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最後です✨「ブラコン」も「やってんな」もポ♡♡ツだなと思うし、やってんなって思いました笑 今頭がラブコメモードなのでもうニマニマしてしかたなかったです( *´艸`) 脳内で青髪💛ちゃんが邪魔をしてたんですが、あとがき読んで、ローソンねとめちゃくちゃ腑に落ちてました😌 モブ逆ナン女子においおいと思いましたが、❤️さんの態度見てありがとうございます?ってなりました🤣
追記。 夏の海の三人のビジュは、私の頭の中では、ローソンのビュアルシートの御三方がわちゃわちゃしてました笑 丁度、涼ちゃん金髪だし👏🏻 想像(妄想?)のご参考程度に、ここに記しておきます…😆
とりあえずブラコンで一度横転しました🤣 💛らしくて可愛いです😂
「涼ちゃん早く!」
「上の階じゃね?あ、あった!あそこだ!」
「待ってよ二人とも。」
子どもみたいにはしゃぐ二人と、仕事休みの今日、近くの家具屋さんに来ていた。二人のベッドを買うためだ。
とりあえず、今部屋には僕のベッドと、ソファーと、あとは床くらいしか寝る場所が無くて、三人で分かれて寝ようと提案したのに、二人ともピッタリと僕にくっついてくるから、結局ずっと三人並んで床で寝る毎日になっていた。おかげで、体がバキバキだよまったく…。
だから、二人の学校生活が始まる前に、そして僕の身体が悲鳴を上げる前に、こうしてベッドを選びに来たのだ。
「これ、これが良い。」
「お、いいね元貴。」
「いや馬鹿なの?なんでキングサイズなのさ。」
「いやいや、三人で寝るならこれぐらい必要でしょ。」
「なんで三人なの。一人ずつでしょ。」
「え、何言ってんの?」
「え?」
「え?」
なんの冗談かと思ったら、二人とも真剣にきょとんとするもんだから、僕がおかしいのかと思って一瞬戸惑ってしまった。
「いや、だって、ちゃんと一人一部屋あるでしょ。その為に広い部屋借りてくれてたんだし。」
「えーーーーー。」
「それじゃ一緒に住んでる意味ないじゃん。」
「いやあるよ?意味あるよ?ちょっと待ってよ二人とも、冗談だよね?」
「冗談言ってるように見える?」
元貴とひろぱが、ジーッと見つめてくる。いや、冗談に見えないから、怖いんだけど。
「僕もうベッドあるし、二人ともちゃんと、シングル選んでください。」
「…はぁーい…。」
「…チッ。」
「元貴、舌打ちしない!」
ホントに、冗談なのかなんなのか、時々よくわかんないんだよなぁ、この二人。
結局、僕と同じようなすごくシンプルなシングルベッドを、二人とも選んで購入した。
大きな荷物をなんとか三人で部屋へ持ち帰って、それぞれに組み立てていく。
「…なんでここで組み立てるの?」
「んー?」
「見本があるとわかりやすいから。」
僕の寝室から、ハンガーラックやら棚やらをいそいそと運び出されてしまい、ベッドだけになった部屋の中で、二人がそれぞれ組み立て始めたのだ。
そんなもんなのか、と首を傾げながら、僕は夜ご飯の準備に取り掛かる。
「ねえ、ご飯出来たよー?」
「はーい。」
「あー疲れた、腹減った〜。」
二人が、僕の寝室から出て来て、美味しそうに夜ご飯を平らげる。
順番にお風呂に入って、そろそろ寝ようかとなった時、僕は寝室を見て唖然とした。
僕のベッドを真ん中にして、元貴とひろぱのベッドが両脇にピッタリくっ付けられていた。
「さ、寝よ寝よ。」
「あー、ベッドだあ〜、久しぶり〜。」
入り口で立ち尽くしてる僕を尻目に、元貴とひろぱがそれぞれ両脇のベッドに倒れ込む。
「…ちょっと、え?これ、え?」
「組み立てめちゃくちゃ疲れたー。」
「俺たちもうこれ以上動けないからね。」
