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【irxs】医者パロ

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【irxs】医者パロ

17 - 第16話 些細なことだけど⑧

♥

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2025年03月05日

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こちらはirxsのnmmn作品(青桃)となります

この言葉に見覚えのない方はブラウザバックをお願い致します

ご本人様方とは一切関係ありません


小児科医青×天才外科医桃

のお話です


今回のエピソードはこれで終わりです

次からまたもう少し短いお話の詰め合わせになります


桃視点




家族がいる家の前で話し込むわけにも行かず…かと言って、ここから1時間以上も車を走らせ自宅マンションに帰るまで話ができないのも耐えられない。


言い合わせたわけでもないけれど、少し離れた場所にある大きめの総合公園の駐車場に車を停めた。

夜とは言え、一部開放されたままの裏駐車場があるのも昔から変わらない。


こんな時間にこんな場所を訪れる人間なんてほとんどいるわけもなく、他に一台も影すら見えない駐車場に、それでも白線内にきちりとまろは車を停めた。


一旦降りて、近くの自販機で温かい飲み物を買う。

ミルクティーを買ったまろの隣でブラックコーヒーに手を出そうとしたけれど、睡眠不足で眩暈もしてるのにブラックはダメだと言われて同じ物を手渡された。


運転席と助手席で隣り合って話すのもおかしな感じがして、後部座席に2人して乗り込む。

座った瞬間、俺は持っていたボトルを投げ出してそのまま手を伸ばした。

まろの首と背中に抱きつくようにして飛び込むと、手放したミルクティーのボトルが床でゴトンと音を立てる。



「…ごめん」


ぎゅうっと強く、力をこめる。

震えそうな心臓を何とかおさめようとする俺の背中に、まろが腕を回した。


同じように強い力で抱きしめ返されて、その胸の中で大きく息を吸う。

口内を…喉を満たしていく空気と共に、まろの匂いがする。

久しぶりに感じた気がするその好きなはずの香りを、肺いっぱいに吸い込んだ。



「まろがこの前ごまかしたあの話…偶然だったけど、母親に聞いた」


鎖骨と胸の間の辺りに顔を埋めた俺は、そのままそう小さく告げる。


一瞬ぴたりと動きを止めたように思ったまろだったけれど、次の瞬間俺の後頭部に片手を回した。

優しく撫でながら、「…恥ず」と照れたような笑いを漏らす。


そのゆっくりとした手つきが心地よくて、それが逆にぎゅっと胸を締め付けてくるようだった。


「なんか俺、勝手に勘違いして…まろが小児科医になろうと思ったきっかけ、高校時代の彼女が理由なのかと思ってて」


ごめん、ともう一度口にした声は、泣きそうなのをこらえたせいかきちんと発音できたか怪しかった。



でも、もういいよ。

まろがあんなに小さな頃から、将来の職を決めてしまえるくらいに俺が影響していたっていうその事実だけで。


それだけで十分で、高校時代の彼女が何だってもういいよ。


今実際に付き合ってるのは俺で、彼女が運命の相手だなんて言って奪いに来たって、今お前が本当に好きなのは俺だって自惚れてもいいよな?

