テラーノベル
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ピピピピ…
無機質な連続音で、また朝が来た事を強制的に告げられた僕は、顔を顰めて呻きながら手を伸ばし、その音を止める。その手を伸ばしたままうつ伏せてベッドに顔を埋め、また落ちてしまいそうな意識を無理やりに引き起上げていく。ボサボサの金髪が、視界にキラキラと揺れる。
「ん゛あ゛〜…、起きなきゃ…。」
毎日、今日はいっかぁ…と気持ちが折れてしまいそうになるが、夢のことを考えるとそうもいかないので、のそのそと身体を起こしていく。ベッドに片足を組んで腰掛け、ふあ〜、と大きな欠伸をだらしなく漏らすと、ピンポーン、と呼び鈴が鳴った。
時計を見やると、朝の6時過ぎ。訪問者にしては些か早すぎる時間に頭を捻りながら、万が一、何かの荷物であったらと考えて、インターホンへ向かう。
「…うん?」
画面に映る二つの人影。見覚えがあるような…。とりあえず、応答ボタンを押す。
「…はい?」
『涼ちゃーん。』『おはよー。』
同時に声を出して、画面いっぱいに顔を近づける男の子たち。この声は、やっぱり。
「元貴?ひろぱ?」
『『アッタリ〜!』』
二人が、ケラケラと笑いながら明るく言う。
「え?なんで?」
『とりあえず中入れてよ〜。』
『荷物パンパンなんだって。』
二人が口々に伝えてくる。僕は慌てて、エントランスを開けて、玄関へ向かった。
「え、何これ?どういうこと?」
「お邪魔しまーす。」
「てか、ただいまー。」
「はぁ?ちょ、ちょ、何その荷物?え?」
二人が、靴を脱いで、スーツケースやら大きめの旅行鞄やらを玄関に置いて、ズカズカとリビングへ入り込む。
「あ゛〜重かった。」
「疲れた〜!」
それぞれに、ソファーやらラグの上にぐたぁ、と身体を預けて寝転がる。
「もしもし?ちゃんと説明してくださる?」
僕は、腰に手を当てて、二人に投げかけた。
「あー…、俺、こっから短大通うからぁ…。」
元貴がソファーに顔を付けて歪ませたまま、力無く答える。
「俺もぉ、こっからガッコ通いまぁーす…。」
ひろぱも、ラグに横たわったまま、片手をひらひらと振った。
「…えぇ〜…。」
僕は、傍若無人な態度の二人に、情けない声を上げた。
僕たち三人は、近所の幼馴染だった。
小学校四年生になる頃に、僕、藤澤涼架は長野から東京へと引っ越す事になった。転校するのはドキドキしていたけど、東京という響きに、ワクワクしている自分もいた。
「ここが新しいお家よ。両隣さんにご挨拶に行こうか。」
「はーい。」
お母さんに連れられて、まず、向かって右隣、『大森』さん家のチャイムを押す。
『はい。 』
「初めまして、お隣に引っ越して来ました、藤澤と申します。ご挨拶に伺いました。」
『あ、はい〜、少々お待ちください。』
お母さんの少し後ろでソワソワと待っていると、玄関が開いて、優しそうなお母さんが出て来た。
「どうもー、わざわざありがとうございます。」
「いえ、藤澤と申します、これからよろしくお願いします。これ、ささやかですが。」
「ありがたく頂戴します。…あら、お子さんですか?」
「はい。ご挨拶は?」
「藤澤涼架です、四年生です、よろしくおねがいします。」
「あら、しっかりしてる。四年生?ならうちの子と一緒に登校してもらうと助かるかも。」
「あら、そうなんですか?」
「ちょっと待ってね、元貴ー!ちょっと来てー!」
「…なに?」
少し不機嫌そうに、僕より小さな男の子が玄関から出て来た。
「お隣さん、今日お引越しだって。涼架くんね、四年生なんだって。」
