コメント
2件
めっちゃキュンキュンしました!!🥰 少し、強引な湊さんも、かっこいい!!
今からすぐ追えば、まだ間に合うだろうか。
確実にあいつには嫌われてしまっただろう。
出会った時から、あいつには酷いことばかりしている。
素直に謝るのが一番だ。
俺は携帯を手に取り、あいつに電話をかけた。
<ブーブーブー>
すぐ近くで、スマホが鳴る音がした。
「あいつ、スマホ持って行ってないのか?」
スマホが置いてあったキッチン前のテーブルを見ると、いつもの倍の手料理が並んでいた。
「しかも俺の好きなものばかり……」
おもむろに冷蔵庫の中身を見る。
「バカ……。あいつ……」
そこには、メッセージ入りのホールケーキが入っていた。
<祝!新曲おめでとう>
「デザートがないなんて嘘じゃねーか!」
チッと舌打ちをして上着を取り、勢いよくドアを開け、あいつを追った。
「私は……。何をやっているんだろう……」
デザートを買いに行くと嘘をついて出かけてきたが、お金も持たず、携帯も忘れてしまった。かと言って、すぐマンションには帰りたくはなかった。
私が今いるのは、近所の公園だった。
ブランコに座りながら、空を見る。
「やばい、もうすぐ雨が降ってきそう」
そうは思っても、その場から離れられない。
今日は、帰りたくない。
成瀬書店に行こうか、そう思ったがここからは距離がある。
涙が零れた。
甘えているだけという現実を受け止める。
彼にそう思われていたのが、悔しい。
ご飯は頑張っていたつもりなんだけど、努力が足りなかったかな。
もう、彼のマンションには住めない気がした。
でもどこにも行くところがない。
私には誰もいない。
涙を拭いていたら、雨が降ってきた。
ちょうど良い、これで泣いていることがわからない。
雨があたらないところへ移動する、そんなことも面倒だと感じていた時ーー。
「花音!」
「えっ?」
私の知っている声、初めて名前を呼ばれた。
「湊さん?」
ブランコから立ち上がる。
「何やってんだよ!雨降ってる。風邪引くから帰って来い」
彼は私の手を引っ張り、連れて行こうとした。
「嫌です!もうあそこには住めません。湊さんの言う通りです。私は甘えてばかりいて……」
ごめんなさいと呟いた。
彼は、くるっと私の方を向いた。
そして、私を抱きしめた。
「湊さん?変装してないですよ?」
「別にいい。お前が帰って来てくれるのであれば。悪かった。新曲のことでイライラしてて、ついお前にあたった。お前なら、何でも許してくれると思って。甘えているのは、俺の方だから。帰ろう?」
私は彼の胸の中で素直に頷いてしまって。
二人でびしょ濡れになりながらも、手を繋いで彼のマンションへ帰った。
「先に、風呂入ってきて?風邪引くから?」
「私は風邪を引いても、特に迷惑かかりませんけど、湊さんが風邪を引いたら大変です。先に入って来てください」
二人とも洋服は、ずぶ濡れ。
衣類から床に水滴が滴るほどだった。
とりあえず、部屋を汚さないために浴室に来たが、どちらも引かない。
「私はただの家政婦です。ご主人様が入るのが先なんです」
「そのご主人様の命令に従わないのは、どうかと思うけどな」
睨み合ったまま、何も進まない。
寒いと思い、私が両腕をさすったのを彼は見逃さなかった。
「寒いんだろ?入れよ?」
「ダメです!湊さんが入るんです」
彼はチッと舌打ちをした。
「言うことを聞かないのなら、キスするからな?」
「えっ?そんな冗談、本気にするわけ……」
「ん……」
湊さんにキスをされた。
腰と頭を支えられて、抵抗ができない。
どうしよう、でも、不思議と嫌じゃなかった。
「ん……!んん……」
最初にされたキスより遥かに長い。
「風呂、入るか?」
「……っは……入りません」