今自分が信じるべきなのはそこだって、今なら思えるから。



そこまでは言葉にできなかった。

だけどまろは、俺の髪を上下に優しく撫でながら、「…あー…」と低く唸るような声を漏らした。

何から話せばいいのか逡巡しているときの、まろの癖のようなものだ。



「あの人さ、俺の元カノではないよ」



やがてポツリともたらされた言葉に、俺はまろの胸に顔を埋めたまま大きく目を見開いた。

「…は?」と、ようやくそこで体を少し離してまろの顔を見上げる。


「いや、だって高校のときに医者になりたい人の集まりのサークルがあって…そこにいた人と付き合ってて、それが俺と同じ高校の人で今はうちの小児科にいるって…」

「それ、近藤先生の話」

「こん…どう……?」


疑問符を付けてその名を復唱した。

頭の中で、自分が知る限りのドクターの顔を次々に思い浮かべる。

そうしてやがて辿り着き思い当たった一人の人物の顔に、俺は「…は?????」と更に首を傾げた。



「近藤先生って…確かに小児科にいるけど……え??」


すごく優しいと評判でいつも柔和な笑みを浮かべた、子供に人気の小児科医だ。

ぽっちゃりとした体格に丸顔で、眼鏡の奥の目がいつもにこにこと細められている。


俺も何度か話したことがあるけれど、人の好さそうな雰囲気には好感を持った覚えもある。

いや、でも待て待て待て。あの先生はどう見ても40代……。



「何考えとるか大体分かるけど、近藤先輩俺の1こ上やから」

「へっ?」

「ないこが1年のとき、うちの高校の3年におったよ」

「いや知らん知らん知らん…!」


確か前に他科交流を目的とした飲み会の時、少し高校の話をした覚えがある。

「ないこ先生、僕の母校の後輩なんだねー」なんて言われたからてっきり15年くらい前のOBかと思っていた。


それにあの女医の話を聞いたとき、うちの看護師たちだって「小児科にはいふ先生以外はおじさん先生か女医しかいない」って言ってなかったか…?


「ほんまに失礼やな。めっちゃいい人なんやけど、なんか影薄いんよなぁ…」


近藤先生に同情したのか、まろは苦笑いを浮かべた。


…いや、いい人なのは分かる。

おっきなクマさんみたいでかわいい感じなのも分かる。

でもあの女医があれだけベタ惚れするタイプとは正直とても思えなかった。

人の好みって本当に分からない。



「あの人もさ、悪い人じゃないんよ」


女医のことに話を移したらしいまろが、ふと笑みを漏らしながらそんな言葉を口にする。


「ただちょっと…いや大分…?暴走気味っていうか、周りが見えてない時があるっていうか…言葉足らずっていうか…」

「…俺めっちゃ牽制されてるんだと思ってたんだけど」


「牽制? あぁ…厳しく指導しとったことやったら、ほんまにないこに期待しとっただけやと思うよ。あの人、自分と同じラインに立てるって認めた相手は叩き上げて育てようとする節があって…。…まぁだから、少しは反省したんちゃう? ないこ休ませようとしたんもあの人やろ? 多分このままじゃ自分のせいでぶっ倒れると思って焦ったんやろうな」