二人とも、ここからベッドを運び出す気はないという風に、布団に潜り込む。
…これ以上の交渉は無駄だな。僕は諦めて、今夜はこのまま寝ることにした。
ピッタリとくっ付けられているから、とりあえず入り口に近いひろぱのベッドの端から、僕は仕方なくのそのそと真ん中のベッドへ向かう。
ガシッとひろぱの脚が僕を挟んで、それ以上進めなくなった。
「ちょ、ひろぱ!」
「うりゃ。」
脚で挟んだまま、僕の脇をこしょばしてくる。
「わはは!やめろってマジで!!」
「何やってんだお前ら!混ぜろ!」
元貴が真ん中のベッドを飛び越えて、僕の上に乗ってきた。僕も負けじと二人をこしょばして、せっかく綺麗にしてくれていた布団がぐしゃぐしゃになるまで暴れて笑い転げた。
「あー、あっつ。」
「何やってんのマジで、もー、汗かいたじゃん。」
「早く寝よーぜ。」
ゴロゴロとそれぞれのベッドへ移動して、僕は頭側にある腰窓を開けた。
涼しい風がさあっと部屋に入ってくる。
「あー涼しい…。」
「あっつ…。」
「…楽しい。」
僕が、ポツリとそう零すと、二人が顔を近づけてきた。
「でしょ?」
「良かったね、俺らが来てくれて。」
「うん。二人とも、ありがとう。」
二人が顔を見合わせて、何やら頷く。
「なに?」
「どういたしまして。」
元貴がそう言うと、ひろぱと一緒に顔を近づけてきて、僕の両頬にキスをした。
「…へ!?」
「おやすみー。」
「おやすみー。」
「…お、おやすみ…。」
両側から、二人が手を繋いできて、もう僕は一旦考えるのをやめた。この子達は、久しぶりの僕に、幼馴染のお兄ちゃんに会えて、それで喜びの表現が少し行きすぎちゃってるだけだ。
そんで僕も、久しぶりに距離感バグってる二人に会って、心臓が慣れてないだけ。こんなにドキドキしてるのも、繋いでる手がじっとりと汗ばんでしまうのも、全ては気のせいだ。
二人の学校が始まって、さらにはバイトも始めたらしく、それぞれに慌ただしい生活を送っていた。
いきなり訪れた三人の生活も、気付けばひと月経って、暦は五月に入っていた。
「あ、涼ちゃん、カレンダーにシフト書き込んどいたから、ちゃんと見ててね!」
「俺、今日賄いあるから、晩御飯いらなーい、行ってきまーす!」
玄関で、二人が一瞬目を閉じて手を合わせる仕草をして、急いでドアを駆け抜けて行った。僕たちの、出かける時のお決まりの仕草。ご先祖様に、今日一日の無事を願って、手を合わせて『行って来ます』と言うのが、子どもの頃からの癖だった。
「はーい、行ってらっしゃい。」
僕はその懐かしい仕草を、目を細めて見ながら、今更な挨拶をドアに向かって返した。
キッチンに向かうと、冷蔵庫に、大きめのカレンダーが貼られていて、それぞれの予定が書き込まれている。
「ん?」
五月十九日のところが、華やかなイラストで彩られていた。この絵の上手さは、元貴だな。
「ふふ、楽しみだなあ。」
十九日は、僕の誕生日。二人からずっと、この日だけは空けておけと口酸っぱく言われていた。あの二人の事だ、きっと盛大に、大好きな僕の事をさぞや祝ってくれるんだろうなぁ、と思い切りハードルを上げといてやる。
「行ってきまーす!」
「行ってきまーす。」
「…行ってらっしゃい。」
十九日、二人は当たり前のように、手を合わせた後、学校へ行く。そりゃあね、学校は大事だから。でも、僕はあれだけ言われていたから、丸一日予定を空けてしまっていて、なんだか物凄く寂しいのだけど。おめでとう、すら言ってくれなかったし。
まあいいか。どうせご飯とかも僕が準備するんだろうし、ケーキも焼いちゃおうかな。
ピロン、とスマホが鳴った。
『涼ちゃん、ケーキはこっちで用意するから、作っちゃダメだからね。』
ひろぱからだった。あ、なんだ、ちゃんと考えてくれてるんじゃん。でも…。
