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追憶


幼い頃から、他人の未来が視えていた。

視ようと思って視えるのではなく、その時一緒にいる相手はそこにいるのに、突然、その相手の別の場面の映像が頭の中に流れてきていたような感じだ。

奇妙なことに、自分の行く先は視えなかった。そしてそれは痛みの緩和や自己治癒力を高める力も同じで自身には効かなかった。


私の、他人にはない特別な力は、曾祖母も似たようなものを持っていたらしい。私より強くはなかったようだけれど。


未来が視えるのはいつも突然で気まぐれだったから、私が日常的に使うのは痛みの緩和と治癒の能力だった。


神職の家系に生まれたので、生まれ持った力とはまた別で様々な修行を積んだ。

降霊、占い、祓魔、浄化。

この世には、“目に見えないモノ”があり、それを信じる人と信じない人に分かれる。

人によっては気味悪がられるような自身の力は、幸い、生まれた環境がよかった為に嫌悪されることが少なかった。




痛みや苦しみを取り去ってあげると、目の前の人はとても穏やかな表情になる。

そして、“視えた”ものがあったら、望まれれば伝え、もしそれが良くない未来の場合、それを回避するにはどうしたらいいか、事態を好転させるには何をすべきか考えてもらう。

未来はちょっとしたことで変わるから。

……どうしても変えられない未来もあるけれど。



誰かに感謝してもらうのが、とてもとても嬉しくて。能力を使ったからといって自身の体調には何も影響がなかったので私は惜しみなく力を使った。

目の前の相手が笑顔になってくれるのが私にとって最高の幸せだったから。




私が修行の為、数日自宅を離れる期間があった。

その少し前に突然“視えた”家族の未来。

血に塗れた大事な人たち。“何”が家族を惨い姿にするのか、そこまでは分からなかったけれど、そんな未来、受け入れて堪るものかと様々な手を尽くした。

“視えた”内容を伝え、充分に注意してもらう。父にも、母にも、叔父や伯母や祖父母にも、家の敷地に結界を張ってもらい、私の力もそこに加える。

これで少しは視えた未来を変えられるかもしれないと一縷の望みをかけて、私は修行へ旅立った。


そして、自宅から遠く離れた土地で、私は“鬼”というものの存在を知ることになる。

人を殺し、喰らい、強くなっていく鬼。それを倒すには日の光と“日輪刀”という武器しか効果がないらしい。

そんな化け物が存在するのか、にわかには信じられなかったけれど、真剣に話してくれた相手の表情を見ると、それを否定することもできなかった。


修行を終えて大急ぎで戻ると、そこには数日前頭に流れてきた映像とそっくりそのままの光景が広がっており、大好きな家族は既に冷たくなっていた。

物の怪や悪霊などの人ならざるものには効く結界をものともせず、家族を襲ったのは鬼だったのだ。

ああ、なんて惨いことを……!

