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#僕のヒーローアカデミア夢小説
メルヴィナが描いたガルドの似顔絵は、お世辞にも上手いものではなかった……。
しかし、彼女の異能である『光の饗宴』で描くと、生き生きとした男性の像が光によって作り出された。
それをザインが模写して、紙の上に描き取られる――
「へ~。情報屋って、こういう特技もあったんだ」
「俺は情報屋だからな。似顔絵術、っていうのもあるぞ?」
そう言うとザインは別の紙に、少しデフォルメした似顔絵を描いていく。
「は~。器用なものだねぇ」
「人にはどこかしら、長所があるんですね~」
メルヴィナの嫌味に、ザインは軽く睨もうとした――
……が、彼女から与えられた頬の痛みに気が付く。
さすがに笑いすぎたか……。ザインはそんな反省をしていた。
「それじゃ、この似顔絵を使って探していこうか。
偶然見つけられれば良いし、聞き込みをしても良いし」
「しかし、自分を探している人間がいる……っていうのは気持ち悪いものだからな。
できれば噂にならないようにしたいところだけど……」
「うーん? それじゃ、どうすれば良いの?」
「そうだなぁ。例えば、情報屋に聞いてみるとか……」
「うん? 情報屋は、知ってるの?」
「あん? そりゃ、情報屋なら知ってる可能性があるだろ?」
「ふむ? それじゃ、教えて?」
「んん……?」
どこか意味が通じていない会話に、メルヴィナが入ってくる。
「アリアさん。ザインさんが言ってる情報屋っていうのは、ザインさんのことじゃなくて……」
「……ああ、そっか。
この前も、このトラップに引っ掛かった気がするよ」
「あのなぁ。お前は墓穴を掘ってるだけなんだからな?」
「確かにややこしいですよね。
アリアさんはザインさんのこと、名前で呼んであげないんですか?」
「やっぱり、今さら……なんだよねぇ」
「いつか、名前で呼ばせてやる……!」
本人たちがそれで良いなら……と、メルヴィナは思った。
ただ、今ですら『今さら』というのであれば、その『いつか』は永遠に来ないような気もしていた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
翌日から、ザインの描いた似顔絵で人探しが――ガルドの調査が始まった。
ザインは近くの街を回り、その土地の情報屋に接触をしていく。
アリアは教会や公的な施設を、メルヴィナは食料品店などを中心にまわっていた。
……しかし3週間が経っても、有力な情報を得ることはできなかった。
「うーん。進捗が無くて3週間は……時間がもったいない……」
「確かになぁ。情報屋に調査を依頼しても、何だか動きが良くないし」
「私の見たところ、ザインさんの実力ってかなりあると思うんですよ。
だからザインさんの求める基準の方が、高すぎるんじゃないですか?」
メルヴィナの言葉に、少し嬉しそうにするザイン。
「確かに、あたしに付いてこられるくらいだし……ね」
「ほう……、認めたな?
