「というか、アンタ達も呼ばれてたんだ」
「何それ、僕達が呼ばれてないと思ったの? ひどーい」
「ひどーい」
私は、思わずぽろっと本当にぽろっとこぼしてしまった言葉をルクスとルフレに拾われてしまった。それを聞いた二人は、かわいこぶりながら酷いと口にしたが、目は完全に怒っているようだった。まあ、大富豪で伯爵家のご令息だし、皇太子の誕生日に参加するのは可笑しいことではないだろう。むしろ、来ていない方が不自然だ。
そう思っていると、双子はぷんすかと頬を膨らませていた。その様子は、可愛いと言えなくもないのだが、如何せん中身を知っているため素直には喜べなかった。
(まあ、ヒロインのストーリーの最初のイベントだし、殆どの攻略キャラは来ているんだろうけど)
そう、これはヒロインストーリーの最初のイベントなのだ。
ゲームを始めてすぐ、召喚されてあたふたしている内に来るイベント。それが皇太子の誕生日。そこには、アルベドとグランツ以外の攻略キャラが参加し、攻略キャラとのイベントが起きる。一番はやはりリースとのダンスイベントなのだが、記憶があやふやではあるのが、ルクスとルフレと出会うイベントだってある。それは、彼らが落とした宝石を拾うというものだった気がする。何でも、母親がくれた大切なもので、それを拾って渡すことで彼らのストーリーが開かれるとか。凄く感謝されて抱きつかれたのを覚えている。そんな風に、ブライトも似たようなイベントが起きて出会うわけだが、その後護衛になるグランツとそもそも光魔法の者達達を集めた誕生会なので呼ばれていないアルベドは、このイベントでは参加しないことになっていた。
はずなのだが……私の記憶があっていれば。
(アルベドは、来ないんだよね……確実に)
アルベドは元から呼ばれないことが多かったし、その上最初から出会う事になるリースの次に好感度が上げにくいキャラだった。ヒロインストーリーでは、嫌われ者の公子として出会うわけだが、私は素のアルベド、暗殺者のアルベドと顔を合わせたためかなりそこで差があるようにも思える。まあ、そのおかげで好感度が上がりやすいのかも知れないが。
兎に角、余計なことをいいそうなアルベドは来ないと言うことだ。
(アルベドは、いっつも余計なこと言って他の攻略キャラの好感度を下げるからね)
そんなことを思いつつちらりと双子を見た。
これは現実でもあるが乙女ゲームでもあるのだ。攻略ということはすっかり頭から抜けていたが、やっとヒロインストーリーまで追いついたという感じだった。ここで、ヒロインと交代とならないのは、きっとヒロインであるトワイライトと良い関係を築き上げれたからだろう。
その本人は、今、きっと私よりも先に会場入りしているんだろう。
「ちょっと、聖女さま聞いてるの?」
と、ルクスだったかルフレだったか、どちらも似ているためどちらが言ったか分からないが、呼ばれ私はハッと我に返った。
視線を戻せば、双子がまだぷんすか怒ったように頬を膨らましていたのだ。どうやら、考え事をしていて双子の話を全くと言って良いほど聞かずにいたらしい。私は慌てて謝った。
双子はそれを見て私を馬鹿にするような視線を送ったが、私は気にしないことにした。この双子はそういう性格だからだ。
私は、そんな双子を置いてメイドの方を見た。同じコミュ障、同類とみた彼女について知りたいと思ったからだ。勿論、メイドという存在はモブに近いのに名前があると言うことは、きっと何かしらストーリーに関わってくるだろうから。
リュシオルは、トワイライトのストーリーで出てくるキャラだったからか、それとも親友が転生したから名前があったからなのかは分からないが、グランツのストーリーではプハロス団長だったり、エトワールストーリー限定なのかも知れないがアルバっていう女性騎士がいたり、きっと名前を名乗る人物は今後も関わってくるだろうと予想したからだ。
「ヒカリさんは、大変ですね。その、双子の侍女……を」
「は……いいえ、大変ではありません! 私が、ルクス様やルフレ様には迷惑をかけてばかりですし」
「そう……なんだ」
ヒカリさんは、そうです。と何故か自信満々に言っていた。迷惑をかけているって言うことは、双子からいいように思われていないんじゃないかと思ったが、双子を見れば、彼女をからかうのもまた面白いとでも思ってそうだと思えた。
「あああああ、あと、その私にさんなんていりませんから、聖女様は私と比べものにならない地位のお方ですし、そんなさん付けされるような身分ではないので、私は」
と、ヒカリさんは慌てたように付け足した。
と言われても、癖でさん付けになってしまうし……とリュシオルを見れば、彼女はニッコリと笑っていた。リュシオルはメイドだけど親友で、元々呼び捨てで呼んでいたからと心の中で言い訳をしつつ、分かったと返した。
ヒカリさんはそれに満足したのか、はい!と元気よく返事をした。
何だか、その様子が可愛らしく思えて、私はまた笑みをこぼしてしまった。顔に薄く乗ったそばかすも、彼女の愛らしさを引き立てているように思えた。
(素朴な可愛さって感じ……リュシオルの強い女とはまた違って、いろんなメイドがいるって事だなあ……ドジっ子メイド)
と、思っていたら、ルクスとルフレに足を踏まれた。
その痛みに悶絶していると、二人は私を見下すように見てきた。
「いったい! 何すんのよ!」
「えーだって、聖女さま僕達のメイドをとっちゃいそうなんだもん」
「僕達のメイドとっちゃいそうなんだもん」
「誰が! 私には、リュシオルっていうメイドがいるの! それに、ヒカリはアンタ達に誠心誠意尽くしてくれてるんだから、それは私も見てて分かるし、何で私がとるなんて発想になるのよ」
