【お願い】
こちらはirxsのnmmn作品(青桃)となります
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ご本人様方とは一切関係ありません
小児科医青×天才外科医桃
のお話です
桃視点
実家と言っても都内にあるし、電車で1時間もあれば着く。
それでも普段は忙しさのあまりろくに帰ることはなくて、家族の顔を見るのも久しぶりだ。
一旦自宅に帰って荷物を持ってから訪れた時には、もう日もとっぷりと暮れる頃だった。
連絡もなく急に現れた俺に、母親も妹も心底驚いた顔を見せる。
それでも迷惑な顔一つせず、俺の分の夕飯までさっと用意してくれるんだから母親ってすごいと思う。
「もー来るなら来るって先に言ってくれれば、お兄ちゃんの好きなもの用意しといたのに」なんて苦笑いは浮かべられたけれど。
「何してんの、お前」
仕事で帰りが遅い父を除いて、3人で夕食を終える。
そして食後すぐにリビングのテーブルでパソコンを開き始めた妹に、横から声をかけた。
その画面をひょいと覗くと、大量の写真が並んだフォルダが映っている。
「今日1日かけてフォルダ整理してたんだけど、まだ終わんないの。お母さんったら、撮った写真のデータを取り込むだけ取り込んで全然整理してないんだもん」
「だってそんな時間なかなかなくて」
キッチンで洗い物をしながら、母親がそう妹に言葉を返している。
洗うくらいは俺がやろうかと声はかけたけれど、キッチンは自分の聖域だと言って譲ってもらえなかった。
おかげで食後のコーヒーまで出されて、手厚くくつろぎの時間を与えられている。
「ねーお兄ちゃん見て見て。さっきめっちゃかわいい写真あったの」
カチカチとマウスを操作して、妹は何枚かの写真を並べて表示する。
そこには3~5歳くらいだろうか…誕生日プレゼントのおもちゃを前に目を輝かせていたり、幼稚園の時のお遊戯会で全力ダンスしたりする俺の昔の姿。
「すげーなつかし」
ふっと笑って横から眺めていると、妹が「これ私のお気に入り」と1枚の写真を見せてきた。
公園で地べたに座り込んで大泣きしている5歳くらいの自分。
上を仰向いて泣いている表情から、音なんてないのに大きな泣き声が聞こえてきそうだった。
「あーそれね、お兄ちゃん、滑り台から落ちて大泣きしてたのよね」
「いやいやいや!そこは助けるでしょ、何悠長に写真撮ってんの!?」
のほほんとキッチンから声を寄越してくる母親に対して、思わず即ツッコミを入れてしまう。
ふふふ、と笑い返す母親の方からはカチャリカチャリと食器の音が続いて聞こえてきた。
…まぁきっと、当時その場にいて大したことないって判断したからであって、もっと大変な大怪我だったらさすがにすぐに手を伸ばしているんだろうとは思う。
「あーこっちもかわいい」
自分の写真見ろよ、と妹に対して思わなくもなかったけれど、当の本人はそんなこと気にもせず俺のアルバムをカチカチと音を鳴らしてめくっている。
次に見せられたのは、真っ赤な顔で熱冷ましのシートを額に貼り、潤んだ目をカメラに向けてベッドに横たわる俺の姿だ。
…多分、3歳くらい。
「いや明らかに具合悪そうじゃん。だから何でこんな時に写真なんか撮ってんの」
「あーその時、お母さん本当に生きた心地しなかったのよねーお兄ちゃん辛そうで」
「え、カメラ向けておいてそれ言う…?」
しかも全く記憶にない。
見るからに高熱がありそうで、力ない眼差しからは普通の風邪のようには見えなかった。
そしてそこで気づく。横たわるベッドが真っ白で、向こう側に映る壁が無機質に冷たく感じることに。
「あれ、しかもこれもしかして家じゃない…?」
「あぁそれね、麻疹 にかかっちゃって入院したのよね。40度の熱が下がらなくて、脱水症状起こして肺炎にもなりかけてたから」
「うーわ」
覚えがないくらい小さな頃に一度入院したことがあるとは聞いたことがあったけれど、麻疹だったのか。
こんな小さい頃の麻疹が、一歩間違えればどれほど怖いかは今ならよく分かる。
適切な処置が後になって間に合わず…なんて話も、決して今のご時世でもありえない話じゃない。
写真の中の自分に「かわいそ」と他人事のような感想を抱いた時、母親が急に「ふふ」と笑いだした。
「何?」と目線で問い返すと、何を思い出したのか懐かしそうに目を細めている。
「そのすぐ後よねー、いふくんが小児科医になるなんて言い出したの」
「……は?」
「それでそんな小さい頃の夢を本当に叶えちゃうんだから、すごい努力家よねあの子」
母親が継いだ言葉に、俺はコーヒーの入ったマグカップを持ち上げようとしていた手をぴたりと止めた。
取っ手から指を引き抜いて、目を見開き母親の方を振り返る。
「あいつが小児科医になろうって決めたの、高校の時とかじゃなかった…? 俺その頃聞いたけど」
問い返した俺の声に、母親は片付けを続けていた手を止めて顔を上げた。小さく首を傾げる。
「そんなはずないわよ。お兄ちゃんに言ったのがそのタイミングだっただけじゃない?」
