テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
1-1 桜は、散った【春菜side】
なんで、私の夢にも出てくるのっ。
今は、ひたすら走る。
あの家から逃げるように。
逃げても、逃げられないけど。
夜の風が、私の足を速めてくれる。
呼吸が早くなるのが自分でもわかる。
息が切れてきちゃった。
『勉強してる?春菜のためだからね。』
何が私のためだ。
そんなの、私を縛り付けてるだけでしょ。
高校に上がって、最初のうちは、我慢出来てたけど、三年になって、さらに、勉強、勉強って、もう、嫌だよ、
「着いた、けど」
疲れた。
「春菜ちゃん、だよね。こんばんは。」
「っ、」
ふきさん、外で待っていてくれたのかな。
少し暑そうにしてる。
「電話くれたよね。ありがとう。中でしゃべろっか?」
「…はい、」
案内してくれた場所は、夜中の蒸し暑い時間を無視しているかのように、春みたいに空気がやわらかい場所だった。手の震えも、少しずつ、なくなっていく。
「いつもの麦茶でいいかな?」
「はい。ありがとうございます。」
ここの麦茶は、特に好きだ。
どこか、安心する味がするから。
「はい。どうぞ~」
「ありがとうございます。」
ふきさんの笑い方、どこか心強い笑い方。
私のは、作ってること多いし。
全然違う。いいなぁ、
夜の部屋には、静けさが広がっていた。
それを破ったのは、ふきさんの優しい声だった。
「春菜ちゃん。今日、なんでここに来たのか、理由聞かせてくれる?」
『理由を教えて。春菜』
「っ、」
その質問が来ることなんて、わかってたのに。
言わなきゃなのに、言葉、でてこない。
怖い。
また、責められるっ、
「言いたくなかったら別に大丈夫だよ。」
「…わからないです。」
「こう、沈んじゃう時ってなんでかわからない時ってあるよね(笑)私もあったよ。そういうこと。」
おんなじ?
「意外だった?たまに言われるんだよね~」
「確かに、意外です。」
「やっぱりそう思う?」
そのふきさんの笑い方は、どこか可愛らしくて、私もつられるくらいだ。
「春菜ちゃん。家、帰れそう?」
「っ、」
楽しく、雑談してた。
時計見るまで、家のこと全然考えてなかった。
どうしよ、
「泊まっちゃう?」
「え?」
そう笑って、冗談ぽく言うふきさん。
だって、こんな急に、いいの?
ここに居て、迷惑なっちゃわないのかな?
「部屋に関しては、ちゃんと用意できるよ。遠慮なく泊まってくれてもいいんだけど、親御さんとか、大丈夫?連絡しとこうか?」
「いえ、自分でできますけど、本当にいいんですか?泊って、」
「いいから言ってるんだよ~?ちょっと待っててね。用意してくるから。」
その間に、お母さんにLINEしとこ。
『今日、友達の家に泊まるね。』
本当は、叶花だけど、いっか。お母さんに叶花のこと言ってないし。
…既読は、さすがに寝てるか。寝てる間に出てきちゃったし。
「春菜ちゃん!用意できたよ~!」
「ありがとうございます、!」
案内してくれている道中、私はふきさんに質問をした。
「ずっと気になっていたんですけど、“叶花”ってどういう意味なんですか?」
「……もともとはね、“叶わない”からきてるの。」
「叶わないのに、叶?」
「うん。叶わなかったからこそ、”もう一度咲ける場所“を作ろうって、初代が名付けたの。」
「じゃぁ、ここにいる人たちは、みんな“叶わなかった人”何ですか?」
「そう。でも、人は似てても全く同じ咲き方をしないからね。着いたよ。ここ開けてみて?」
ちょっと、悲しそうな顔してた、ふきさん。
なんかあったのかな…?
開けてみると、シンプルだけど、おしゃれな部屋で、私の好みだった。
「前、桜が好きって春菜ちゃん言ってたから、それをテーマにしてちょっとやってみたんだけど、…どう?」
「ふきさんがやったんですか?」
「まぁ、利用者の皆さんには快適に過ごしてほしいから。気に入った?」
「はい、!ありがとうございます!」
「お風呂とか服とか、そっちにあるから使ってね」
「わかりました。ありがとうございます。」
「いえいえ~ なら、私、さっきの部屋に居るから、何かあったらきてね。おやすみ」
「おやすみなさい。」
ふかふかのベッドに腰を下ろす。疲れた。
ちょっと沈む感覚が心地よくて、思わず、手のひらで、何回かぽんぽんと叩いちゃう。
ここに通所して3週間、何も変わらない。
なんか、焦っちゃうな。何に対してかはわかんないけど、
こういう夜って、何かしら、思い出すなぁ、
3週間前、ここに来た時のこと、あんまり覚えてないや、
でも、だからって申請したことを私は後悔してない。
もう疲れたから。
「こういう、空間、いいな、」
誰にも聞かれない独り言。
なんか、久しぶりだなぁ。
「…ん?この香り、桜?…あ、桜のドライフラワーある。」
きっと、ふきさんが用意してくれたのだろうな。
(……ここ、本当に安楽死施設なんだよね、)
まだ心は、落ち着かない。
あの夢を思い出しちゃうから。
でも、ここに来る前よりは、ほんの少しだけ、呼吸しやすい気がする。
(でも、どうせ、一年後には…)
「…桜はまだ、咲かないのに、」
泣きたくなるほど疲れた。
「ん?んーっ、」
あ、そっか、ここ叶花だ。
ねむい…
今、何時だ?
7時…
7時?!
やばっ、学校、
こんこんこんっ
「入っていいかな。春菜ちゃん」
「あ、はい」
「失礼します。おはよ。春菜ちゃん。寝れた?」
「寝れたんですけど、その、学校行かないと。」
「本当に行きたいの?学校。」
「え…?」
「学校、行くものだって思ってない?無理に行かなくていいんだよ。一日ぐらい、休む日作らない?」
「…行きたくない、けど、」
「なら、お願い!会ってほしい人がいるんだ。」
「会ってほしい人?」
「西村まなちゃんっていうんだけどね。仲良くしてあげてほしいの。」
コメント
1件
ayaさん、第1話読ませていただきました。 「叶わないからこそ、もう一度咲ける場所」という“叶花”の名前の由来に、ぐっときました。春菜ちゃんの息苦しさと、ふきさんのふわっとした優しさの対比がとても丁寧で、夜の静けさの中であたたかい麦茶を飲むシーンが特に好きです。この先、彼女がどんなふうに“咲いていく”のか、気になります。続きを楽しみにしています🌷