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その瞬間は思ったより一瞬だった。


医師『大変申し上げにくいですが、貴方は骨髄異形成症候群を発症しています。このケースだと、はっきり言って先が見えない状態です。保って1年ほどでしょう…』

苦虫を噛み潰したような表情で口を開いた医師の言葉に、久我虎徹は納得ができなかった。幾度となく死線を渡ってきたのは確かな彼の人生、だが、どれもこれも何とかくぐり抜け、着実に自分の人生に意味を見出し始めていた。

そんな中の突然の宣告。全身から血の気が引く思いで久我は尋ねた。

久我『治療法…とかは…』

医師は首を横に振った。

医師『この病気は、完治が非常に難しい病気です。根本的な完治を目指すのなら細胞移植などもありますが、その治療を受けれる確率も高くはないですから…』

医師の悔しそうな表情を見た久我は何となく、自分の運命を理解した。死ぬという簡単な二文字。立場上、彼は理解しているのだ。死ぬという単語の、そこに込められた表面的な意味を。

久我『………分かりました。』

医師から日常生活で気をつけること、病気の進行や症状について…通院の頻度や入院になった場合のことを事細かく説明を受けひとまず久我は病院をあとにした。


病院を出れば、青空が広がっていた。春の陽気に当てられたように街を行く人々の表情が、心なしか明るく見える。

それが久我にとっては苦痛でしか無かった。何で自分だけが。醜く心の底で渦巻く嫉妬と憎らしさ。け れど、罪もない人間にそんな感情を抱いてしまう自分に、久我は何より失望した。

ーどうせ今までと変わらない。

遅かれ早かれ人はいつか死ぬ。それが、俺は少し人より早いだけだ。

どうにか自分の心を整理する言葉を久我は纏め上げた。

俺は死ぬ。どう足掻いても。今までみたいに逃げられることはない。先の見える死は、じわじわと久我の心を絞め上げていった。


家に一度帰り、組の事務所に行く準備を整えてから何となく部屋を見渡した。そこで、一つ目に留まった物があった。

木製の本棚。何かしら本を入れたり書類を保管するのにちょうど良いと、ホームセンターで買ってきたものだ。かといって使う機会などほぼ無かったのだが。少し埃を被った表紙を指でなぞっていったところで、一冊の表紙に目を留めた。

棚から取り出し、冊子を開いた久我の顔が自然と綻んだ。

久我『あ…これ、アルバムだ…あー、この時六車の兄貴凄い泣きかけてて仙石の兄貴が宥めてたやつだ!わぁ、懐かしいなぁ…!』

何処か浮かれた気分になっていた久我は、ふと我に返った。

死んでしまったらもうこんな思い出、つくれないんだろうか。見返して楽しかったなとか、これ驚いたなとか…そういう風に考えることも好きなことするのも、人と話したりすることも……。それに、死んだら多分あの人達を悲しませる。嫌だ。アルバムの写真に一粒涙が落ちたのを機に久我の心の堤防が崩れたかのように涙が溢れ出した。

久我『嫌だなぁ……死にたくない。しにたく…ない…』

宣告を受けてから初めて彼は涙を流した。

初めて、死ぬということの裏面の意味を理解した。


ー死にたくない。けれど、1番怖いのはひとりぼっちになること。悲しませたくないから一人にしてほしい。けれど見捨てられるのも怖い。自分の最期の時間を好きなように決めることも、できない。




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