言葉を失くして、薄く開いた唇はそのままだった。代わりに息を飲むことしかできない。
「悔しかったんじゃないかしらね」
「『悔しかった』?」
声が出せない俺に代わって、妹が母に尋ね返す。
「お兄ちゃんがね、熱でうなされながらいふくんの手握って『いふまろ、たすけて…』なんて言ってたから。そのまま引き離されて入院したし、絶対うつしちゃいけないからしばらく会えなかったしね。友達に助けてって言われたのに何もできなかった無力さって、あんな小さい子でも辛かったんでしょ」
「うわー泣けるー」
全然泣きそうにないカラっとした乾いた声で、妹は適当な感想と共に相槌を打つ。
「しかもうちのお父さんたらね、その後小児科医になりたいって言い出したいふくんに、『でもお前が小児科医になる頃にはうちのないこはもう小児じゃないけどな!あはは!!』なんて言って。それでまたいふくんちょっと泣きそうになってたっけ」
「え、お父さんひどすぎじゃない? 4~5歳の子相手に」
「まぁお父さんなりの照れ隠しだろうけどね。嬉しかったんでしょ」
そこまで言って、母親は再びキッチンの水道の蛇口をひねって水を出す。一旦洗い終わったらしい皿の泡を、順番に流していく。
「熱でうなされてたお兄ちゃんが一番辛いのは当たり前だけど、黙って見てるしかない方も辛いのよね、ああいうのって」
「この前さ…」
幼い頃の俺たちのことを思い出し微笑みを浮かべたままそんな話を続ける母の言葉を、遮るように口を開いた。
出しにくい声を何とか押し出すように重い唇を動かす。
「まろに小児科医になりたいと思った理由聞いたら、教えてくれなかったんだけど」
「えーそりゃ教えないでしょ。少なくともお兄ちゃんにだけは絶対」
バカじゃないの、と言われそうなくらいに勢いづいた口調で、横から妹がそんな口を挟んだ。
「『お前が辛そうなの見てて助けたいと思ったから、小児科医目指しました』なんて、恥ずかしくて言えるわけないじゃん。しかも今も仲良いんだから余計にさ。こーーーーんなちっちゃい時からないこのこと大好きです、って言ってるようなもんじゃん」
「……」
こーーーーんな、のところで床から数センチ辺りを指し示してそう言ってくる。
さすがにそんな小さいわけねぇだろ、とは思ったけれど口にしなかった。
母親も妹も俺とまろの本当の関係まで知っているわけではないけれど、今でも仲の良い幼馴染みが一緒に暮らしている、くらいの認識ではいるらしい。
「ねぇお兄ちゃんそう言えば今日は泊まって行くの? 明日帰るんならいふくんの分もご飯持って帰る?」
麻疹の話は終わったと思ったのか、母親が改めてそんな問いを投げてくる。
「…るわ」
「え?」
答えた言葉はろくに声にならず、語尾しか発音されなかった。
首を捻って尋ね返してきた母親の方をバッと勢いよく振り返り、椅子からガタンと立ち上がる。
「やっぱり帰るわ! 仕事思い出した!」
「えぇぇ!?」
大声を上げる妹に反して、母は何も言わなかった。
ただにこりと微笑んで「また連休が取れたら帰ってくるのよ」なんて言うから、何があったかまで察していないにしても「あぁ母親って本当にすごいな」と思わされた。
鞄一つで来ただけだったから、そのままそれを引っ掴んでリビングを飛び出す。
まだ全然電車もある時間だし、日付が変わる前には余裕で帰れる。
まろも今日は早出で夕方には上がれるって言っていたし、今なら家にいるだろう。
そう思って逸る気持ちで靴を履き、母親と妹が見送りに出てくる間もないくらいに急いで飛び出す。
バン!と音が立ちそうなほど強く玄関のドアを開いたところで、俺は思わず体をビクリと揺らした。
「ま、ろ…」
開いたドアの向こう、少し離れた門扉の辺りにまろが立っている。
今まさにうちのインターホンを鳴らそうとしていたのか、上げかけていた手を止めて驚いたようにこちらを見ていた。
仕事が終わった後、そのまままっすぐ車を走らせてきたのかもしれない。
うちの前に邪魔にならないように横づけされた愛車。
それを一瞥してから、俺は今にも駆け出しそうな勢いで大股でそちらに歩み寄った。
「ない…」
まろが俺の名前を呼ぶより早く、地面を蹴ってその腕の中に飛び込む。
慌てて腕を広げて俺を抱き止めたまろだったけれど、さすがにバランスを崩したらしく踵が一歩分退いた。
それでもぐっと俺の肩を抱きしめる手は緩めない。
「…帰る」
泣きそうに鼻を詰まらせた声で小さくそれだけ言うと、まろは「…うん」と小さく頷いた。
(続)
コメント
10件
続き楽しみ!
青さん、小さい頃から桃さんの事大好きなんだな~って 何回見てもいつ見ても最高なの最強すぎるの~っ!!本当にこんな神作ありがとうございます。 続きも書けたら書いてください! 待ってます( *´꒳`* )
やっぱ青さんは桃さんのことめっちゃ大事にしてるんやなぁ~... そして誤解が解けたようで良かったぁっ 桃さんのために小児科になるとか可愛いかよっ 続き気長に待ってます!