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✳︎✳︎✳︎
アンジェリカは、男の手引きにより、どこかの邸に連れて来られていた。
大きな邸だが、見える範囲に紋章は見当たらない。
ちょっとした成金の邸か、もしくは貴族の別邸のうちの一つといったところだろう、とアンジェリカは想像する。
紋章を敢えて隠しているのだとしたら、愛人を囲っている家か、もしくは、何か公にできない商売や会合に使用しているのかもしれない。
現に、今こうして自分が足を踏み入れている時点で、普通の家ではないことが証明されている。
「それで?この私に何をさせたいの」
邸内の応接室のソファーに、ドサリと腰をおろすと、アンジェリカは男に問いかける。
年齢は40代くらいだろうか、それとも50代。
見たことがある気もしなくはないけれど……。
どこかの施設の職員のような服装を身に纏っているが、妙に偉そうな態度といい、この私のことを呼び捨てにしていたことといい、貴族なのだろう。
それなりに、貴族の顔と名前は認識しているけれど、年寄りには興味ないわ。
おじさんじゃない。
まぁ、それでも、辛気臭い修道院に行かずにすんだのだから、ちょっとぐらいなら媚びを売っておこうかしら。
「なに、お前にとっては簡単なことだろう。 ソフィアという娘と、一緒にいるはずの男を連れて来てほしい。 なーに、ちょっとした話がしたくてね。話 というか実験というか、ククク……」
男は何が可笑しいのか、声を押し殺して笑っている。
「はぁ?そんなの自分が連れてくればいいじゃない。私を連れだすより、よっぽど簡単だと思うけど?」
「私を見ると、あの男は逃げるかもしれない。少しばかり、強硬手段にでようとおもってね。」
男は、棚の中に綺麗に置かれているボトルを目で追うと、その中の一つのボトルを手に取った。
グラスに氷をいれ、ボトルの中の液体を注ぐ。
「酒は飲めるのか?景気付けに1杯どうだ」
「今はそんな気分じゃないわ、 ふ~ん?誘拐してでも連れて来たいということね。 ソフィアと一緒にいる男って? まさか、あの女に恋人でもできたというんじゃないでしょうね?アハハハ!まさかね、そんな物好きがいるわけないわ」
アンジェリカは、腹を抱えて笑い転げる。
「まぁ、男のことは追々とな。なーに、お前一人に任せようって言うんじゃない。金を積めば何でもやってくれそうな者達を、集めているさ。好きにお前の手足となって、働いてくれるだろう。 お前は連れて来たあとに、ソフィアを好きに痛ぶるといい。 ククク、あの男がどうするか……」
「人に指図されるのは、好きじゃないけれど、楽しそうね。 いい気になっているあの女には、躾が必要。誰かが教えてあげないとね」
「さっそく仕事に取りかかってもらおう。お前にとっては馴染みのある場所、ノーマン邸に連れてこい。夜は誰もいないあそこなら、仕事もしやすい、話は通してある。 それとも、感傷に浸ってしまいそうか?」
「はぁ⁉︎私を誰だと思ってるの?そんなやわな精神は持ち合わせてないわ。 それにしても、あなた何者?まぁ、聞かないことにする」
アンジェリカは立ち上がると、足取りも軽く教えられた部屋に向かう。
意気揚々と扉を開けるも、目に飛び込んできた人物達の雰囲気に息を呑む。
あの時のことが思い出されて、吐き気がした。
自分を襲ったのは、こいつらではない。
こんな仕事を引き受けるくらいだから、クズには変わりないけれど。
アンジェリカは、この者達を無性に殴りたい衝動をぐっと堪えた。
さっさと立ち去るべく、ソフィアの容姿を伝える。
馬鹿ばかりだわ。 一度で覚えなさいよ!
何度目かの説明をした後、最後にあの男から預かったメモを渡した。
ソフィアの居場所を記しているメモだ。
「それにしても、こんなに大人数で行く必要はないんじゃないの?半分は先に邸へ向かうわよ、ぐずぐずしないで!」
「「へい」」
ソフィア、邸で待っているわよ。
今に思い知らせてやるわ。
それまで、せいぜい足掻くといいわ!
過度の興奮から、ゾクゾクする気持ちに酔いしれる。
あなたの顔がどんなふうに歪むのか、想像するだけでも楽しいわ。
早く来なさいソフィア!