それなら俺は、情報屋を越えた存在、ということになる。今こそ、俺の呼び方を変えるときッ!!」
「情報屋王!」
「……やっぱり、今までのままでいいわ……」
早めのおやつを食べ終わり、甘味処から出る。
陽はまだ高く、宿屋に戻るのもまだまだ早いところ――
……そんな中、通りの向こうから来た大男が、突然声を掛けてきた。
「……もしかして、ザインってやつはいるか?」
低く、落ち着いた声。
身長もザインよりずっと高く、身体も山のようだった。
「ザインは俺だが……うん? あんたもしかして、ガルドさん?」
「ああ、その通りだ。
この街の情報屋から、オレを探している男がいるって聞いてな」
「……ガルドさんの情報を買うつもりが、ガルドさんに情報を売られていたんですね……」
「だめじゃん、情報屋。今回の査定はマイナスだよ」
「何か知らん間にマイナスされたァ!!」
「……おかしな奴ら……だな」
目の前で始まる軽い流れに、ガルドの出鼻は挫かれた。
少し困惑しながらも、ガルドはアリアたちをひとりひとり見ていく。
「オレのことを探してた情報屋に、外回りの神職者……。あとは、貴族風の――
……うん? もしかして、メルヴィナお嬢さん?」
ガルドの言葉に、視線がメルヴィナに集まる。
「お久し振り……です。ガルドさん」
その返事を聞いて、ガルドは微妙な顔をする。
「やめてください、お嬢さん。昔の通り、呼び捨てで結構です」
「えぇっと……? ああ、まずは自己紹介しますね。
あたしはアリア、こっちが情報屋――」
「ザインだ!」
「メルちゃんのことは……大聖堂以外で、何かしらの関係が?」
「ガルドさん――いえ、ガルドは昔、私の家門で騎士をしていたんです」
……メルヴィナの話を聞けば、彼女が大聖堂に入るとき、その護衛としてガルドも一緒に行ったらしい。
しかしメルヴィナが異能を発現したことにより、彼女は主教や大司教の直轄に配属されることになった。
ガルドとは徐々に会えなくなり、いつの頃にか……ガルドは大聖堂を辞め、そしてメルヴィナの家――ローネル家にも戻らなかったそうだ。
「――ごめんなさい。ガルドのこと、何があったのか聞けなくて……」
「気にしないでください。お嬢さんは、何も悪くありません。
……それにローネル家だって、何の関係もありません」
「でも、私は――」
ガルドの言葉に、メルヴィナは食い下がろうとしたが……言葉が出て来なかった。
「……道の真ん中で話していても、邪魔になるでしょう。
オレが住んでいる小屋があります。そちらに移動しましょう」
「そうですね。みなさん、それでいいですか?」
アリアとザインは頷き、3人はガルドの後を付いていった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
3人が連れていかれたのは、街から離れた森の中。
樹々が開けた空間の中に、ポツリと丸太小屋が建てられていた。
外には木製のテーブルと椅子が並べられ、読書をするのも気持ちが良さそうだ。
ガルドは小屋の中に入ると、しばらくしてから紅茶を淹れてきた。
品の良いティーカップは、ガルドの手元ではミニチュアのように小さく感じてしまう。
椅子にはアリアとメルヴィナが座り、草の上にはガルドとザインが座った。
「――お嬢さんと離された後、オレは戦いに出されたんです。
……主教の命令で、任務は……極秘で。
所属も与えられませんでした。今にして思えば、完全に捨て駒……ということですね」
ガルドは昔の自分を蔑むように笑った。
命令を拒否すれば、メルヴィナの将来に傷がつく。ローネル家も睨まれてしまう。
……そんな脅しもあったようだ。
「その任務というのは……オルビス神の神託があった、聖女様の確保でした。
任務を受けた者は全員、聖女様を大聖堂に迎えるのだと……そう思っていました」
「……違ったの?」
「はい。聖女様を確保した後、主教の密命を受けた者が、オレたちを毒殺しようとしたんです。
この任務を知る者を、ひとりでも、できるだけ少なくしようと――」
「あれ? ガルドさんは、ご無事だったんですよね?」
話の途中、アリアが質問を挟む。
「ああ。オレはそのとき、異能を手に入れたんだ。
生と死の狭間だったからなのか、何かの運命だったのか……」