「ケーキは、って事は、それ以外は僕って事だよね。」
クスッと笑って、さてメニューはなんにしよっかな〜とまた独り言を零して、買い物に出かけた。
なんとか、それらしいご飯を用意して、アルコールと、ジュースも用意した。あとは元貴たちが帰ってくるだけ…なんだけど、なんだか妙に遅い気がする。もう、夜の8時になっちゃいそう。
何時に帰る?なんて連絡したら、大学生の彼らにとったらきっと鬱陶しいよなぁ。とりあえず、ご飯にラップをかけて、ソファーで横になる。
なんか、怒涛の日々のおかげですごく長く感じるけど、まだ二ヶ月も経ってないんだよなぁ。目を閉じて、あの二人が来てくれてから、ずっと楽しいな、と笑みがこぼれた。
ソファーでうつらうつらしていると、玄関が開いて、でっかいプレゼント箱を持った二人が駆け込んできた。
『涼ちゃんごめん!遅くなって!』
『これ、俺たちからのプレゼント!』
大きなプレゼントの箱からは、カラフルな風船が飛び出して、白い鳩なんかも飛んで行った。
『何これ手品じゃん。』
僕が手を叩いて笑うと、元貴とひろぱが急に抱きついてきた。
『涼ちゃん、好きだよ。』
『俺も、大好き。』
僕もだよ、と答えようとしたら、元貴にキスをされた。ビックリして固まっていると、今度は、ひろぱにもキスをされた。
暖かくて、柔らかい感触に、そっと目を開けると、ソファーに横になった僕の傍に、元貴とひろぱが身を屈めていた。
二人は、目を丸くして僕を見ている。少しボーッとした頭で、二人を見た。
「…風船は…?」
「……は?」
「…あれ、鳩は…?」
「…寝ぼけてんの?」
あ、夢だったのか。僕はようやくハッキリと目を開けて、起き上がる。
「…ごめん、寝てた…。」
僕が、目を擦って謝ると、二人は、ほぅ、とため息をついた。
「…いや、俺らも遅くなっちゃってごめん。」
「若井がなかなか時間かかってさ。」
「お前がなんも手伝わないからだろ!」
「料理はお前の分野だろーが。」
「なに…ちょ、ケンカしないで。」
してないしてない、と二人が僕を宥める。
「さ、せっかく作ってくれた料理、あっためて食べよ!」
「涼ちゃん、ほらほら座って。」
「う、うん、ありがとう…。」
テキパキと料理を温め直してくれて、またテーブルに並べられていく。
「はい、せーの!」
「「「いただきます!」」」
「違う違う違う!」
ひろぱが慌てて止める。
「え?」
「せーのっ。」
「「涼ちゃん、誕生日おめでとう〜!」」
「わー、ありがとう〜!」
二人がパチパチと拍手をしてくれて、僕も自分で拍手を贈る。
三人で、学校の様子や、職場での話などをワイワイと話した後、二人が冷蔵庫へとケーキを取りに行った。
「これ、若井が初めて調理室で全部自分で作ったんだよ。」
「え、すご!わー、見せて見せて!」
「初だからね!いい?初なんだよ!?」
箱からは、綺麗な円柱型の、可愛らしいケーキが出てきた。側面は丁寧にナッペされていて、クリームに筋も殆どない。
上部には、黄色く着色されたクリームで、花のような絞りが幾つもされていた。花弁の中心には、ブルーベリーや苺など、フルーツが細かく飾られて、目にも鮮やかな仕上がりになっている。
「涼ちゃんは、元気な黄色ってイメージだ から、黄色い花のケーキ作ってみました〜。」
「わー、若井すごいー。」
元貴がわざとらしくひろぱに拍手をして、ひろぱも頭を掻いて、えへへ、と笑う。
二人とも、僕の反応を伺って、顔を覗き込んできた。
「…え、涼ちゃん泣いてる?」
「うそ!あ、泣いてるー!」
元貴が驚いて、ひろぱが揶揄う。僕の目からは、ポロポロと涙が零れて止まらなかった。
「ありがとう、ホントにありがとう…。すっごく嬉しいよ、ひろぱ…。」