「そうかよ」
再びキスをされる。
今度は、彼の舌が私の口の中に入って来た。
「はぁ……ん……!ん……あ」
彼の舌が温かくて気持ち良い。
でも、そんなこと言えるわけない。
「……はぁ。花音の舌、温かくて気持ち良いな……」
こんな時に名前を呼ぶなんて反則だ。
そして湊さんも気持ち良いと思ってくれているんだ。
「ごめんなさい……ん……わかりました……入ります」
これ以上は身体が持たない。
「ん……。わかった」
腰が抜けそうなのを耐える。
「お前が入っている間に、着替えてくるからゆっくり入れよ」
そう言って、彼は浴室から出て行った。
ゆっくり入れと言われても、そんなわけにはいかない。私は急いでシャワーを浴びた。
「湊さん、すみません。早く入ってください!」
リビングにいる湊さんに声をかけた。
「お前、ゆっくり入れって言っただろ?髪の毛だって乾かしてねーじゃん」
「早く、早く、風邪引いちゃう」
湊さんの手を引っ張ると冷たかった。
「あっ、手がこんなに冷たい。すみません」
「なんで?」
私の手を握って彼が呟いた。
「どうしてあんなに酷いこと言ったのに、優しくできんの?お前、全然悪くないんだぞ。俺が機嫌が悪いからって八つ当たりされて……。さっきだって無理やりキスされて……。俺のこと、嫌いじゃないのか?」
まるで子どもが悪さをした後、謝ってくるかのように彼は弱気になっているように見えた。
「なんでですか?嫌いになるわけないじゃないですか?湊さんの良いところいっぱい知っているし。さっきはちょっとびっくりしちゃっただけです。言われたことは本当だから……。甘えて……」
彼は私を抱きしめて、言葉を遮る。
「お前が努力しているのは、一番知っている。古本屋のアルバイトも。一人で歌の練習しているところも。わざわざ安いスーパーで買い物してきてくれるところも、俺の身体を考えてバランスの良いメニュー表を作っていることも……」
なんで知っているんだろう。
メニュー表とか、机の上に置きっぱなしにしてたのかな。
「ありがとう」
湊さんらしくない、小さな声で感謝を伝えられた。そして、私をギュッと抱きしめた。
「やめてくださいよ。湊さんらしくないですよ?こんなに身体も冷えているし」
彼の身体を抱きしめ返すと、冷たかった。
「お前が温かいんだよ。なあ、さっきのキスも怒ってる?嫌だった?」
どうしよう、嫌じゃなかったと正直に言うべきだろうか。
「初めて会った時のキスは嫌でした。でも、さっきのキスは嫌じゃありませんでした」
「そっか。なら良かった」
彼は、私を離した。
「シャワーを浴びてくる。そしたら、夕飯を食べたい。楽しみにしている」
机の上を見てくれたのだろうか。
「はい、わかりました」
湊さんが出てくる前に、頭を乾かした。
そして、冷めてしまった夕ご飯を再び温め直す。
湊さんがシャワーから戻ってきた。
「身体は温まった!腹減ったぁ」
良かった、いつもの彼だ。
二人で手を合わせて「いただきます」をした。
「美味い!てか、これ全部一人で作ったのかよ?俺の好きなものばっかりだな」
「今日は、アルバイトがお休みだったから時間があったんです。それに、今日新曲の発売日だし。少しでもお祝いしたくて」
「ありがとう。あー、美味い!」
美味しそうに食べてくれる湊さん、安心した。
食後にケーキをホールのまま出した。
「誕生日みたいだな。これも作ったの?」
「はい」
「すごいな、このまま食べたいけど、勿体ないから切って。残ったら、明日の朝食べるから」
朝からケーキ?とは思ったが、食べやすい大きさに切り分ける。
「美味いー。やっぱり疲れてる時は甘い物だよな」
私もワンカットいただいたが、我ながら上手に出来たと思っている。
湊さんと目が合った。彼は優しく微笑んでくれた。