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狭い遊歩道を押し合いへし合いでこちらに向かってくる。
わたし達の前方にいた殿下の護衛の騎士様たちが悲鳴の上がった方へ行こうとするが、逃げてくるご令嬢達に阻まれて、なかなか行けない。
「なにがあったんだ?」
アーサシュベルト殿下とセドリック様が逃げてきたご令嬢達になにが起こったのか、それぞれ懸命に聞き取ろうとしている。
「ナイフ…走って…男が…」
「お…男がケイシー嬢を…」
ご令嬢達は、息が上がっているのと動揺でなにが起こっているのか、上手く説明ができないよう様子だ。
座り込んだり、泣き出している方もいるので、わたしとマリエル嬢はご令嬢達の侍女達と一緒に怯えるご令嬢達の背中を摩ったり、手を握って落ち着かせようとする。
その場が騒然とする中、さっきまで歩いてきた遊歩道の奥に、男にナイフを突きつけられている派手なドレスのご令嬢が目に入った。
あのドレスのご令嬢…
殿下を懸命に誘っていた今日1番にゴージャスなお方。
男がなにか喚いているがよく聞こえない。
護衛の騎士様と殿下達が喚いてご令嬢にナイフを突きつける男と人質に取られているご令嬢の元に急いでる。
ナイフ男が、また大声で叫んだ。
「公爵令嬢エリアーナは人質に取った!!金を出せ!」
間違いなく、そう聞き取れた。
マリエル嬢にもそう聞こえたらしい。
わたしの方を見て、難しい顔をしながら首を横に振る。
あの派手なドレスのご令嬢は、わたしと間違えられたのね。
「少しこの場を離れることを許してくださいね」
落ち着かせようと手を握りしめていたご令嬢にそう声を掛けて、握り締めていた手を離す。
「エリアーナ嬢、行ってはいけません!あそこはセドリックや殿下達に任せましょう!」
マリエル嬢が懇願するかのような表情をされる。
「ありがとうございます。でも大丈夫。すぐに戻るわ!」
もう、最後を言い切る途中で駆け出していた。
周りの人間に追随されないように懸命に走る。
誰も巻き込んではいけない。
これもわたしへの嫌がらせのひとつだろう。
その時はマリエル嬢や他のご令嬢達が唖然と見ていたなんて、気づきもしなかった。
少し走れば、すぐに殿下達のところに着いた。
「エリアーナ嬢!」
セドリック様がわたしが来たことに驚きの声を上げて、すぐにしまった!という顔をされる。名前を呼んだのはまずかったですよね。
「エリ… なぜ来たんだ」
殿下もすぐにわたしに気づかれた。
「なぜって、いまそちらの男性に大声で呼ばれましたので来ただけですよ」
全力疾走をしてきたので、息が上がっているがそのことに気づかれないよう優雅にニコッといつもの王族スマイルをキメる。
最前列でナイフ男と睨み合っている護衛の騎士様達も振り返っている。
「今すぐ戻るんだ!」
アーサシュベルト殿下がいつにも増して、怖い顔でわたしに戻るように促してくる。
「お願いします。殿下の言うことを聞いてください」
セドリック様も眉間に深いシワを寄せている。
殿下がわたしの腕を掴もうとしたの躱し、ナイフ男に歩み寄る。
「そこの男性の方。わたしが公爵家ディステンのエリアーナです。そちらのご令嬢は人違いですよ」
「嘘つけ!こいつの方がおまえよりいい服を着ているぞ!」
そうですよね。ナイフ男も見る目があるじゃないですか。
「ケイシー嬢ですよね?」
首にナイフを突きつけられているご令嬢が泣きそうな顔でコクコクと深く頷く。恐怖で声が出ないんだろう。
「嘘だろ!?」
「いいえ。人違いですよ。わたしがエリアーナ。人質をわたしと交換をしましょう」
わたしはゆっくりとナイフ男に向かって歩みを進める。
「エリアーナ、なにをするんだ!」
アーサシュベルト殿下が叫んだ。
「ほらねっ。アーサシュベルト殿下もわたしをエリアーナと呼ばれましたよ。彼女を解放して、わたしを人質にしなさい」
ナイフ男がわたしと人質に取っているご令嬢を見比べ、困惑している。
「外見に騙されてはいけません。どちらが公爵令嬢だと思われますか?」
ケイシー嬢のドレスに負けてはいられない。精一杯の虚勢を張って、威厳が出るように顔をキリッ引き締める。
「わかった。おまえ、ここまで来い」
男はわたしがエリアーナだと確信したのか、そばに来るように命じた。