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「んなの、いい。それより早く……」
「有夏……」
幾ヶ瀬は苦笑する。
「早く、何?」
苛立ったように有夏が息を吐いた。
「……知ってるくせに」
言ってくれなきゃ分かんないなぁ、と幾ヶ瀬の口調は今度は意地の悪いものとなる。
「触ってほしいの? それとも舐めてほしい?」
「……幾ヶ瀬ぇ?」
「どっち? 触るか舐めるか……有夏が決めて」
「さ、わる……」
か細い声。
「どこを触るの? 乳首? それともこっち?」
「うあっ、あぁ……んっ」
有夏の腰が跳ねた。
咄嗟に片手で己の口を押さえるが、漏れる喘ぎは隠せない。
「ココなんだ。有夏、気持ちよさそう……」
幾ヶ瀬の左手の中指。
その先が有夏の入口を弄う。
指を動かすたびに有夏の唇からは熱い息が漏れる。
じわじわと指先は有夏の内部に侵入し、中指の爪が見えなくなるくらいの処で、一旦引き返す。
「いっ……く、せっ、ヤぁだっ!」
「ん? 何が嫌なの?」
同じ箇所を何度も出入れするたびに、有夏は腰をくねらせた。
目元が赤く染まり、途切れ途切れの喘ぎ声は徐々に高くなっていく。
「う……ん、んっ……!」
有夏の前から先走りが迸り、ドロリとした液体が股を伝って下りてくる。
「有夏、感じすぎ。そんなに俺に触ってほしかったの?」
「ちがうしっ!」
「違わないでしょ」
垂れてきた白濁液に指を絡めて、滑りを良くした幾ヶ瀬の手の動きは少しずつ速さを増していった。
「や、あっ……んあっ」
徐々に奥深く挿ってくる指から逃げるように腰を引くのを、まるで捕まえるように幾ヶ瀬の右手が有夏の左手に絡まる。
「有夏、指……何本挿ってるか、分かる?」
「やめっ……そっゆうの……ヤだっ、んっ」
有夏、かわいい──見下ろす幾ヶ瀬が頬を歪める。
「ほら、何本? そんなに感じてるんだから分かるでしょ? 当てるまでこのままだよ? 有夏の欲しいの、挿れてあげられないよ?」
存在感を示すつもりか、指先が内部でくねくねと動く。
その度に有夏の液は飛び散り、腰は崩れる。
「馬鹿がッ、あっ…………さ、ん」
「ん?」
「さん、ぼん……」
幾ヶ瀬の微笑はどう見ても意地の悪いそれへと転ずる。
「まだ2本だよ、有夏。ほら、見て」
つられるように視線を動かした有夏は、そこに自身の屹立したものと、その奥で幾ヶ瀬の指を2本、根本まで呑み込む己の姿を見て慌てて目を逸らせた。
「3本目、挿れるよ……」
「いちいち言うなっ……んあっ! あっ、あっ……んあぁ、ぁぁ」
グチュグチュと厭らしい音をたてながら3本の指を出し入れされて、有夏の腹が激しく波打つ。
「幾ヶ瀬っ、あっ……んんっ、いくせぇ……」
目を潤ませて囁くように何度も名を呼ばれて、幾ヶ瀬からもさすがに余裕が消えていくのが分かる。
ゆっくり指を引き抜くと、もどかし気にズボンを下ろした。
我慢できずに既に白い液体を垂らす先端を有夏の後ろに押し当てると、ゆっくりと内部へ押し入っていった。
「有夏、挿ってくよ……」
「だからっ! いちいち、言うな、って……」
「有夏……顔、見せてよ」
挿入と同時に身を縮め、両手の平で顔を覆ってしまった有夏。
その手首をつかんで引きはがす。
震える腕には最初から力など入っていなかったが。
紅潮した頬を舐めると、潤んだ双眸から耐え切れずに水滴が零れた。
長い睫毛に涙の雫がきらめいている。
「有夏、気持ち良さそう……」
「んんっ……もち、いっ」
真っ赤に染まった耳朶に軽く歯を立てて、それから耳の奥に熱い息を吹き込む。
「有夏、見てよ。俺の……根元まで挿ってる」
「………………っ」
「有夏、今感じたでしょ。有夏のナカ、俺のぎゅって締め付けてきたよ。気持ちいい……あっ、また感じた?」
「ちがっ……」
フルフルと首を振る彼を、この至近距離から愛おし気に見つめる。
「違わないでしょ。有夏、俺のこと好き? あっ……ふふっ、凄い。今、有夏のナカ……俺の咥えて奥に引きずり込もうとしてる……」
「がっ、あ……うぅ」
必死に息を詰めて。
今、口を開けばはしたない嬌声が迸るであろうから。
「ね、自分で分からないの? こんなに……俺の、締め付けて……んっ!」
ゆっくりと腰を引いて、それから激しく奥を貫く──繰り返していた動きが、徐々にスピードを増していく。
「あっ、あっ……んあっ」
もうどちらの喘ぎ声か分からない。
互いの腰の動きと共にいやらしい音が大きくなる。
「んあぁっ、いく……せっ……」
先に有夏が崩れた。
全身をビクリと震わせて、白濁液を幾ヶ瀬の腹に撒き散らす。
「あ、有夏、そんな締めたらっ、俺っも……」
反射的に腰を引こうとした幾ヶ瀬だが、力の抜けた身体は言うことをきいてくれない。
ビクビクと腿の筋肉を引きつらせて、そのまま果てる。
荒い呼吸の下、何度も唇を合わせて。
ベッドと座卓の間の狭いスペースに重なって横たわる。
「はぁっ……駄目だ。有夏、起きて。昼ご飯」
「ひるぅ……?」
のろのろと起き上がった幾ヶ瀬が、置時計を見て慌て出す。
「ヤバイ! 俺、昼休憩終わる! 有夏、ごめん。食べといて」
「は? 幾ヶ瀬?」
急に覚醒した様子で、ズボンをずりあげながら玄関へ。
「幾ヶ瀬? ちょ……どうすんだよ、コレ」
ごめん、の一言で幾ヶ瀬は出て行った。
残された有夏はポカンと玄関の扉を見やる。
「って……台無しじゃねぇか。ほったらかしとか、アリかよ、こんな……」
吐き捨てるように呟く。
だって腹は精液でベトベト。
床も汚れているし、腰は痛い。
あげく鍋は冷めてるわ。
「何コレ、ヤリ逃げ?」
有夏はもう一度扉を睨む。
「クッソ」
今度はもっともっとってせがんで、絶対腰砕けにしてやる。
そう呟いて、冷えた鍋に箸を伸ばしたのだった。
「ランチ休憩に、蜜」【完】
2「アマゾンがくるまで」につづく
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