「りょうか?」
「あ、ぼくです、よろしくね。もときくん、何年生?」
もときくんは、驚いたように目を見開いて、僕をしばらく黙って見つめていた。
「…ん?」
「…いちねんせー。」
「一年生なんだ!じゃあ、もうすぐ入学式だね、おめでとう!」
「ありがとう…。」
緊張してるのか、あまり会話が弾まなくて、気まずくなった僕は、ペコリと頭を下げて、後ろに下がろうとした。
「りょーちゃん!」
不意に、もときくんに呼ばれて、僕は近くに歩み寄った。
「ん?」
「…がっこー、いっしょにいこ?」
口に手を当てて、僕の耳元で囁いた。すごく可愛い声だった。
「うん、いっしょに行こうね。」
僕がそう答えると、可愛い笑顔でにっこり応えてくれた。
「もしかして、ひとりっ子さん?」
もときくんのお母さんが、僕のお母さんに訊いた。
「ええ、そうです。」
「あら、うちもそうなの、よろしくね。あと、あっちのお隣さんも、ひとりっ子さんでね、ここみんなひとりっ子ね。」
「ホント!あらー、心強いわ。」
お母さんたちがちょっと話が盛り上がってて、もときくんが僕の手を引いて、こっち、と連れて行った。
「ここ!ひろぱ!」
「ひろぱ?」
僕の家を挟んで左隣の家の前に着くと、もときくんがピンポーン、とチャイムを押した。
「え!え、いいの?」
「だって、いっつもあそんでるもん。」
「あ、ああそっか…。」
『はーい!おーもときー!』
「ひろぱー!りょーちゃん!」
『えー?なにー?』
「あはは、りょーちゃん!!」
『なあにー?!ギャハハ!』
『こら滉斗!』
プツッと切れて、僕は困っていた。玄関が開いて、ひろぱくんらしき男の子が出て来た。
「もとき!…え?」
「あ、はじめまして、藤澤涼架です、四年生です。おとなりに引っこして来ました、よろしくね。」
ひろぱくんは、ポカーンと口を開けて、僕の顔をじっと見つめていた。さっきのもときくんと同じだな、僕の顔ってそんなに変かな?
「…りょーちゃん?」
「そう、りょーちゃん!」
ひろぱくんが口を開くと、もときくんが得意気に答えた。僕ともときくんが手を繋いでるのを見てハッとしたひろぱくんが、サッと動いて、僕の反対の手を握って来た。
「りょーちゃん、オレひろぱ!」
「うん、よろしく、ひろぱくん。」
「ちーがーう、ひーろーぱ!」
「ふふ、ひろぱ?」
「そう!」
「りょーちゃん、オレも、もとき!」
「あ、もとき、ね。わかった。」
ひろぱのお母さんも外に出て来て、お母さんたち三人でお話が始まった。僕たちも三人で近くの公園へ遊びに行く。
「りょーちゃん、ブランコおしてー。」
「オレもオレも!」
「うん、いいよー。」
二人の間に立って、片手ずつそれぞれの背中を優しく押す。
「ねー、いっしょにがっこういこうね。」
「オレも!さんにんでいっしょにいこ!」
「うん、ありがとう。楽しみだね。」
僕の笑顔を、また二人がじーっと見つめて、二人が顔を見合わせてニヤニヤと笑った。
「ん?なに?」
「りょーちゃんかわいい。」
「うん、かわいい。」
「いやいや、二人の方がかわいいよ…。」
僕たちは、そんな風にして、ずっと三人で仲良く成長して行った。
ひとりっ子同士の僕たちは、本当の兄弟のように、いつも一緒に育ったんだ。
僕が高三になって、元貴とひろぱが中三の時、いつものように僕の部屋に二人が入り浸っていた。
「もしもーし、お二人さん、ここ僕の部屋なんですけどー。」
「いーじゃん、ほぼオレの部屋だし。」
「涼ちゃんジュースちょーだい。」
「…君たち、一応受験生だよね?」
「だーって、またどーせ涼ちゃんと一緒にならないし、気合い入んないよ。」