「…わっかりにく…」

「分かりにくいけど、慣れたらめっちゃ分かりやすい人やと思うわ」



ふふ、と笑ってから、まろは少しだけ顔を離す。

至近距離で覗き込むようにこちらを見て、俺の額にかかった前髪をどかすようにして触れた。

特別隠れていたわけではない俺の目だけど、そうすることによってよりはっきりと見える気がしたのかもしれない。



「やっと、俺のこと見てくれた」


目を細めてそう言うまろの言葉に、胸がぎゅっと鷲掴みされるように切ない悲鳴を上げる。


「ごめんな、ないこ。言葉が足りんかったんは俺もやし」


そう言って苦々しく笑って見せるから、俺は勢いよく首を左右に振った。

…違う、今思うと偶然とも言えるほど、タイミングが全て悪かっただけだ。

そして先走った俺が勝手に傷ついただけだ。



「もう無理。ないこ不足で死にそうやった」

「…何それ」

「家まで我慢とか、無理やし」

「んぇ…っ?」


まろの言葉に問いを返そうとした時、その唇を勢いよく塞がれた。

ちゅ、と音を立てて少し離れたかと思うと、啄むようにして触れたり、食むように下唇を吸われたりと何度も角度を変えてキスが降ってくる。


いつもなら、いくら周りに誰もいないと言っても外でこんなことしない。


どんな暗がりでも、いつ誰の目が現れるか分からない。

そんな中で2人の世界に入ったように行為に耽るなんて絶対に倫理的にダメだろう。


…なんて、そんなことを考えるくらいつまらない大人になってしまった自覚はある。

だからいつもならどちらかが暴走しかけたらもう片方が止めるだけだ。



だけど……



「ごめんないこ、今日だけ許して」


そんな切羽詰まった声で求められたら、もう何も考えられなくなる。

そんなまろの唇を今度はこちらから塞いで、俺はそのベルトのバックルにカチャリと音を立てて手をかけた。






「…おはようございます」


翌々日、定められた時間より早く出勤した。

不在にした2日の間に発生した引き継がれるべき事項は多いだろうし、確認したいことも山ほどある。


そう思って足早に医局内の自分のデスクに向かう途中で、例の女医に出くわした。

向こうも同じことを考えたのか早めに出勤したらしい。


「おはよう。体調はどう?」

「…おかげさまで、よくなりました。ありがとうございました」


小さく会釈を加えてそう挨拶をすると、彼女は少しほっとしたように息を漏らしたのが分かった。

…まろから聞いていなかったら、こういう小さな表情の変化には気づけなかったかもしれない。


そのまますっとすれ違おうとした俺だったけれど、「あ、ちょっと待って!」と呼び止められる。


眉を寄せて振り返ると、彼女は自分の声が思ったより大きく感じたのか、慌てて口を噤んで周りをキョロキョロと見回した。

…心配しなくても、まだこんな早い時間じゃここに人はほとんど来ない。



「えぇっと…なんか色々とごめんなさい。誤解させちゃったみたいで…」

「……」


少し戸惑い気味に言葉を選んでいるせいで、頭が振れるたびに彼女の後ろでポニーテールが揺れる。

それが目に入るだけで一昨日まで苦さを感じていたのが嘘のように、今はただ視界に映るだけだった。



「いや、いいです。俺も勝手に勘違いしただけなんで」


その証拠に、彼女は何一つ嘘はついていない。

ただ自分の恋愛話をしただけで、俺が自分の思い当たる部分にそのピースを当てはめただけだ。

そしてそのピースは、不正解であるのに運悪く歪な形で強引にはまってしまった。


ただ、それだけのこと。


加えて、あの恋愛話をする時の彼女の態度があまりにも嬉々としていたせいか、こちらが牽制されたと受け取ってしまったことも良くなかった。


……そうだ、そもそも何で彼女はあの時あんなに嬉しそうだった?



ついでのようにそれを問うと、目の前の彼女は「え?」と小首をこてんと傾げてみせた。



「だってないこ先生とだったら、気持ちを分かり合えるかと思ったんだもの」


さも当然と言わんばかりにさらりと言われ、今度は俺が眉を顰めて首を傾ける番だ。


「小児科医の恋人いるとさ、色々ともやもやしない? そういう気持ちが分かり合えるかと思って嬉しくなっちゃって」

「…はぁ…え?」


いやそもそもあんたの方は別れてんじゃないの? とは、さすがにまだ言えるほどの仲ではなかった。



「それはどういう…」

「え、だって小児科医ってさ、患者がドクターに惚れちゃうパターン結構あるじゃない! 自分の好きな人に色目使ってくる女がいるのかと思うと腹立つじゃない! ないこ先生ならいふと付き合ってるから共感してくれるかと…」

