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見慣れたピンク頭の双子は、私を見上げて、ポカンと口を開けていた。
まさか、私の姿に見惚れたんじゃ……と一瞬期待したが、相変わらず彼らの口から発せられる言葉はとげのあるものばかりだった。
「一瞬誰かと思った」
「一瞬誰かと思った」
「それぐらい見惚れてたって事?」
「まさか」
「ありえない」
と、私が冗談で言った言葉を思いっきり蹴飛ばして、ルクスとルフレは全力で頭を横に振った。
そんなに否定されるとさすがに傷つくと思いつつ、私はニッコリと彼らに笑顔を向けた。だが、私の笑顔を見た双子はゾゾゾ、と身体を震わして、互いの指を絡めぷるぷると震える仕草で私を見つめてきた。
「その笑顔、気持ち悪ーい」
「気持ち悪ーい」
そこまで言わなくてもいいじゃないか! と思うのだが、ここで怒ってしまうと、まるで私が悪いみたいになるのでグッと堪えることにした。周りには他の貴族もいるわけだし、此奴らは子供だしと、大人の余裕って言うものを出してやろうと堪えた。
だが、双子の発言を聞いて、隣にいたアルバがピクリと眉を動かしたのが見えた。私は、慌ててアルバの腕を掴んで引き留める。主人を馬鹿にされた事に対して怒りを覚えてくれるのとか、色々言ってくれるのは嬉しいが大事にしたくないと私はアルバの目を見て首を横に振った。アルバは「ですが……」とこぼしたが、私が折れないことを知っている彼女は、分かりましたと私の後ろで一歩下がった。
私は、双子達の前まで歩いて、彼らの顔を交互に眺めた。双子だから顔が似ているのは勿論なんだけど、わざと仕草まで似せているせいで初見ではどっちがどっちか見分けがつかないだろう。違うのは瞳の色だけなのだから。でも、関わってみれば二人の性格はかなり違うものだと分かったし、仕草を似せていると言うことにも気付けた。これは、大きな進歩である。
(ゲームでどっちがどっちかって間違えたら、それだけで好感度下がるんだもんね……)
ゲーム内では、双子の名前を間違えたりするとすぐに好感度が下がったものだ。双子だからと言って、同じ人間としてみられることを好いていないという証拠だろう。間違えられて、いい気にはならないと思う。
「気持ち悪いって失礼ね。私のメイドが、聖女殿のメイド達が可愛く着飾ってくれたのに! 貴方達だってその格好、従者達がやってくれたんでしょ?」
「そうだよ。格好いいでしょ」
「格好いいでしょ」
と、いつもよりも気合いを入れた服装をしている二人を褒めればすぐに胸をはって、どうだ! とでもいうように
誇らしげにしていた。こういう所は素直というか、褒めて欲しいって言うのが丸わかりな態度に私はクスリと笑ってしまう。元々子供は好きじゃなかったし、言うなれば、此奴ら本当に苦手でゲームプレイ中に苦戦を強いられたけど、根は単純なんだと思いながら私は、もう一度笑顔を作って見せた。
すると、また双子達は身体を震わせて互いに抱きつきあう。
「笑顔、気持ち悪ーい」
「気持ち悪ーい」
「ほんと、失礼な。か弱い女性に向かってそれはないでしょ!?」
もう、我慢の限界だと、私は声をあげた。
流石に、こんな言われ方をしたら、温厚な私でも腹が立つというもの。いくら聖女とは言え、私も女の子なんだし、こんなに貶されて黙っているほど大人じゃない。それに、私にだってプライドがある。
そう思い、私が口を開くと、双子はまた指を絡ませあって震えていた。
これでは、私が悪いみたいじゃないか。
そう思いつつも、彼らの頭上でピコンと好感度上昇の音が聞え、別に嫌がっているわけではないことを私は知った。だが、今の何処に上がる要素があったのか分からない。この双子については、構ってあげることが好感度を上げるみそなのではないかとおもった。だが、あげたところで、既に攻略対象からは除外しているので、そこそこにあげつつ保ちつつでいいと思った。ヒロインのストーリーでも、この双子はかなり特殊な好感度のあげ方だったし、エトワールストーリーでもそれは変わらないだろう。
ルクスはルフレを、ルフレはルクスを兄弟として愛しているからどちらかが愛されると言うことを嫌っている。ようは、どちらも愛されたい、愛されるべき何だという思想を持っているのだ。だから、どちらか一方をあげすぎると、きっとエトワールストーリーでは刺されることになるだろう。
私はそう考え、彼らの好感度を見た。
この双子とは全く顔を合わせないために好感度は一番低いが、それでも二十は超えていたためまずまずと行った感じだった。
「聖女さま、今日は『本物』の聖女さまは一緒じゃないの?」
「『本物』の聖女さまは一緒じゃないの?」
と、彼らは、悪意ゼロの瞳で私を見つめてきた。
