テラーノベル
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近くの街の、宿屋の食堂。
高い窓から日が射してきて、穏やかな昼下がりが流れていく。
大量の注文を出してから、アリアは自分の右手を見ていた。
「どうしたの?」
「いやぁ、何か薬指が痛くて……。捻っちゃったのかな?」
「ほう……。それじゃ、俺が治癒薬を掛けてやるよ!」
ザインは自分の鞄から、小さな瓶を取り出した。
当然ではあるが、この世界の治癒薬は……使うと痛い。
「メルちゃん、治癒魔法を掛けて~」
「もう、甘えないでください! ――はい、終わりました」
メルヴィナは流れるように、アリアに治癒魔法を掛けた。
いつの間にこんなに仲良く……。ザインはそんなことを思ってしまう。
「ありがと! 飴玉あげるねぇ」
「いつも飴玉ばかり、そんなに要りませんよ! ……うん、甘いですね」
「……本当に、仲がいいなぁ」
食事が次々と運ばれて、全員で手を伸ばしていく。
最初に手を止めたのはメルヴィナで、しばらく後にザインが止まり、アリアの手は最後まで動いていた。
「それにしてもアリアさんって、たくさん食べるのに……スタイルは良いですよね」
「確かに。油断すれば、いつも何かを食べているのになぁ」
「あたし、食べても太らないからね~」
「お前はまたッ! 全ての女性を、敵にまわすような発言をッ!」
「え、えぇー……!?」
アリアがふとメルヴィナを見ると、どこか拗ねたような口をしている。
「め、メルちゃんだってスタイル良いじゃん!?」
「それは、食べる量が少ないからだろ……」
「……アリアさん。そういうことは、二度と言わない方が良いですよ……」
「お、おっけー……。
でも、あたしが太らないのは……エネルギーを使ってるから、だからね?」
その言葉に、ザインは今までの彼女を想像してみた。
確かにアリアは、人間離れした動きをしていることがある。
そもそも魔法を使っていない状態で、あんな動きが可能なのだろうか――
「……お前があんなに強いのって、もしかして……最新の古代魔法、ってやつのおかげ?
身体強化――っていうか」
「ほう……。ついにあたしの秘密に迫ってきたねぇ?」
「やった、正解だ!!」
「私としては、ようやくそこに行き着いたのか……って感じですけど」
メルヴィナは、ザインのことを少し冷めた目で見ていた。
そんな目を向けられたザインは、何となく悲しい気持ちになってしまう。
「それじゃ、あたしは魔力を補充しようかな~」
そう言いつつ、アリアはデザートのパフェを頼み始める。
しかしアリアが摂ろうとしているのは、魔力と呼ばれたカロリーだ。
メルヴィナはそんなアリアを羨ましそうに眺める。
「アリアさん……。私にもその魔法、教えてもらえませんか?」
「難しいから無理だよ。メルちゃんが使ってる魔法とは、いろいろと違うからね」
「……その、スタイルの話は置いておいて……。
#僕のヒーローアカデミア夢小説
私も強くなりたいんです。おふたりの力になりたくて……」
確かにメルヴィナは、先日の戦いでは役に立たなかった。
厳密に言えばザインに掛けた支援魔法……のようなものは役に立ったが、無くても結果は変わらなかっただろう。
何しろ、アリアがひとりで強すぎるのだ。
多少のことでは、その現実は何も変わらない。
「まぁ、お前みたいなレベルにまでは無理でも……。
メルヴィナのこと、どうにかしてやれないか?」
「メルちゃんには素敵な異能があるんだから、それを伸ばすことをオススメするよ?」
「……私の? 『光の饗宴』のことですか?
