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別の日、奴良組のもとへ急報が入った。近くの人里で、突如として妖怪が暴れ出したという。
「またか……」リクオは険しい顔をして立ち上がる。
周囲の幹部たちもすぐさま動き出す。
一方その知らせは、牛鬼たちの耳にも届いていた。
「姫さん、どうする?」牛頭丸が問う。
レンは迷うことなく立ち上がる。
「もちろん行くわ。人間を襲う妖怪を放っておけない。」
牛鬼は腕を組み、じっとレンを見下ろす。
「だが奴良組も動いておる。リクオと顔を合わせることになるぞ。」
一瞬、レンの瞳に影が落ちる。
「……かまわないわ。私には、私のやり方がある。」
牛頭丸と馬頭丸が目を合わせ、同時に頷いた。
「よし、俺たちも行くぞ!」
「姫さん一人じゃ危なっかしいからね!」
村外れ。
闇の中に潜んでいた妖怪が姿を現すと同時に、奴良組と牛鬼一派が入り乱れての戦いとなった。
「総大将! ここは任せてください!」
「リクオ様、お下がりを!」
仲間たちの声が飛び交う中、リクオは落ち着いた眼差しで指示を飛ばす。
彼の言葉一つで、場の空気が締まり、皆の動きが揃っていく。
その光景を、レンは少し離れた場所から見ていた。
斬撃を繰り出しながらも、胸の奥に黒い影が広がっていく。
――やっぱり、みんなに慕われるのはあの人なんだ。
――私なんか、誰にも必要とされない。
「姫さん、後ろ!」
馬頭丸の声に振り返り、レンは妖怪を一閃。
だがその瞳には怒りと哀しみが入り混じっていた。
戦いが終わると、奴良組の妖怪たちは口々にリクオを称える。
「さすが総大将!」
「やっぱり頼れるお方だ!」
リクオは照れくさそうに笑っていたが、レンはその場に立ち尽くしたまま。
――みんなに愛される若(リクオ)とは違うんだよ。
静かに背を向け、牛頭丸たちを促すように歩き出す。
リクオが呼び止めようとしたが、レンは一言も発さずに去っていった。
帰り道。
夜風に揺れる木々の音だけが耳に残る。
「……姫さん。」
牛頭丸が口を開いた。
「さっきのは、気にすんなよ。あいつは総大将だから仕方ねぇんだ。」
「そうそう!」と馬頭丸も続ける。
「でも俺たちは姫さんがいてくれるから安心できるんだよ。レン様がいるから頑張れるってやつ!」
レンは黙って歩き続ける。
二人の言葉は優しいのに、胸の奥のわだかまりは晴れなかった。
――わかってる。二人が私を思ってくれてることくらい。
――でも……どうしても、あの人と比べてしまう。
ぎゅっと拳を握りしめ、レンは足を止める。
「……ありがとう、二人とも。私、もう少し強くならなきゃね。」
振り返った笑みは、どこか無理に作られたものだった。
牛頭丸と馬頭丸はそれ以上何も言わず、ただ姫の後ろ姿を見守りながら歩みを揃えた。