「えー、やめてよー、俺まで泣いちゃうじゃん〜。」
涙ぐみながら、ひろぱが僕に抱きつく。
元貴が、ちょっと拗ねたような顔で、鞄からプレゼントを取り出す。
「…これ、俺から。」
「ありがとう、開けていい?」
「もちろん。」
「わ、可愛い〜!」
小ぶりな箱の中から、ゴールドのピアスが出てきた。丸く小さな飾りが一粒、金具についているだけの、とてもシンプルだけど、キラキラと輝いて綺麗なピアス。
「…これ、ひろぱと色合わせたの?」
「んーん、たまたま。すごくね?」
「やっぱ涼ちゃんは、黄色でしょ。」
そうなんだ、僕って黄色なんだ。そんな事を思いながら、左耳に付けていたピアスを外して机に置き、元貴からのプレゼントを手探りで軟骨部分の穴に通す。
「どう?似合う?」
耳に指を添えて、二人に見せる。二人は、じっと僕を見つめる。
「あれ?なんか変?」
「…涼ちゃん、好き。」
元貴が、ポロッと零したように、そう口にした。ひろぱが、チラッと元貴を見て、僕に向き直る。
「…俺も、涼ちゃん好きだよ。」
二人が、あまりに真剣な眼差しでそう言うもんだから、なんだか僕も照れてしまう。
「あ、ありがとう、僕も二人が大好きだよ。」
ニコッと笑って、素直に応える。二人は顔を見合わせて、少し溜息をついた。
「あのさ…、涼ちゃんて、彼女とかいるの?」
「はい!?」
元貴からの突拍子もない質問に、声が裏返った。
「いるの?」
ひろぱにも同様に詰められて、僕は二人を交互に見る。
「い、いや、いないけど…なんで?」
「そう…。」
しばらく考えたのち、元貴が続ける。
「じゃあ、これからも彼女作らないでね。」
「え?」
「もし、なんか恋愛的な事が起こりそうなら、必ず俺らに言ってね。」
「ん?」
「「言ってね?」」
二人の声が重なる。なんだか圧を感じて、僕はこくんと頷いた。二人とも、ニコッと笑って、話を切り上げると、ケーキを分け始めた。
な、なんだったんだ今の?僕に、彼女が出来るのがそんなに嫌なのかな?
もしかして、二人とも…
すごいブラコンなのかもしれない。
季節は少し進んで、七月に入った。その頃になると、ひろぱも元貴も、課題や試験で大忙しになっていた。
ダイニングテーブルで元貴が試験対策に悪戦苦闘している時に、ひろぱが僕に頼み込んできた。
「涼ちゃんお願い、実習課題手伝って!」
「実習?テーマは?」
「魚。」
「魚かあ、僕もやったなあ。」
「涼ちゃん何でやった?洋?中?」
「僕は洋だったかな、フリットにした気がする。」
「うーん、俺は中にしようかなと思ってんだけど。」
「わ、難しそうだけど、面白そうだよね、中華の魚って。」
「でしょ?ちょっと考えてんだけど…。」
キッチンで、ひろぱのレシピノートを二人で確認する。手順も多いし味付けも難しそうだけど、すごく美味しそう。
「じゃあ、材料買ってきてやってみる?家のキッチンじゃちょっと火力弱いけど。」
「やるやる!一緒に買い物行こ!」
「…楽しそうですねー。」
元貴がテーブルからこちらをジト、と見つめる。
「元貴も行く?ちょっと息抜きしたら?」
「…いや、いい。二人で行ってらっさい。」
元貴が少し寂しげに笑った。なんだか可哀想で、コーラを買ってきてあげよう、と決めた。
必要なものを買い揃えて、ひろぱとキッチンに立つ。
「えっとー、じゃあまずは下拵えか。」
「酒と塩かな?」
「ちょっと昆布で締めてみようかな。」
「えー、面白い。」
二人であーだこーだと言いながら、料理を進めていく。
「ここ、野菜の飾り切りしたいんだけど、これどーやんの?」
「あ、これはね、僕結構得意だよ。貸してごらん。」
ひろぱから包丁を受け取って、ス、ス、とリズムよく切れ目を入れていく。最後に指でずらすと、綺麗な飾り切りが出来上がった。