いや、あれは見た目だけの異能――」
「まずはそれがダメ、だよ。自分で自分の可能性を潰しちゃってる」
アリアの言葉に、メルヴィナはハッとした。
以前、大聖堂で……同じく異能を持つミラが、1週間にして劇的に力を付けたことを思い出したのだ。
自分がやっていたことは、より精巧な、より精密なものを描けるようになる訓練だけ……。
もしかして、他の可能性もあるのではないか――
「……ふふっ。まずは自分で、考えるところからだねぇ。
でも、そこまで気が付いたお祝い♪」
そう言うとアリアは、運ばれてきたパフェの頂きにある苺を、メルヴィナの口に押し込んだ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
食事を済ませると、その後は様々な店を巡った。
ヴェルガ教の一部の信者には懸賞金が懸けられており、幾ばくかの収入があったのだ。
それを使って買い物を行い、この街を発つ準備を済ませることができた。
そして、夕方の食堂で――
「ところで、仲間を増やしたいんだよね」
アリアの言葉に、ザインが驚いた顔を見せる。
「お前から仲間が欲しいだなんて……。成長したなぁ……!!」
「それ、何目線……? もしかして、親?」
「あはは……。妹を心配する兄、にも見えますね……」
メルヴィナもよく分からず、愛想笑いを浮かべるしかできない。
「それで? 俺とお前は前衛職みたいなもんだし、メルヴィナは支援職だから……。
もしかして、魔法職とか?」
「ううん? 前衛職だよ?」
「え……。まさか、俺じゃ足りないっていうのか……!?」
ザインは寂しそうな顔を浮かべた。
確かに今までの戦いにおいて、彼は前衛に身を置いていたのだ。
「いや、情報屋はスピード型じゃん? 今はパワー型が欲しいの。
ほら、思い出してよ。この前の鉄球!」
「鉄球……? ああ、振り子みたいに飛んできたアレ……のこと?」
そのときはアリアが止めていたものの、そもそもその光景が凄まじすぎた。
大男ですら軽く吹き飛ぶ重量級のトラップを、か弱そうな少女がひとりで受け止めていたのだ。
「あれくらい、ひとりで受け止められる逸材が欲しいな~」
「お前は一体、何と戦うつもりなんだ……」
ザインは力なく、椅子の背もたれに体重を預けた。
メルヴィナも、いつの間にか身を乗り出していた自分に気付き、同じように背もたれに寄り掛かる。
「――あ」
アリアとザインが、メルヴィナを同時に見る。
「もしかして、心当たりがある? メルちゃんは大聖堂の中で、顔が広そうだからね」
「お前も……愛想は良かったと思うぞ。異端諮問局の外では」
「あはは。薄い関係がいくらあっても、何の足しにもならないよ」
そういうアリアを見ながら、メルヴィナは親近感を覚えた。
確かに自分も顔は広い方だったが、いわゆる濃い関係……というものは思い当たらなかった。
強いて挙げれば、今はアリアだけなのだ、と……少しだけ、そんなことを考えた。
「数年前の話ですが、ガルドという方が……大聖堂にいまして。
肉体強化の、凄い異能を持っていたんですよ」
「ガルド? ……うーん? どこかで聞いたような……」
「うん? 知り合いか?」
アリアは帽子から紙の束を取り出して、パラパラとめくっていく。
「……ああ、オリバー様からもらった資料にある人だ。
あたしたちが探している聖女の、護衛をしてる人……だってさ」
「ほう……。今は聖女を探しているわけだし、向かう先は一致しているな」
「でも、聖女様と一緒にいるんですか?
私が知っている話だと、既に大聖堂を辞めているはずなのですが――」
「大聖堂を辞めたあとに、聖女を護衛しているのかな? ……再就職?」
大聖堂を辞めたからといって、その先は何の仕事に就かない……というわけもない。
ただ、大聖堂から隠されていた聖女に、大聖堂を辞めた人物――
……少なからず、何かしらの事情はありそうだ。
「よし、それなら俺たちがやることは何も変わらないな。
まずは聖女を探すぞ!」
「……それ、ずっとやってるつもりなんだけどねぇ」
「ヴェルガ教の件もありましたし、こんな調子ではいつになることやら……」
そこまで言うと、3人は溜息をついた。
今のところ、大聖堂の主教が持っていた情報――それ以外には、情報が何も無い。
分かっているのは、聖女とガルドのことと、住んでいる大まかな土地のことだけ。
その大まかな土地……というのがヴェルガであり、ここをずっとうろうろしていて、未だに有力な情報は得られていない。
「そもそも、偽名を使っている可能性もあるんだよな。
俺たちの中では、メルヴィナがガルドって人を見たことがあるだけ……だろう?」
「あたしはそのとき、大聖堂には所属していなかったからね。
主だった街を張って、見つけられるまで頑張る……とか? 年単位で掛かるかもしれないねぇ」
「既に引っ越していたら、永遠に張ることになるけどな……」
3人は顔を合わせて、そのまま悩み続けた。
その傍らで食堂の店員を呼び、注文を入れつつ、食事も続ける。
主には酒を飲みながら、味の濃いツマミを食べながら――
「――ああ、そうだ。
メルヴィナはガルドって人の顔、覚えているのか?」
「はい。当時の顔なら……よく」
「似顔絵を描いてもらって、それで探すのはどう?」
「お! それは良いかもねぇ!」
ザインとアリアは、メルヴィナに期待の眼差しを送る。
アリアは帽子の中から紙とペンを取り出し、メルヴィナの前に並べる。
……それを見たメルヴィナの頬が、ぴくりと動いた。
「……あの。私、似顔絵とかは……描けないんですけど……?」
「えー? 『光の饗宴』で、あんなに凄く描けるじゃん? 何事も挑戦だよ~」
「そうだぞ! とりあえず描いてみろよ!」
「いやいや……。無理ですって……」
「絶対に笑わないから!」
「アリアさん、何とか言ってやってください――
……って、いつの間にか寝てる!?」
アリアはテーブルに突っ伏していた。
メルヴィナが描いた似顔絵を見たい……ということもあり、全ての進行をザインに押し付けるためだったが――
……しばらくした後、ザインの笑い声と、ザインの頬が思い切り引っ叩かれる音が聞こえてきた。
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