☆☆彡.。
ドリームが見つからないように、街から外れた林の中の木に括りつけた。
ドリームが大人しく待てるように声かけをしてから、フード付きのケープを纏って、店があった場所へ急ぐ。この時点で既に夜になっていたので、その場所には誰もいなかったが、バーを示す看板に明かりが灯されていることで、営業しているのがわかった。
フードを目深に被り直してから、中年男性が入ったバーの扉を思いきって開ける。こじんまりした店内は、カウンター席とテーブル席に分かれていて、テーブル席だけに客が数人たむろしていた。
迷うことなくカウンター席の真ん中に腰かけてから、店主に話しかける。
「すみません。ビールをください」
「あいよ、ちょっと待ってろ」
店主は洗い物をしている手をとめて、僕がオーダーしたビールを小ぶりのグラスに注ぎ入れる。
「アンタ、見慣れない顔だな。どっから来た?」
店内に灯された明かりが頭頂部に反射して、いい感じにてっぺんが光っている店主は、真顔で僕に訊ねつつ、ビールの入ったグラスをカウンターに置いた。
「南の砂漠から流れ着いて、ここに来ました。ちょっと聞きたいことがあるんですが」
僕の出身地は北の砂漠だったが、身元がわからないようにするために逆の方角を告げた。
「聞きたいことってなんだ?」
店内にいるのに、フードを被ったままでいることを指摘しない店主を不思議に思ったが、意を決して中年男性のことを訊ねてみる。
「口ひげを生やした、緑色のベストを着ている中年男性を探してます。背格好は僕と同じくらいなんですが」
「緑色のベスト? ああ、鉄道関係者か。口ひげを生やしてるって、ズベールが昼間ウチの店に来ていたが」
「相当酔っていましたよね?」
「ああ。だから酒を飲ませずに水をやったさ」
「今日僕の店で、財布を落としたんです。届けたいんですが、住んでいるところがわかりますか?」
サラッと嘘を重ねて、真実味を増した僕のセリフを聞いた店主は、やれやれと言わんばかりに肩を竦める。
「住んでるところはわかってる。アイツはツケで飲むんで給料日になったら、自宅に徴収に行くんだ。ちょっと待ってろ」
親切な店主は住所だけじゃなく、地図まで書いて僕に渡してくれた。
「アイツの財布の中身なんて、たいして入っていないだろうに。優しいのな」
「困ったときはお互い様です」
もらったメモ紙を丁寧に折りたたみ、出されたビールを一気飲みしてから腰をあげる。
「アンタは、なんの店をやってるんだ?」
お金を払おうとポケットに手を突っ込んだタイミングで、店主に訊ねられた。
「えーっと、アクセサリー関係です」
上擦った声で嘘をついたが、店主は疑問に思わなかったらしい。太い二の腕を胸の前に組み、神妙な面持ちで語り出した。
「だったら違うか。夕方役人が大勢来て、飲み物を売ってた移動販売の店について聞かれたんだ。なんでも暴力で人を殺したって」
「!!」
(――アンジェラが亡くなった!?)
ショックでなにも言えずに固まる僕に、店主は話を続ける。
「確かに昼間、そこの広場でなにかを売ってるのは見ていたんだが、アンタ知らないか?」
「さぁ……。ご馳走様でした、チップ弾んでおきますね」
質問を曖昧に答えて多めにビール代を支払い、足早に店をあとにした。
コメント
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続き楽しみです!!