「おわ、すげー!えー、涼ちゃん意外とうまいじゃん。」
「意外とってなんだよ。はい。」
ひろぱに包丁を渡すと、うーん、と野菜に刃を入れ兼ねていた。
「だから、ちょっといい?こーして、」
後ろから、ひろぱの両手を包んで、一緒に野菜と包丁を握る。手を持ってやって見せようと思ったけど、人の手を使うとやっぱりやりにくい。
「あ、じゃあこうしよう。」
ひろぱが、包丁を僕に渡して、後ろから僕の両手を包み込んだ。
「これで、涼ちゃんの感覚を感じ取るわ。」
後ろから、耳元で声がした。ビクッとして、肩がすくむ。
「…涼ちゃん?」
ひろぱが変に覗き込むので、顔の真横に息がかかる。
「ん…ちょ…。」
くすぐったくて、身を捩った。なんだか恥ずかしくて、顔も熱くなる。
「ちょっと、これやりにくいかも…。」
僕が小さな声で言うと、ひろぱが手に力を込めた。
「…ひろぱ?」
「…ごめん、俺も無理。」
そう言って手を離すと、ひろぱはトイレへと足早に消えて行った。
元貴が、頬杖をついて、ひろぱの消えた方をニヤニヤと見ている。
「あーあー、涼ちゃんやっちゃったね。」
「え?」
「あれは、やってんな。」
「なに?おしっこ漏れそうだったの?」
元貴は、目を見開いて僕を見た後、ブハッと笑った。
「…あー、やっぱ涼ちゃん最高。」
「なにが。」
「ずっとそのままでいてね。」
ニヤリと笑ってそう言うと、鼻歌を唄って上機嫌でコーラを飲みつつ、試験対策を続けている。
僕は首を傾げていたが、そろそろと戻ってきたひろぱと、料理の続きに集中した。
八月に入ると、無事にそれぞれの課題や試験から解放された二人から、しつこく言い寄られた。
「涼ちゃん!夏だぜ!遊ぼうぜ!」
「なに仕事ばっかしてんの、休めよ。 」
「あのね!無茶言わないでよ、僕は君らと違って社会人なの!学生じゃないの!夏休みなんてないの!」
「なに言ってんだフリーターのくせに。」
「そーだそーだ、常識人ぶるな。」
「酷いぞ君たち!はい、離して!」
玄関で僕をしっかり掴んで離さない二人をなんとか引き剥がして、ご先祖様に手を合わせて目を閉じる。
「はい、行ってきます。」
「行くな。」
「だめ。」
「はいはい行ってきます!!」
仕事場に着いて、去り際に寂しそうな目でこちらを見ていた二人を思い出し、少し心が痛んだ。あんなに僕に会いたがって、部屋まで押しかけてきて、勝手に住み着いて、休みになったら遊べ遊べとしつこくて…あれ、やっぱりあんま可哀想じゃないかも。
ロッカー前で着替えていると、店長が話しかけてきた。
「藤澤くん、ちょっと良い?前に言ってた話なんだけどさ、あれどうだろ?」
「前…?あ、ああ!ちょうど良い!」
「ん?」
「ねえ二人とも、海の家のバイトしない?リゾバってやつ。」
「「リゾバ?」」
家に帰って、僕は二人に店長からの相談を持ちかけた。
「リゾートバイト。うちの店長が系列でやってるお店が海水浴場にあって、そこを夏の期間お願いされてたんだよね。」
「うそ、すごいじゃん。よっ雇われ店長。」
「うん、だから、一緒に行かない?流石に遊んでばかりはいられないけど、家にいるよりかは良いでしょ?お金ももらえるし。」
「海かぁ…正直、嫌い。」
「あー元貴はね、確かに。」
「俺!海大っ好き!涼ちゃんに着いてく!」
「元貴どうする?」
「どうするって、行くに決まってんだろなに言ってんだ。」
「海嫌いとか言うから!」
数日後、僕たちは、いくつかの着替えと水着を持って、海の家へと出発した。
「涼ちゃん、焼きそば5、おでん3! 」
「ひろぱ、カレー2そっちで作って!」
「元貴、飲み物これ持ってって!」
海の家は大盛況で、お昼時になると目の回るような忙しさ。他にもバイトの子はいるけど、つい気心の知れた二人にたくさん声をかけてしまう。二人とも、よく働いてくれて、着いてきてくれて本当に良かった、と僕は感謝していた。
