『私、なんでこんな朝早くからコネシマと会ってるの?』
「まぁたまにはええやろ。お前起きるの遅いんやし。」
昨日の夜急に、”明日の朝俺ん家の近くの空き地来てくれん?”なんて言われ、貴重な日曜日の朝(まだ夜かもしれない)の時間を消費して今私はここにいる。呼び出された理由も教えてくれなかったし彼の様子を見る限りどうせ大したことでもないんだろうな。
そして彼の言うがままにその背中を追う。朝焼けに照らされた歩道は少し白く光り、さらさらに乾いた心地の良い風がそっと私の髪を撫でていく。
『ねぇ、なんで私をこんな朝早く呼び出したの?コネシマだって別に早起きでもないのに。』
「いや。特に理由はないんやけどな、なんとなく。お前と会って話したくなったというか、」
『なにそれ。そんなこと言うキャラだった?』
彼の言葉は歯切れが悪く、どうせ何か隠していることがあるんだろう。それは彼も、だけど、私もである。
一体彼はどこに隠している?分かりやすい彼の気持ちは見え透いてるのに。私と同じ感情を抱えていること、見え見えなのに、言葉にならないままふらふら宙を踊ってばかり。
『ねぇ、眠い』
「んな事言われたってどうしようもできんて。あ、サッカーでもするか?」
『やだ、どうせあんた手加減なんて言葉知らなそうだし。私が運動できないこと、しってるくせに、』
サッカー部の彼はとことんサッカー馬鹿だ。なんどか校舎の窓から彼の部活姿を見たことがあるが、後輩に優しく教える姿や靴下を汚してまでボールを追いかける彼の様子を見ればその事は証明出来るはずだ。
でも言えない。そんな姿にいつも胸が締め付けられるほど苦しくて仕方なくなるということは。ずっと閉じ込めていた気持ちが溢れそうになってどうしようも出来なくなるということは。
『ねぇ、コネシマ』
「ん?」
言えない。タイミングをずっと探しているのに、どうしても出てこない。まただ、いつもこうだ。いつも話は切り出せそうになるのにそこから先に進めない。また繰り返している。同じことを、もう何回も。長い夜が続くみたいに、ずっとずっと。もういっそ彼の方から切り出してくれればいいのに、こんなところだけ似てしまっている。
『なんでもない、ねえ、どこに行くの?私たち』
「別にどこも目指してへんよ。言ったやろ、ただ話したかっただけって」
『電話でいいじゃん』
「会って話した方がええやろ、表情も分かるし。安心せん?」
『んまぁ、分からなくもない』
それから他愛もない会話をして、いつもと変わらない関係で、いつもと変わらない時間を過ごす。
明日から学校なんて憂鬱だとか、部活の顧問が最近よく怒るんだとか。でも次の大会で最後になるから仕方ないんだろうな、とか。あとはサッカーの次に彼が好きなゲームの話とか。私が聞き出したい話とはかけ離れた話が彼の口から零れてばかり。
おかげで彼は気づいていないみたいだ。さっきからひらひら風に揺れている、彼が可愛いと言ったアイドルのつけていたものと同じ髪飾りを私がつけているということ。ここまでして気づかなかったら、彼はサッカーにだけじゃなく、全てにおいて馬鹿だ。
「…なぁ、」
『、なに』
突然彼が立ち止まる。いつもと違う声色に少し胸がざわめく。彼の言葉を待つ時間がもどかしい。
「……やっぱ、なんでもない」
『…なんで、コネシマ隠し事ばっかで面白くない。』
また、同じことを繰り返す。
私の言葉に彼は何も言わずまた歩き出す。朝焼けは歩道を少しだけ白く照らし、柔らかな風は私の髪飾りを揺らし、さらさらと髪をなびかせていく。なんだか今なら、告ける気がした。
「…お前の前やと、言おうと思ってたことも全部言えんくなる。でも、それはお前もそうなんちゃうん。ぜったい、俺だけやないと思う。そうなってまうの」
彼の思わぬ言葉に刹那、呼吸が止まる。なんだ、見透かされていたのか。だったらもう自信を持ってくれればいいのに。またこんないらない共通点ばかり生まれる。もう、せっかく私の方から言おうかと決心づいた頃なのに。
『うん、私もそう。そうだけど、なんか認めたくない。わたし、コネシマとは違うもん』
「なにが。俺もお前も似たようなもんやろ。不器用で、思ったことはすぐ口に出すくせに肝心なことだけは言えへんとこ」
何で私が彼と同じにならないといけないのだろうか。私はやっと、抱え続けた気持ちを吐き出そうと、1歩踏み出そうとしたのに。言葉を濁してばっかの彼に言われたくない。
「…もう、見え見えやな、俺の気持ちも。お前の気持ちも。」
『…うん、知ってた。ずっと前から。でも言葉にしないとだよね、肝心なことだから。』
「やから、それは俺の方から言わせて欲しい。今やなくても、絶対俺から言うから。心の準備だけさせてくれんか、」
らしくない、彼からのお願い事に、そっと小指を差し出す。彼の小指が絡みつき、小刻みに絡み合った手を揺らす。
____ゆびきりげんまん。燦々と光る朝焼けは2人を照らしていた。
参考 sympathy/ KEYTALK
コメント
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お久しぶりです…!今回も安定的に好きです() 参考元聞いてみましたが、参考元の雰囲気がすごく綺麗に落とし込まれていて感服です…。 最後のオチまで綺麗な終わりで今回も素晴らしかったです!!