血の飛び散った床や壁、祭壇。恐怖と苦悶の表情のままこと切れた最愛の家族。

修行なんて行かなければよかった。今回行けなくたってまた3年後に同じ内容の修行ができたのに。

自分がその場にいても何もできなかったかもしれないけれど、独り取り残されることなく家族と一緒に逝けたかもしれないのに。


私はその場に膝をつき、後悔と自責の念に駆られて泣き崩れた。


そこにやって来た、“鬼殺隊”の大きな身体の男の人。

到着が一足遅かった為に、私の家族が命を落としたことを涙を流して悔やんでいた。


その人は数珠や“南無阿弥陀仏”と書かれた羽織を身につけていたので僧侶の方だと分かった。

遺体が腐敗してしまう前に、早く弔ってやらねばと言う彼と共に家族の供養をおこなった。

仏教と神道。宗教は異なるけれど、そんなことはどうでもいい。見ず知らずの、初対面の私や家族の為に泣いてくれて、一緒に家族を弔ってくれて、それがとても嬉しかった。


悲鳴嶼さんに頼み込んで、家族の仇を討つために鬼殺隊に連れて行ってもらった。

彼は私に、鬼殺とは無縁なところで普通の幸せを手に入れてほしいと言ってくれたけれど、家族をこんな目に遭わせた鬼を許せないからと引かなかった。

それに、自分のような悲しい思いを他の人たちにさせたくなかった。名前も顔も知らない、会ったこともない人たちの笑顔や幸せを守りたいと思ったの。




最終選別を突破し、私は鬼殺隊に入隊した。呼吸は風と水から派生し、 自身の生家である宮景家に伝わる舞の型を織り交ぜた、私だけの“雪の呼吸”。


ただひたすらに鬼を狩る日々。

家族が殺されて以来、両親や祖父母が担ってきていた宮景家の仕事も引き受けて、鬼殺の任務と並行する。

そして噂は広まり、私は生まれ持った力を鬼殺隊の中でも使うようになった。

傷つき苦しむ仲間を幾度となく癒やして、「楽になりました」「ありがとうございます」と笑ってくれる相手を見るととても嬉しかった。それと同時に私も心が救われていた。




階級が上がり、鬼も50体以上倒し、私は鬼殺隊の“雪柱”に就任した。

柱の仲間もとても良くしてくれて。お館様も私の力を「神様に特別愛された力だよ」と言ってくださった。

一族から鬼が出てしまったせいで、その呪いで産屋敷家は皆若くして命を終えてしまう。耀哉様も例に漏れず、病にその身を蝕まれていた。私にできるのは、その病による苦しみを少しでも取り除いて、耀哉様自身の治癒能力を底上げして差し上げることだった。




柱になったところで、することはそれまでとは変わらない。ただちょっと、任務が増えるだけ。強い鬼と対峙する機会が増えるだけ。



時々視える。鬼殺隊の行く先が。多くの犠牲を払うけれど、鬼の始祖を倒す未来が。


大好きな柱の仲間たちも、壮絶な最期を迎える人が何人もいる。

花柱のカナエさんと炎柱の煉獄さんは、上弦の鬼と戦って命を落とす。

音柱の宇随さんは上弦の鬼との戦いで目や腕を損傷して柱を引退。

カナエさんの妹のしのぶちゃんは後に蟲柱になって、姉の仇を討って死んでしまう。

蛇柱の伊黒さんと恋柱の蜜璃ちゃん、岩柱の悲鳴嶼さんは無惨との最終決戦の後命尽きてしまう。

風柱の不死川さんと水柱の冨岡さんは無惨との戦いの後も生き延びてくれる。

お館様とあまね様、ひなき様とにちか様は鬼舞辻無惨を倒す為、お屋敷をご自身もろとも爆薬で吹き飛ばしその生涯を終えられる。鬼殺隊のみんなが必ず無惨を倒すと信じて。

でもわざわざその未来を言うことはしない。それを伝えたところで、みんなの決意が揺らぐことはないと分かっているから。きっとそれぞれの思いを胸に、自らの命を捧げてでも鬼を倒すという覚悟を持っているから。