「あのぉ、すみませぇん。」
「はい。」
「LINE交換って出来ますぅ?」
「…は?」
「ねぇ、お兄さん。」
「はい!」
「かき氷のコーラと、お兄さんのインスタのDM教えて?」
「はい?」
そこかしこで、元貴とひろぱが、水着の女の子たちに声をかけられている。ひろぱは明るく躱しているが、元貴の絶対零度の真顔にも、怯む事なく声をかけ続ける子もいる。女子って強いな。
「ねー、君。 」
「あ、はい、ご注文どうぞ。」
「君。」
金髪のビキニを着た女の子が、僕を指差す。
「…え?」
「名前は?」
「あ、藤澤です。」
「ちがう、下の名前。」
「あ、涼架です。」
「え、りょーか?マジかっこいい。」
「あ、ありがとうございます…。」
「ねえ、LINE交換しよ?DMでも良いけど。」
「えっと…、ちょっとそういうのは…。」
「いいじゃん、お願い、一目惚れなの。」
「え…。」
夏の海のマジックだろうか。ここまで女の子に積極的に迫られたのは初めてだ。否応にも、顔が熱くなる。
「りょーかくん、顔ちっちゃいし、背高いし、足長いし、優しそうだし、完璧なんだもん。」
「いやぁ、あはは…。」
「…あ、ねえ、髪の毛にゴミついちゃってるよ。」
女の子が、僕の左耳のあたりに両手を伸ばす。ゴミを取ってもらえるなら、と僕は顔を少し前へ差し出した。
プチッと音がして、耳に違和感が残った。反射的に耳に手をやると、そこにあるはずの、元貴のピアスが無い。
「…え?」
「えへへ、取っちゃった♡」
女の子の手に、ゴールドのピアスが光っている。
「あ、ちょ…。」
「ご注文は?」
突然、女の子の後ろから、絶対零度の真顔な元貴が低い声で遮った。
「わ、こわ。じゃあね、仕事終わったら海に会いに来てね!」
ササッとその子は逃げるように、ピアスを手にしたまま行ってしまった。仕事中なので追いかける事も出来ず、僕は焦って目で追うばかりだった。
「なに、涼ちゃん、あいつ。」
「あ…ううん、なんでもないよ。」
「え?ナンパされてたんでしょ?」
「まぁ、そうなのかな。」
「睨みつけて『あっち行けブス』って言やーいーんだよ。」
「いやいや、お客さんだから。」
「なんも買ってねーじゃんあいつ。」
「ま、まあ、確かに。」
「…チッ。だから海も、海にいる浮かれた奴らも嫌いなんだよ。」
「ちょっと元貴…お客さん睨まないでよ?」
「…はいはい。」
渋々とホールに戻った元貴を心配しながらも、あの女の子がなんとか戻ってきてくれないかと、ソワソワしながら仕事を終えた。
海水浴場が閉まる17時に店仕舞いをして、近くの店長紹介の旅館に戻る。
元貴たちとご飯を食べて、大浴場へ行こうとなった時に、僕は二人に声をかけた。
「あ、僕、ちょっとお店に忘れ物したから、取ってくるね。先に行ってて。」
「ん、わかった。」
「気をつけてねー。」
急いで海水浴場へ走った。散歩をしているカップルや、花火を楽しむ若者集団なんかもいる。砂浜を横断して、彼女を探す。
「あ、りょーかくん!」
リゾートワンピースに着替えた彼女が、こちらに手を振った。僕は安堵して、駆け足で近づく。
「良かった、会えて!」
「ね、良かったぁ。来てくれてありがとー。」
「あ、はい…。で、あの、ピアスを…。」
「ねー、これって、彼女から?」
女の子が、ピアスを右手で掲げる。
「いや、違います、彼女いません。」
「え、マジ?!やった!」
「やった…?」
「うん、ねぇ、付き合ってくれない?」
「どこに?」
「は?うける。」
「え? 」
「だからぁ、アタシの彼氏になって、ってこと。」
「え!!」
「そしたらこれ、返してあげる♡」
「いやいや、え?今日会ったばっかりですよね?」
