保存した、雑誌の切り抜き画像を瀬戸際に見せ。


「君は優秀な精神科医で、最もイケてるコメンテーターだそうだ。あれだけテレビショーに引っ張りだこなんだ、自信をもちたまえよ自信をさ」


「いや、新型天然痘ウイルスによる世界的なパンデミックで、多くの人達が心の拠り所を求めた結果でしょう、私でなくとも代わりはたくさんいますからね、現に、ワクチン接種が98パーセントを超えた今、私になんて声はかかりませんよ。マスクも必要なくなりましたからね」


「そう謙遜しなくたっていいじゃないか、あ、あとねえ、今更なんだが、雑誌の取材を受ける際は、どうか上司である私の許可を取ってもらわなくては困るよ。それが常識ってものだろ」


「はい、恐縮です」


瀬戸際が頭を下げると、沢口の口角が上がった。

ゆったりと椅子にもたれ、モニターを見つめ直すその顔は、今にも高笑いしそうな表情だった。


「前にも似たような経験をしたな・・・」


瀬戸際は、遥か昔の朧げな記憶を思い起こした。

現会長でもあり、沢口院長の父親である沢口銃太郎との会食の席上、高知の料亭で、返盃のしきたりを知らない瀬戸際を笑っていた顔と同じだった。

その瞬間に、瀬戸際は思った。


「ああ、この人とは金輪際、酒を酌み交わすという愚かな行為はしないのだろう」


事実、今日まで瀬戸際は、沢口と酒を呑んだこともなく、それはそれで好都合だった。

仕事上、自分の能力を最大限に活用するには、上司とは極力ドライな関係を保ち、互いにけん制し合うこと。忖度を嫌う瀬戸際大楽の信念は、揺るぎないものであり、万人受けしない保身術でもあった。

瀬戸際は、詰まらぬ感情を捨てて、鮎川・ティナの講義に耳を傾けることにした。



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