だから私が伝えるのは、“必ず上弦の鬼も、鬼の始祖も倒せる”ということのみ。それだけは確実な未来だから。





そして、後に“霞柱”となる、時透無一郎くん。

鬼に襲われ目の前でお兄さんを亡くし、記憶に蓋をしてしまった彼。

あまね様に保護され産屋敷邸に連れて来られた彼は、本当に“あと一歩遅かったら助からなかった”という状態だった。


こんなに幼いのに、こんなにつらい経験を強いるなんて。神様も残酷だ。

しのぶちゃんに頼まれて、私も一緒に彼を診に行き、力を使う。

怪我のせいで高熱が続き、意識も混濁していたし、 目を覚ましても全身の痛みに苦しめられる無一郎くん。

どうにかしてあげたい。

その一心で私は力を使った。


身体中に負った傷の化膿が酷い彼にも、痛みの緩和の力はちゃんと効いてくれた。苦しんで涙を流す彼が、穏やかな表情になるのを見ると心の底から安心した。


記憶を失くしても鬼への怒りは身体が覚えているようで、少し動けるようになった途端、無一郎くんはまだ傷も癒えぬまま、我武者羅に鍛錬に取り組み始めた。


無理しないで…そんな呑気な言葉は掛けられなかった。

ひたすら身体を動かしていなきゃ、鬼を倒していなければ、自分が保てないから。分かるよ。私自身もそうだったから。それに無一郎くんは記憶を保持できない分、不安も焦燥も人よりもたくさん感じているよね。


私はできる限り、無一郎くんに稽古をつける。

まだ怪我も完治していないのに鍛錬を繰り返す彼。

余裕のない彼が、膝をついて泣き出してしまうことも多々あった。それを見る度に胸が苦しくなって、私は泣きじゃくる無一郎くんをぎゅっと抱き締めた。

私が支えてあげたい。彼がつらくて堪らなくなったら、任務を放っぽり出してでもこの子の傍にいてあげたい。そう強く思った。


無一郎くんは記憶を保っていられない筈なのに、私のことは覚えていてくれたみたいで、私を慕ってくれて。それが嬉しくて純粋に彼のことが可愛かった。

私はひとり娘だったから。弟がいたらこんな感じだったのかなと思った。






身体に違和感を感じたのはいつだっただろう。それも覚えていないくらい、私は自分の身体を放置していた。

医者に診せれば即入院になるかもしれないし、そしたら苦しんでいる人の痛みを取ってあげることもできなくなるかもしれないと思ったから。



稽古中に倒れて、無一郎くんに抱きかかえられ蝶屋敷に連れて行かれた。

無一郎くん、ごめんね。びっくりしたよね。

しのぶちゃんや他のお医者さんにも診察されて判明した、私の病気。


食欲不振、お腹や背中の鈍い痛み、ちゃんと普段通りの量を食べているにも関わらず落ちていく体重。

今思い返せば当てはまる、膵臓癌の症状。

その時には既に、癌は全身に転移していて治療の施しようがない状態だった。


私が幼い頃亡くなった曾祖父も、あの日まだ生きていた祖母も同じ病を患っていた。


余命宣告を受けた。あと半月も生きられないだろうと。

放置していた自分が悪いけれど、それほど自らに残された時間が短いなんて。


でもがっかりしている暇はない。私には私にできることをするまで。

お館様や柱のみんなには病気や余命のことを伝えた。

そして、お館様の口から無一郎くんにも私のことを話してくださったみたいだ。





しのぶちゃんが蝶屋敷で私を看たいと言ってくれたのでお言葉に甘えることにした。

他の隊士が療養する部屋とは別の、広くて静かなお部屋を用意してもらい、そこでお世話になる。

しのぶちゃん、ごめんね。面倒をかけて。


体調がいい日は舞のお稽古をしたり、お守りを奉製したり。

痛みがある時はモルヒネを打ってもらい、痛みが和らいだところで作業を進める。


“雪柱が体調を崩した”という話があっと言う間に隊内に広まり、毎日かわるがわる、誰かしらがお見舞いに来てくれた。


「あの時は痛みを取ってくれてありがとうございました」

「宮景さんに救われました」

「早く元気になってくださいね」


みんな笑顔でそんな言葉を掛けてくれた。

よかった。私はみんなの役に立てていたのね。


柱のみんなも面会に来てくれた。お館様も、無一郎くんも。


私に残された時間は、もう少ない。自分の未来は視えないのにそれが分かるのは、自分以外の人たちが私の死を悼み、涙を零す映像が頭の中に流れてくるから。それが日を追うごとに高い頻度で起こるから。そして、身体がボロボロなのも何となく感じているから。