そう言い返してやれば、それもそっかといった感じに双子は顔を合わせていた。
でも、正直意外だった。双子がこうまでして自分のメイドのことを言ってくるなんて。私がリュシオルと仲良くしていたから、自分たちのメイドともそういう関係になりたいのか、それとも自分たちの玩具が取られるのが嫌なのか。どちらかは分からないし、どちらでもないかも知れないけれど、双子にとってこのメイドは大切なんだろうなあと見て取れた。
少し思い出してみれば、この双子って結構メイドを変えているとか何とかだったような。
(気に入らないと即解雇……していたような気がする)
本当に、リース以外の攻略キャラのストーリーが曖昧で自分を恨んだが、ヒカリさんは結構長いこと彼らのメイドをやっているようにも思えた。それに、双子のことを本気で好いているというか、主人として仕え続けたいと思っているんだなあと見て取れた。
何だか微笑ましい。
「アンタ達にとってヒカリって大切なメイドなのね」
と、私が口にすれば、彼らはきょとんとした目で互いに顔を合わせた後私を見てきた。
変なことでも言っただろうかと彼らの反応を伺っていると、双子は思い出したかのように口を開いた。
「そうだねーヒカリが一番長いこと僕達のメイドとして働いてくれているよね」
「そうだねーヒカリが今までで一番長いんじゃない?」
そう口にする双子は、何処か楽しそうにこそこそ秘密の話をするように話していた。
やはりそうかと、私は彼らの言葉を聞いて思った。でも、ヒカリも大変だなあとも思って。解雇されれば、彼らの世話を焼かなくてもすむけれど、大富豪のご令息のメイドなんて給料は良いだろう。リュシオルが今どれぐらいの給料をもらっているか分からないが、ヒカリはそれなりにもらっているんじゃないかと思った。
お金の話をすると、どうもここに来てからの金銭感覚が推し活をしていた現世よりも悪くなった気がして、贅沢はしないようにと心に決めた。
そんな風に考えていることがバレたのかリュシオルは、最低限の生活が出来れば良いのよ。と何処か他人事のように呟いていた。リュシオルは元からそういう人間だったし、私も最低限の生活が出来れば良い……とは思っているのだが、如何せん、聖女だからという理由でもうそれは豪華で煌びやかな生活を送っている。もう、現世には戻れないぐらいに。コンビニの弁当が恋しくも感じるが、今毎日食べているものと比べたら比にならない。
私は、前世のことをぼんやり思い出しながら、双子に視線を戻すと、彼らは早く会場に行きたいのかソワソワとしていた。
「じゃあ、聖女さま、僕達は『本物』の聖女さまに挨拶に行きたいから。またねー」
「またねー」
と、双子達は私の両脇を通って階段を上がっていった。
相変わらず落ち着きがないなあと思いつつ、「本物」の聖女とはトワイライトのことだろうと私はため息をついた。本来ならこれはトワイライトの、本物のヒロインのために用意されたイベントだから、攻略キャラ達が彼女に興味を示しても何の不思議はない。だが、忘れないで欲しいのは今日はリースの誕生日と言うこと。そのためにここまで来たんだろうに、本来の目的を忘れているのではないかと。まあ、彼らにとってリースの誕生日はおまけなのかも知れない。貴族として参加しているだけで、まだ子供だしそこまで政治とかには興味ないのだろう。あったとしても、彼らが次期皇帝になるリースに媚びを売るとは考えられない。
(まあ、媚びうったとしても、そう言うのリース……遥輝は嫌うんだけどね)
遥輝の性格を考えたら、あの双子は天敵というか苦手な部類に入るだろう。まあ、攻略キャラ達が関わるとろくな事がないのでそんな場面を見てしまったとしても私は何も言えないし、逃げようと思った。
「ああ、あの、聖女様」
と、双子を追いかけていったと思い込んでいたが声をかけられ視線を戻せば、ヒカリが私の方を見つめており、何かを言いたそうに口をもごもごと動かしていた。何か言いたいのだろうかと首を傾げれば、ヒカリは勢いよく頭を下げた。
「え、え、え、な、何?」
「こ、これからも、ルクス様とルフレ様と仲良くしてあげてください! お願いします!」
そう、ヒカリは叫ぶように口にした。
彼女の言葉に私はびっくりして言葉を失ったが、さらに彼女は深々と礼をした。そして、顔を上げるとすぐにあの双子の後を追って走り出した。また、髪の毛が乱れる……何て思いつつ、何だか私みたいだなあとも思って、重なる部分が多々ありヒカリを眺めていると、リュシオルに肩を叩かれた。
「エトワール様みたね」
「え、あ、うん……似てるなあと思って」
「でも、エトワール様はもうちょっと落ち着きがな言って言うか、ほんとハムスターみたいに、思い出したかのようにちょこちょこ動き出すから」
「何それ!? 悪口!?」
と、リュシオルの言葉にツッコミを入れると、彼はくすっと笑みをこぼした。その表情は本当に穏やかで、彼女もまた昔を懐かしんでいるようだった。昔というか、前世の私のやらかしを思い出して笑っているだけかも知れないけれど。
そんなリュシオルを見つつ、私もそろそろ会場へ向かおうとリュシオルとアルバをつれて階段を上った。眩しいほどの光が階段の上から漏れていて、もうすっかり夜なのに目が眩むほど輝かしかった。
(久しぶりに来るな……皇宮。といっても、全部まわっていたわけじゃないし、パーティーとか久しぶりで……)
また人酔いするのでは? と怯えつつも、リースの誕生日はちゃんと祝おうと私は腹をくくった。
(だって、推しの誕生日。盛大に祝いたいじゃん――――!)
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