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「マジ!?」
「マジ。自分の胸に期待なんてしてなかったから、本当にびっくりした。寄せて集めるって凄いね」
「だから言ったじゃん~。恵はポテンシャルが高いんだよ。私、何回も『下着屋さんで測ってもらったら?』って言ったじゃん。なのに『間に合ってます』って訪問セールスされたみたいに、頑なに断るもんだから……」
「女子力高め朱里さんの言う事は、正しかった……」
「……なんかそのいい方、ラーメン大好き小山さんみたいだね」
ボソッと突っ込むと、恵は「バレたか」と笑う。
「……あのさ……。別に無理に胸を大きくしたいとかじゃないけど、なんか気をつけてる事ある?」
モソモソと言いにくそうに尋ねられ、私は体を洗いつつニヤァ……と笑う。
恵が女子力を上げる事に興味を持つって珍しいので、可能な限り援護したい。
「んーとね、牛乳飲んでる。それと、胸を支えるクーパー靱帯とか周りの筋肉って、結局は首肩とか背中、肩甲骨に繋がっていくから、凝らないように気をつけてるかな。何かあったら首や肩を回すとか。あと、よく寝る。そして血流が大事なので、寝る時のおぱんつは、あんまり締め付けない物にしてる」
「ナイトブラは?」
「したりしなかったり。血流の問題で言えば、しないほうがいいのかな。締め付け感があるから、ノーストレスで寝るにはないほうがいいのかも……。でも形を崩さないために推奨する派もいるから、つけたりつけなかったり」
「なるほど」
「あと、普段つける下着はちょっとお高めの、自分の形に合った物をつけてたほうがいいかな。育乳ブラとかマッサージとか、クリームとかはそれほど重要じゃなくて、胸に正しい位置を覚えさせるのが大切」
「教育か」
「んだ。あとはなるべくストレスを抱えない、豆乳、キャベツ、鶏肉とかじゃなくて、バランスのいい食事をする。姿勢に気をつける。マッサージは正しい位置を教える……の、補助ぐらいかな」
「へー……。それで、そのぱいか」
「尊さんも大好きアカリンパイですよ」
「わあ、生々しい……」
恵はいつものように、忖度のない意見を言ったあと、湯船の中で体育座りをして言う。
「涼さんは胸の大きい、小さいは特に気にしないって言ってたけど、やっぱり多少は揉み応えがあるほうがいいよね」
「人それぞれだと思うけど、恵が涼さんのために大きくしたいって思うなら、色々気をつけてみてもいいんじゃない? 血流を良くするとか、バランス良く食べるとか、姿勢に気をつける、凝らないようにするって、胸のためだけじゃないし、色んな意味でいい結果が出ると思う」
「……だね。健康でいるって、一番相手のためになる事かも」
「わぁ、それ真理だ。私、食べ過ぎないように気をつけよう」
「朱里はマジそれな。よく食べるのはいい事だし、太らない体質なのは羨ましいけど、血液検査とかマメにしたほうがいいよ」
「ウッ……」
私は泡まみれになった手で胸を押さえる。
そのあと体を流してトリートメントも流し、洗顔を終えたあとにフェイスパックをして恵と交代した。
「涼さんとやってけそう? 私も最初、尊さんと暮らし始めた頃は、周りの物がみんな高級品で、食べる物もとても美味しくて、服もブランド物を買い与えてくれるし、自分の感覚がバグっちゃいそうで怖かった」
「あー、凄い分かる。好意でやってくれてるの分かるし、スマートに受け取るほうがいいって分かってるけど、なんか居心地悪いよね。卑屈になりたくないのに『私はこんな事をしてもらう価値はない』って思っちゃう」
「だよねぇ……。仕事頑張ってるとか、忙しいなか自分磨きも忘れないとか、ストレスに晒されるなかで頑張ってる! 偉い! とか自分では思うけど、キャパを超えるご褒美をもらうと、混乱して分からなくなる」
シャンプーを終えた恵はトリートメントをつけ、溜め息をついた。
「欲望って果てしないよね。こんな贅沢、慣れたくないけど、いつか慣れてしまうかもしれない。そうしたら、涼さんに高価な物をおねだりする女になる可能性もある。そう思うとゾッとするよ」
「分かる。……でも、たまに他の友達とか家族に会って、自分の感覚がズレてないか確認するのもいいかもね。家族なら忌憚なく意見を言ってくれるし、良くないと思ったら指摘してくれると思う」
「だね。親も一人の人間で、大人になった今、親のすべてを無条件に好きかと言われたら分からないけど、自分が割とまともな感覚で育ったのは、親の教えがあっての事だと思う。その辺は感謝してる」
「私たちも、中立な立場で意見を言える親友でいようね」
「ん」
私と恵は微笑み合い、ニカッと笑う。