「そーそー、どこでも一緒。入れるトコ入りまーす。」
「もう…お母さんたち泣くよ…?」
二人とも、僕のベッドに寝転んだり、床に座り込んだりして、漫画や雑誌を読んでいる。
僕は、もう何を言っても聞かないし、と諦めて、机に向かった。パラパラと専門学校のパンフレットを読みはじめる。
「…調理師免許?」
後ろから、いつの間にか元貴が覗き込んで、パンフレットの文字を読み上げていた。
「びっくりしたぁ。」
「なに?涼ちゃんコックさんになるの?」
ベッドから、ひろぱも声を掛けてきた。
「んーん、違うよー。」
「じゃあなに?」
「教えてよ。」
二人ともが僕の両肩に纏わりついて、しつこく訊いてくる。もう二人とも身体デカいんだから、いつまでもくっ付いてきたら暑苦しいよ…。
「えー、まだ実現できるかわかんないから、内緒。」
「なんだよずりー。」
「俺らの将来にも関わるんだから、教えろ。」
「そーだそーだ。」
「何それ意味わかんない。」
僕は笑って、二人をなんとか引き剥がし、いい加減家に帰れと説得した。
進学の春、とりあえず親に頭を下げて、一年制の調理師専門学校で資格を取らせてもらえる事になった。
近くの高校に入学した二人が、依然として僕の部屋に入り浸ろうとしていたが、学校にバイトにと忙しくしていた僕は、あまり家に帰れず、二人を構ってあげる時間もずっと少なくなっていた。
そうこうしているうちに一年が経ち、僕は無事、卒業と共に調理師免許を取得する事が出来た。
この一年、実家で暮らさせてもらっている間にお金を貯めて、一人暮らしをする事にした。
「涼ちゃん、聞いてないんだけど。」
「一人暮らしって何。」
僕が引越しの為に荷物を纏めていると、うちの親から話が伝わったのだろう、元貴とひろぱが怒った顔をして荷物の上に座り込んでいる。
「…どいてくださーい、荷物入れれませーん。」
「おい。ふざけんな。」
「なんで?こっから働きに出ればいーじゃん。」
二人に口々に責められて、僕はふぅ、とため息をつく。
「…僕だって、ずっとここにいたいよ。でも、もう大人にならなきゃ。自分で生きていけるようにならないと。僕は二人より三年先を生きてるんだよ。」
「だから、せめて俺らが卒業するまではここにいてよ。」
「そーだよ、俺らまだどこにも行けないんだもん、ひきょーだぞ。」
ふふ、と僕は笑って、二人の頭を撫でた。
「こんな甘えたな弟二人置いていくのは、確かにちょっと心配だけどね。」
「…弟じゃねーし…。」
「子ども扱いすんな。」
拗ねた顔で二人とも睨みつける。子ども扱いすんなって、どの口が言うんだか。こんなに可愛い顔してさ。
僕は、二人まとめて、ギュッと抱きしめた。
「元貴もひろぱも、大人になったら、もう少し自由になったら、僕のところに遊びにおいで。ね。待ってるから。」
「…あと、二年?」
「…絶対だからな。」
ぽんぽんと背中を叩いて、二人を宥める。ようやく荷物を解放してもらえて、僕は二人が見送る中、新しい生活へと旅立った。
僕の夢は、キッチンカーを営む事だ。
子どもの頃、イベントやお祭りに行くと必ずあった、キッチンカーが大好きだった。少し高い場所から、ニコニコと優しい笑顔で美味しい食べ物を渡してくれる、あの空間が大好きだったのだ。
まだまだ、全然自分のキッチンカーを持てるところまではいけてないけど、もしキッチンカーを始められたら、元貴とひろぱを最初のお客さんとして呼びたいと思っていた。
だから、それまでは、二人には内緒。