「ふむ……。死に瀕したとき、異能を得る場合もありますからね」
アリアの言葉に、ガルドは頷いた。
「……結果として、オレと聖女様は奇跡的に助かった。
だからオレは、聖女様を連れて……故郷の村に戻ったんだ。
しかし、主教の追手が掛かった。オレの家族も、全員が襲われて――」
ガルドは誰もいない方に目を向けながら、言葉を選ぶように続ける。
「……腹に槍が突き立てられたとき、オレは再び異能を使った。
気が付いたときには、オレは血の海の中で、聖女様に抱きしめられていたよ。
オレの家族は、誰も生きてはいなかった。暴走したオレが、追手ともども、家族を……」
ガルドの話を、3人は静かに聞いていた。
強くなることと引き換えに、意識がなくなる……いわゆる、暴走系の異能。
これに苦悩する者は多い。不安と恐怖を抱えながら、ひとりで生き続けるのだ。
「……オレはもう戦わない。オレはもう教団とは関係しない。聖女様のことも口にしない。
お前らの目的は、きっとどれかなんだろう? だからオレのことは忘れて、放っておいてくれ」
沈痛な空気がその場を支配する。
しかし最初に口を開いたのはザインだった。
「――で? 家族を殺されたからって、未だにめそめそしてるのか?」
「……何だと?」
「ちょっと、情報屋!?」
「そりゃ、痛ましい事件だとは思うし、同情もするよ。
でもさ旦那、あんたァそこから一歩も進んでいないじゃないか」
「お前に何が分かる? お前に、家族を失った苦しみなど……」
「わかるさ。それはあんたの専売特許じゃない」
「……お前に何が分かる。深々と肉体に刻まれた、敗者の烙印を」
ガルドは立ち上がり、服をめくって腹を見せる。
凄まじい筋肉と共に、古い傷が大きく走っていた。
「なぁに、そんなのもよくある話さ」
ザインは立ち上がり、上着を脱いで背中を見せる。
引き締まった筋肉と共に、古い傷が大きく走っていた。
「……無様だな。戦いから逃げたときの傷か?」
「こちとら旦那と違って、正面堂々の勝負ばかりじゃないもんでねぇ。
そうさ、無様な傷さ。敗者の烙印よりも、よっぽど無様さ。でも、旦那も大概に無様だよなぁ?」
「……やる気か?」
「ああ、やってやろうぜ? 何なら、異能を使ってもいいぜ?」
――思いがけず、ザインとガルドは本当に戦うことになった。
メルヴィナは手に汗を握り、アリアは手にポップコーンの袋を握っている。
スピードで翻弄するザインに対して、些細な攻撃ではビクともしないガルド。
……結果、ふたりの体力が尽き、勝負は引き分けとなった。
「……はぁ、はぁ。なかなかやるじゃねぇか」
「旦那も思ったより、よくやるじゃないか。但し――」
「……うん?」
「アリアは、もっと強いぜ?」
「は? あの子が……?」
ザインの言葉に、ガルドは驚いた。
しかし先ほどまでとは違い、少しだけ……何かが吹っ切れた顔をしている。
身体を動かしたせいだろうか。あるいは、自分では触れられない古傷を……思い切り抉られたせいだろうか。
「おーい、ちょっと相手してやってくれない?」
「嘘でしょ!? ……えっと、手加減はしていい?」
「……冗談はほどほどにしておけ――」
「いいから! いいから!」
アリアはポップコーンの袋をメルヴィナに渡すと、困ったようにガルドの前に立ち塞がった。
ガルドは場の悪ノリに困りながら、念のため……防御の姿勢を取りながらアリアに近付いていくと――
――目の前が、空になった。
もうすぐ日が暮れる頃。色の変わり始めた空を感じながら、背中に強い衝撃が走る。
「ひゅぅ! 見事な背負い投げッ!!」
「……信じられねぇ」
「まぁまぁ。ガルドさんは疲れていたし、油断もしてくれていましたから。
それで……一応あたしが勝ったので、話だけでも聞いてもらえませんか?」
「……はぁ、仕方が無い。それなら明日にでも――」
「――あら、いいじゃありませんか」
突然、凛とした女性の声が聞こえてきた。
見れば、丸太小屋の入口の横に……すらっとした女性が立っている。
銀色の長い髪、七色のような不思議な瞳……それにしては、少し地味な服。
「フィオナ様!? 何で外に……!!」
「うふふ。ガルドが楽しそうにしていましたから♪」
「もしかして? あなたが――」
……フィオナ・G・エーメリー。
死者にすら命を与えられる……当代の、聖女。