だが、偽物とつけないだけで彼らは私を本物とは思っていないようだった。まあ、彼らのいっていることは正しいし、それを否定するつもりもなければ、彼らが濁して私を偽物と言わなかっただけでも良いだろう。だが、それを肯定してしまうわけにはいかないので、私はニッコリと微笑んで彼らを見下ろした。
双子も矢っ張り、トワイライトに会いたいんだなあ何て思って、私はズキッと心が痛んだ。
(平常心、平常心よ)
私は自分に言い聞かせて、笑顔を作る。それが、気持ち悪いと言われてしまいショックだが、自分でも気持ち悪いと思っている。
双子はその後も、トワイライトは何処にいるのだとか、挨拶に行きたいだとか何故か私にしつこく聞いてきた。私はそれを受け流すのが大変で、リュシオルやアルバに助けを求めたが、彼女たちはお手上げと行った感じで助けてはくれなかった。助けてくれなかったというか、助けられなかったというか。そういう立場ではないと自分たちの立場を理解してのことだろう。
それにしても、この双子は……
そう思っていると、階段をもの凄い勢いで駆け上がり双子の名前を呼びながら走ってくる人影が見えた。
「ルクスお坊ちゃま、ルフレお坊ちゃま!」
それは、彼らのメイドで、双子の名を必死に呼びながら、二人の名を呼ぶ。
そして、メイドは双子を見つけると、安堵した表情を浮かべ、息を切らしながらこちらにやってきた。彼女は、せっかくセットした髪をぼさぼさにし、服も乱れていたが、そんなことを気にする余裕はないといった様子だ。
「ルクスお坊ちゃま、ルフレお坊ちゃま……よかった……」
「どうしたの? そんなに慌てて」
「そんな慌ててどうしたの?」
メイドの様子を見て、双子は不思議そうな顔をしていた。
メイドは、双子の元に辿り着くと、膝に手をついて肩を上下させていた。メイドは、しばらくそうしていたが、ふぅっと一呼吸置くと、汗が光る顔でへらっと笑った。その様子から、多分双子がメイドの制止を聞かず飛び出して私の方へ走ってきたか、護衛もメイドもつけずに勝手に会場へ向かおうとしたかの二択だろうと思った。そりゃ、大富豪のご令息が勝手にいなくなったら焦るだろうし、もし誘拐されたりでもしたらそのメイドの責任にもなる訳だし。
まあ、彼らは攻略キャラで強いからそうそうにないことだろうけど。
そんなことを一瞬考えたが、攻略キャラでも死にかけることはあるし、危険がないわけではないと言うことを思い出した。リースとかアルベドとか……グランツやブライトだって、傷を負うし、死にかけたことだって何度もあった。その時、たまたま私がいたからどうにかなったけれどもしいなかったら、助からなかったかも知れない。けれど、その原因となっているのは私だと、またそれも思ってしまった。
(まあ、こんな皇太子の誕生日で騒ぎを起こす人なんていないだろうし……)
もし仮にいたとしても、今日は皇太子の誕生日ということだからもの凄く警備に力を入れている。だから、大丈夫だろうと、私は思った。
そうこう考えていると、ようやく双子が落ち着いたのか、双子は、メイドの方を向いて言った。
「お坊ちゃま達、勝手に何処かに行かれたら困ります。旦那様に叱られてしまいます」
と、メイドが言うと、双子は申し訳なさそうに俯いていた。
「でも、ヒカリが遅いから悪いんだよ」
「ヒカリが足遅いから悪いんだよ」
そう、双子は自分たちが悪くないとでも言うように、メイドを攻め立てた。メイドは、ですが……と困ったように、でも返す言葉がないのか、口籠っていた。
これまで、彼らはそばかすのメイドのことを「メイド」と呼んでいたが、何故か今日に限って彼女の名前であろう「ヒカリ」という言葉を口にしたため、私は思わず首を傾げてしまった。メイドと言えば、ただのモブなので(といったら、感じが悪いような気もしないでもないが)名前など攻略キャラの口から出てこないと思っていたが、彼女はどうやら違ったらしい。もしかしたら、双子のルートに、彼らの好感度を上げたことによって、彼らのストーリーに足を突っ込んだことになったのではないかと私は予想した。彼らのメイドのことについても、これから知ることが出来るのでは無いだろうかと。
私と同じように、もごもごしているし、コミュ障っぽいし仲良くなれそうと思っていたら、彼らのメイド、ヒカリ? と目があった。
「ど、どどどっどどど、どうも、あの、聖女様。わ、私はルクス様と、ルフレ様に仕えているメイドのヒカリと申します。よっよろしくお願いします」
そう言って、彼女は頭を下げた。私はそれに驚いて、いえこちらこそ……と返した。
同類を見つけた気持ちが強くて、私はまた気持ち悪い笑みを浮べてしまったに違いない。
「わー聖女さま、また気持ち悪い顔してるー」
「気持ち悪い顔してるー」
双子にそう言われても無理ない顔をしていた。後ろでリュシオルがうわっとした表情で見ていたのを、私は気づくよしもなかった。