一人暮らしをしてからは、飲食店で経験を積んでいる。そこで情報を集め、二年目には、キッチンカーの集まりに紹介してもらえて、色々なことを教えてもらえた。
時々、キッチンカーのお手伝いで、イベントを任せてもらえる事もある。
ある日、大きなお祭りで、知り合いのキッチンカーを任せてもらえる事になった。気合を入れて、メニューを確認しながら、準備をする。
陽が暮れて来て、お客さんも上々に来てくれる。心地よい忙しさに、笑顔で対応していた時だった。
「え…涼ちゃん?」
元貴が、目の前にいた。浴衣を着て、うちわを腰に差している。
「あー元貴!久しぶりー!」
「…何やってんの?」
「…え…キッチンカー…。」
しまった、バレちゃったな。まだ自分のお店じゃないのに。まあいっか、と笑顔を作る。
「何にする?」
「…どれがおすすめ?」
「えっとね…。」
後ろにお客さんもいない為、僕らは頭を突き合わせてゆっくりと会話する。
「あ、元貴ー…あれ?え涼ちゃん!?」
わたあめ片手に、ひろぱも駆け寄って来た。こちらも浴衣を着て、扇子を腰に差してる。
「ひろぱ!なんかめっちゃ大きくなってない!?」
「…涼ちゃん俺の時と反応違う。」
元貴が、ジロ、と睨んでくる。
「ごめんごめん、元貴も大きくなったよ。」
頭を撫でると、嬉しそうな笑顔になった。あ、可愛い。
「おい!…涼ちゃん俺も!」
ひろぱが頭を差し出してくる。なんだコイツら、めちゃくちゃ可愛いな。二人の頭を、撫でくりまわす。
「涼ちゃんがやりたかった事って、キッチンカーだったんだ。」
「うん。これはね、知り合いのを貸してもらってるだけで。ホントは、自分のお店持てたら、二人に最初に来てもらおうと思って、内緒にしてたんだけどねー。」
「ふーん。そっか。」
二人が、微笑んでくれて、僕もホッとした。手を洗ってから注文を作っていると、二人が後ろから数人に声を掛けられていた。
「おーい若井!大森!何買ってんの?」
「あ、美味しそう〜!若井くん、一口ちょうだい?」
「あ、いいな〜。じゃあ私、大森くんのちょっとちょーだい?」
「オレもオレも〜!」
ワイワイと、男女数人で遊びに来ていたようだ。僕はその様子を、目を細めて眺める。二人の注文を作り終えて、両手でそれぞれに手渡す。
「はい、お待たせ。いいね、青春だ。楽しんでね。」
「…いや違うから。」
「全然、彼女とかじゃないからね。勘違いすんなよ。」
「はいはい。照れないの。」
二人が注文を受け取る時に、それぞれがギュッと僕の手を握って来た。
「ホントに違うから、やめて。」
「涼ちゃんには、そう思われたくない。」
顔を近づけて、僕にだけ聞こえる声で、二人が伝えて来た。僕の手をしばらく握った後、商品を受け取って、気怠そうにさっきの集団に合流して行った。
久しぶりに触れた二人の手が、夏の暑さでか、すごく暖かく感じて、僕はしばらく自分の手を握っていた。
夏祭りで元貴とひろぱに偶然再開してから季節は移り変わり、元貴達の卒業の春が来た。
僕はまだ、自分のキッチンカーを持つ段取りが付かず、飲食店のバイトやキッチンカーの手伝いなどで、資金を貯めていた。
そして話は、冒頭に戻る。
今、目の前に元貴とひろぱが横たわっていて、どうやら僕の部屋に住み着くつもりのようだ。
「え、なんで?」
僕が改めて二人に問う。
「だって、涼ちゃん言ったじゃん。大人になったら来いって。」
元貴が、顔だけこちらに向けて、口を尖らす。
「いやいや、遊びに来いとは言ったけど…。」
「一緒一緒。」
ひろぱがすかさず付け足す。
「全然一緒じゃねーわ!どーすんのよ…そもそも、大学って何?学校ってどこ?」
「んしょ。俺は、ここの近くの短大で、経済学部。」