「いやいやいや…!」


はぁ!?と大声を上げそうになったのを、直前で何とかこらえられたのは自分でもえらいと思う。

手にしていたファイルとバインダーを持ち直し、俺は彼女の真意を量るように今度はまじまじと正面から見据えた。


「色目使ってくる女…って、小児科なんだから相手は子どもでしょう」

「…甘いね、ないこ先生」


俺の返事がお気に召さなかったらしく、彼女は怜悧な瞳をすっと細めた。

それから長い人差し指で、俺の顎を下から突き上げるように指し示してくる。


「2歳だろうが90歳だろうが、女は女なのよ。奴らは狙った獲物には全力で向かってくるのよ」

「………はぁ…」


なんか…一昨日のあの後、まろが言っていたことがようやく理解できてきた気がするな。


悪い人じゃないけど、何事にも…誰に対しても全力投球。

ただ言葉が足りないことが多いから、勘違いはされやすい。

頭が良すぎるせいなんだろうな、自分より察しの悪い人間にどこからどこまで説明するべきかという見極めが甘いのかもしれない。



「…先生、おもしろい人ですね」


ふっと笑って言うと、彼女は驚いたように目を見開いた。

それからまたぱぁっと花が咲いたように明るい表情を浮かべる。


「ないこ先生が笑った顔初めて見たかも…! え、飲みに行く? 今日終わったら飲みに行く?」

「…何でですか、行きませんよ」

「いふの愚痴なら私5時間くらい聞いてあげられるのに!」

「いやそんなに愚痴なんかないわ」


思わずタメ口で突っ込んだ。

呆れたような表情で彼女を見返した後、不意にすぐ傍の窓に視線を移す。

見るとはなしに何気なく外を見下ろして、まろが言っていた彼女のもう一つの話を思い出した。



だから、いたずら心がひょこりと顔を出して再び口を開く。


「あ、近藤先生だ」

「え!?」


その名を出した瞬間、彼女はバッとその場にしゃがみこんだ。窓の外から決して自分の姿が見えないように、射線を切るようにして息を詰めて潜む。



「うそですよ。あれ?運命の人じゃなかったんですか?何で隠れてるんです?」

「~~~っ、ないこ先生もやっぱりあれよね! いふと似てて性格悪いとこあるわよね!」


忘れられない元カレとせっかく同じ病院にいるのに、彼女が未だに自分から会いに行かない理由…まろから聞いたそれは、単に勇気が出ないから…なんて単純なことらしい。


運命の相手だなんだと豪語しているのは彼女なりの虚勢で、きっとそうでも言って自分をごまかしていないと弱い自分に押し潰されてしまいそうになるんだろう。


気丈な彼女がそんな風に憶病になってしまうくらい、近藤先生への気持ちは本物なんだろうなと思うと、今までの苦手意識も露と消える。



思わずふはっと笑ってしまった時、近くの扉が開いた。

出勤してきた他のドクターが入ってきて、軽い挨拶を交わす。

途端に互いに仕事モードに切り替わり、俺の横で彼女が姿勢よく立ち上がった。その隣で俺も白衣をパサリと整え直す。



「2日間の引継ぎ、お願いします」

「うん、…あ、あと一個だけいい?」


人が近くに来たことで、彼女はもう一歩だけ俺の方に近づいた。

声を潜めて周りに聞こえないように囁く。



「色々掻き回しちゃったらしいお詫びに教えてあげる。昔、例のサークルでいふのこと好きで告白しようとした子がいたんだけどね」


サークル一の美少女だと評されていたらしいその子のことを思い出しているのか、彼女は一瞬だけ目を細めた。


「告白って、勇気いるじゃない。呼び出したはいいけどなかなか切り出せずにしばらくもじもじしてたその子にさ、あいつ何て言ったと思う?」

「……? さぁ」

「『ごめん、急ぎじゃなかったら今度でいい? 今日幼馴染みが熱出しとるから早く帰りたいんよね』って!」


当時のことが脳内で鮮やかに蘇っているのだろう。

笑いを必死で噛み殺して耐えながら、彼女は言葉を継ぐ。


「あれは今でも伝説だわ。告白だって気づいてたのか気づいてなかったのか知らないけど、誰もが憧れるような美少女をあっさりふって走って帰るくらいだから、どれだけかわいい幼馴染みがいるんだって騒ぎになったくらいだもん」

「……はっず…」

「昔からないこ先生のことだけ大好きよね、あいつ」


ふふ、と笑ってウィンクして見せた彼女は、いつも通りパンプスの踵を鳴らして半歩先を歩き出した。



「さて、今日も元気に仕事しますかぁ」なんて間延びした声で言う。

彼女のそんな言葉を受け、ここ数日に比べてようやくクリアになった頭と晴れやかな気分で、俺もその後に続いた。






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コメント

11

ユーザー

女医さんと仲が深まって良かったです。女医さん思ってた100倍ぐらいいい人なんだけど。どんどん続きが楽しみだ~!!続きも楽しみに待ってますね(*´∀`*)無理せず頑張ってください(๑•̀ㅂ•́)و✧ちゃんと論理も通っててまさかってなるやつを、かけるの凄いです。この作品ほんと大好きです

ユーザー

女医さんと仲直り?できてよかったぁぁッ 悪い人だと思ってたけどめっちゃいい人やった…… 青さんすっげぇ桃さんのこと大切にしてるんやなぁ

ユーザー

そういうことだったんですね!! 仲直り出来て良かった!! 女医さんもめっちゃいいひと!

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