お館様と、しのぶちゃんに頼み込んで、私は鬼殺隊の為に祈りの舞を舞うことになった。

限界量のモルヒネを投与してもらい痛みを取り去ったところで、着替え、化粧をして、舞の準備を行う。


蝶屋敷の庭と面したお座敷に、お館様とご家族、柱のみんなを含めるたくさんの隊士が集まってくれた。


私が舞い始めると、不思議と雲がさーっと流れ、大きな満月が顔を出した。

この時の為に、天さえも私の味方をしてくれているように感じて気分がよかった。


月明かりに照らされた蝶屋敷の庭のお花や草木。

お池の水に映し出された金色の満月。

きらきらと光り輝く水面。

どこからか聞こえてくる、梟の声。


ああ、世界はこんなにも美しい。

この美しく優しい世界を、ずっと守っていきたい。

鬼を倒して。平和な世界を作って。

もう二度と、誰かが理不尽に命を奪われたり幸せを脅かされることがない世界を。


舞を舞っている間は、身体のつらさなんて少しも感じなかった。

まだいける。まだ舞える。


本来ならば3分程で終わる舞の型を10分程繰り返し舞い続け、それが終わると私は見ていてくれた人たちにお礼を述べて、自室に戻った。



その翌日。柱のみんなが会いに来てくれた。それぞれ握手してくれたり、抱き締めてくれたり、楽器を弾いてくれたり、美味しい羊羹を差し入れてくれたり。嬉しかった。


その翌日は決められた時間と人数で、隊士のみんなが面会に来てくれた。彼らは私の病気の詳細や余命のことなんて知らないから、みんな屈託のない笑顔で「早く元気になってください」とか「またお話しましょうね」とか「また舞を見たいです」なんて言葉を掛けてくれる。ごめんなさい。あなたたちに何も告げずに旅立つこと、どうか許してね。


その晩、無一郎くんが任務の終わりに来てくれた。

しのぶちゃんは彼の面会を断ろうと思ったものの、私の明日が来る保障がないからと承諾してあげたらしい。

泣き出してしまった無一郎くんを、小さな子どもをあやすように抱き締めて頭を撫で、背中を軽く叩く。

彼が後に“霞柱”になる未来が視えていた私は、他の柱のみんなにも作ったお守りを手渡す。そして、自分の家族に受け継がれたラピスラズリの勾玉も。

できることなら、ずっと私が彼の傍にいてあげたい。でもそれは叶わない。私はもうすぐ命を終えてしまうから。

無一郎くん、大丈夫よ。あなたはちゃんと記憶を取り戻せるから。

私が死んでしまっても、あなたには仲間がついているから。

実体がなくなっても、私はあなたの傍で見守っているからね。



その次の日、無一郎くんは急な任務が入り、蝶屋敷を後にした。

ふと、これが最後かもしれないと思った私は、部屋を出て行こうとする彼に声を掛けて引き止めた。

『無一郎くん、気をつけて行ってらっしゃい。しっかりね』

私がいなくても、どうかしっかり生きて。

あなたにたくさんの幸せが訪れますように。



彼を見送った後、私は体調が急変して倒れてしまった。

しのぶちゃんからの連絡に、柱の4人が私を看取りに来てくれた。

みんな、ありがとう。

大好きな仲間に見守られて、私は静かに目を閉じた。




鬼舞辻無惨、見てなさい。

私はその場にいられなくても、私の仲間たちが絶対にお前を倒すから。

きっと、鬼のいない平和な世界を作ってくれるんだから。




心残りはたくさんあるけれど、私にできることは全てやってきたつもり。

鬼殺隊はこの代で、必ず鬼の始祖を倒す。

犠牲を出さずに、なんてことは無理だけれど、みんなが力を合わせて鬼舞辻無惨を倒してくれる。

どうか頑張って。私の分まで。


大好きな、大切な、鬼殺隊の仲間たちへ。愛と祈りを込めて。







おわり





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