元貴が身体を起こして、座り直して言った。
ひろぱも、のそっと身体を起こして、胡座をかく。
「で、俺は、涼ちゃんとおんなじ調理師専門学校。俺は二年制の方だけど。」
「…そーなんだ。」
「俺たち、二年で卒業するから、それまで待ってて。」
元貴にそう言われて、僕は首を傾げる。
「元貴が経営を学んで、俺は調理を手伝うから。三人で一緒にキッチンカーやろ?」
ひろぱが、明るい笑顔で話す。
「え…え!?うそホントに?! 」
「ホント。」
「涼ちゃん一人に任せてたら、一生キッチンカー持てなさそうだし。」
「そ、それは…。」
なかなか言葉を返せない、痛いところを突かれてしまった。
「でも、二人とも、ホントにキッチンカーやりたいの?それで良いの?」
「俺は、涼ちゃんといたいの。」
「そーそー。涼ちゃんの夢は、俺らの将来に関わるって言ったでしょ。」
「ええ〜…それって大丈夫なの?」
「大丈夫大丈夫。」
「とりあえず、おやすみ〜。」
二人で僕の寝室に行って、また勝手にベッドに入り込んで寝始めた。
僕は、すぐにお母さんに電話をかける。
『もしもし?』
「あ、ごめんね、朝早くから。なんか元貴とひろぱが来たんだけど。 」
『ああ、なに、あんた知らなかったの?』
「え、なんかここで暮らすとか言ってんだけど。」
『知らなかったの?』
「…知らないよぉ…。」
『いや、あんたが一人暮らしするってなった時にね、なんか三人で暮らす事になるから、広めの部屋お願いしますってあの子達に言われたのよ。だから、そこ折半で借りてあげてたんだけど。』
「ええ!そういう事だったの!?どうりで広いし、お母さん半分家賃出してくれるなんて太っ腹だなぁと思ってたら…。」
『何言ってんのあんた…。とにかく、あの子達よろしくね。ずっとあんたに会いたがってたんだから。可愛いじゃないの。』
「うん…可愛いけど…。」
『あ、来月から、そこの家賃はあんたと元貴くんとことひろぱくんとことで折半になるから。』
「家賃三等分?さらにありがたい…。」
『でしょ?あんたも早くしっかりしなさいよ。じゃあね。』
「う、うん…。」
あっさり受け入れられている現状に、僕だけがついていけてない。
スヤスヤと眠る二人を入り口から見つめて、そっとドアを閉めた。
キッチンに向かい、毎朝の日課にしているメニュー開発に取り掛かろうとするが、想定外のことが起きすぎて、いまいち集中できない。
今日の出勤は何時だっけ。スマホで確認すると、昼過ぎから夜中までのシフトだった。僕は、朝はゆっくりできそうだ、と安堵する。
とりあえず、あの子達に朝ごはんを作ってあげよう。えっと、元貴は目玉焼きとベーコンで、えーとひろぱはトーストにバターが好きだったかな。僕は、スクランブルエッグにして、皆で食べれるようにするか。あとは、サラダと…。
久しぶりに、家で自分以外の人に向けて料理をするので、自然と鼻歌がこぼれる。まあ料理といっても、簡単なものばかりだけど。今度は、フレンチトーストでも作ってあげようかな。ひろぱは甘いの好きだけど、元貴はあんまりだから、和食を作ってあげるのも良いかもな。
カチャ、と静かに寝室のドアが開いて、元貴が起きて来た。
「良い匂い…なんか作ってんの?」
「うん、みんなの朝ご飯。」
「うそ、ありがとう。」
「いーえ。」
僕の後ろから、元貴が覗き込んできた。
「もしかして、俺らの好み覚えててくれたの?」
「うん、もちろん。変わってない?」
「うん、変わってないよ。」
「良かった。」
僕がフライパンに向き直ると、後ろから元貴が腰に手を回して、ギュッと抱きついて来た。