「うん、だから言ったじゃん、一目惚れだって。りょーかくんカッコいいから、好き。」
「…いやぁ…それはちょっと…。」
「えー、意外と真面目くんなんだ。」
「意外と…?」
「じゃあ、チューだけでも。」
女の子が、唇を突き出して、人差し指を顎に当てる。
「エッチでも、いいよ?」
もう一歩、近づいてきて、唇を尖らせる。
僕は、拳を固く握って、しっかり目を合わせた。
「…すみません、無理です。」
「…は?」
「僕は、本当に好きな人とじゃないと、嫌です。」
「うわ、ださ。さめるわ。」
そう吐き捨てると、右手にあったピアスを砂浜に叩きつけた。
「あ! 」
「ふざけんな、きも。」
すぐにしゃがんでピアスを探す僕に、頭上から言葉を投げかけると、さっさと歩いて去って行った。あの子はどうでもいい、ピアスが…。元貴がくれた、大事なピアス、見つけなきゃ。
真っ暗な砂浜で、スマホの灯りを頼りに、探す。足元に投げつけてたから、絶対にこの辺にあるはずだ。
「涼ちゃーん!」
遠くから、元貴とひろぱが僕を探しにきていた。どうしよう、どうしよう…。
「涼ちゃん?何してんの?」
「なんか落とした?」
二人が僕の元に来て、様子を伺う。僕は、膝をついて両手を下に降ろしたまま、項垂れた。
「…ごめん…。」
「何が?」
「…元貴の、くれたピアス…なくしちゃった…。」
「元貴のピアス?なんでこんなとこで?」
ひろぱが、心配して色々訊いてくる。
「えっと…。」
「…途中から、無かったよね?左耳。」
元貴が、静かに口を開く。僕は、ドキッとして、息を飲んだ。
「…もしかして、あの女? 」
鋭すぎる元貴に、なぜか僕が怯えてしまう。
「あの女って?」
「昼間、涼ちゃんにしつこく言い寄ってるブスがいて。なんか『夜に待ってる』みたいな事言ってたから、もしかして、と思ったけど…どうやら当たりみたいだね。」
元貴がしゃがんで、僕の顔を覗き込む。僕は、悔しくて情けなくて、涙が零れていた。
「…あいつ…投げ捨てた…信じられない…。…ぶす。」
僕が、精一杯の悪態をつく。元貴が、プッと吹き出して、僕の頭を撫でる。
「殺そうか、あいつ。」
元貴がにっこり言った。
「こわいこわい。それより、探そ、涼ちゃん。」
ひろぱが僕の肩を優しくポンと叩いて、スマホのライトを付けて探し始めた。僕も涙を拭いて、また探し出す。元貴も、ぜってー殺す、とブツブツ言いながら探し始めた。
優しく砂を撫でるように探すこと数分、ひろぱが声を上げた。
「あったーーー!!!」
「ホント!?」
「あ、ちがうわ、貝殻だわ。」
「お前な!!」
それからしばらくして、僕の指先に、細く固いものが触れた。砂に埋もれないよう、優しく摘むと、ゴールドの飾りがキラリと光った。
「あった…。」
「あ、マジじゃん!」
「わー、良かった〜。良かったね、涼ちゃん!」
「…良かっ…たぁ…、良かったぁ〜〜〜。」
安心して、ポロポロと涙が零れて止まらなかった。元貴が、眉を下げて、嬉しそうに笑っている。
「…そんなに、大事にしてくれてんの?」
「当たり前でしょ〜、元貴に貰ったやつなんだからぁ〜!あー良かったぁ〜〜!」
目を押さえて上を向いて、声を上げる。
すると、元貴がギュッと抱きついてきた。
「…はあ。ほんと、涼ちゃん大好き。」
「…う、うん、ありがと…。てか、ホントごめんね?」
「ううん、涼ちゃん悪くないよ。あいつ殺そ。」
「プッ。…元貴こわ。」
僕が、元貴を抱きしめ返していると、ひろぱも横から抱きついてきた。
「ちなみに、俺も、涼ちゃん大好きです。」
「ふは、うん、ありがと。」
夜の砂浜で、スマホのライトも照らしたまま、大の男三人で、ギュッと抱きしめあっていた。
波の音だけが、僕たちの夏を包み込んでくれている。