「元貴、危ないよ?」
「…変わってなくて、良かった。」
「ん?なにが?」
「涼ちゃん。」
「変わったよー、だいぶ太っちゃった。」
はは、と笑うと、元貴が、よりピッタリと身体を寄せて来た。
「…変わってないよ。落ち着く…。」
背中に、元貴の心臓の鼓動を感じて、僕はちょっと動きがぎこちなくなる。相変わらず、距離が近い子だな。
「ほら、元貴、お皿取ってくれない?」
「やだ。 」
「なんでだよ、取れよ!」
「やーだ!もうちょっと。」
とりあえずフライパンの火を止めて、元貴の気が済むまでじっと動きを止める。
「…だって、二年も待ったんだぞ。」
「ん?」
「二年も。離れてた。」
「…そっか、ずっと一緒だったもんね。そんなに寂しかった?」
「当たり前だろ。涼ちゃんは?逆に寂しくなかったの?」
「ん?寂しかったけど…忙しすぎてあんまり感じなかったかもなぁ。」
「うーわ、ひっど。若井にも言ってやろ。」
「ん?若井?」
「何?」
「ひろぱじゃないの?」
「…高校でひろぱとか、呼べるわけないだろ。もう若井に変わってるよ。」
「えー、そこは変わっちゃったんだ。あ、それはなんかすごい寂しいかも。」
僕が笑うと、元貴が顔を覗き込んできた。
「なに?」
「…いや。やめとく。若井に怒られそうだから。」
「え、なに?」
「あ゛ーーー!早く大人になりてぇ!!」
「ふ、妖怪人間みたい。『早く人間になりたぁーい!』。」
「知らねー…。」
そうこうしているうちに、ひろぱも起きて来た。
「んー、涼ちゃーん、良い匂いだ〜。」
元貴の横に来て、ひろぱも後ろから抱きついてくる。
「うわ、でっかあ。」
「なに。」
「ひろぱ、もう僕とそんな変わんないじゃん。」
「でしょ、カッコよくなったでしょ。」
「うん?うん、カッコいいカッコいい。」
「おいー!」
笑いながら、僕が作ったご飯をテーブルに並べて用意してると、元貴とひろぱが何やらキッチンで話していた。
「…元貴くん、抜け駆けしてないよね?」
「してないしてない。」
「おい、決めただろ、卒業までは我慢だって。」
「わーかってるっての。…つか、卒業までって、長くない?」
「…うん。」
「無理じゃない?あれ。二年待てる?」
「…無理かも。可愛すぎて。」
「でしょ。」
「どーする?」
「うーん…。」
「ねえ、ご飯冷めちゃうよー?」
僕の呼びかけに、二人がテーブルに集まって来た。
「…ま、とりあえず、保留で。 」
「だな。またいつにするか決めようぜ。」
「何が?」
「「なんでもなーい。」」
「?まあいいや、じゃあ手を合わせてください。せーの。」
「「「いただきます。」」」
コメント
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新しい作品をありがとうございます、、!!breakfast大好きなのでほんとに嬉しすぎる、、✨ 今回はガラッと雰囲気が変わって甘々日常系ですね!大好きです笑 なんでキッチンカー?と一瞬思いましたが、mv見て一瞬で謎が解けました笑 mv見ながらだと気づきがたくさんあってより楽しく読めるので好きです!これからも楽しみだぁ〜🫶
ちょ、待って!大好きすぎるラブコメ♡ 妖怪人間のくだりでフフッ笑 ってなったし。 まず家が隣同士って神がかってる。わぁ、最高だ!またまた日々の楽しみと活力up♬♩
新連載ありがとうございます✨ 💛ちゃん愛されラブコメ、いいですね💕︎大好きです✨ドン!ドン!愛されちゃってるの見せてくださ🫣 楽しみにしてます! MVキッチンカーの3人のイメージでよいですか?🤔(いつもしつこくすみません💦)