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私はこの春、第一志願の美大に合格し、都会への不安と期待を胸に田舎から上京した。
私の毎日のルーティーンはこうだ。
朝起きて新聞配達の仕事をし、それが済むと大学へ行き講義を受けて、また夕刊を配り、そしてやっと寮へ帰ってシャワーを浴び、その日初めてにして最後の食事をとって、眠る。
何かおかしくないだろうか。
そう、絵を描いていないのだ。
家に帰ってから絵を描く時間は全くない。そのために、SNSのフォロワーはゴリゴリと減って行った。
高校の頃に美大に受かった事を第一に祝ってくれたフォロワーですら、私がこんな毎日を送るようになって授業以外で絵を描かなくなってからは疎遠だし、フォローも外されてしまった。
上っ面かもしれないが、私はそういうのを気にする。
正直、かなり気にする。
絵を描くのだって単なる趣味かもしれない。
しかし、絵を描くと得られる少しの賞賛。上手だねの一言だけでご飯が幾ら食べられるようなあの感覚…創作に触れている人ならば多少は分かるのではないだろうか。
私はそれにどっぷりハマっていたのだ。
減っていくフォロワー。
離れていく友人。
唯一見捨てないでいてくれるのは親なのだが、絵の価値が分からない奴らからの安い褒め言葉は別に求めていない。
高く買って欲しいのだ。
それ以外に何があるだろうか。
もっと絵が描きたい。今日はその為の、第一歩となる日だ。
「本日付で、辞めさせていただきます。給料は給料日に振り込んでください。」
勤務先の店長にこれを伝え、引き止める声に目もくれずに、有無を言わさず私はその場を後にした。
やった、やったぞ。
私はやった。
これで思う存分絵が描ける。
あの賞賛の声をまた聞けるんだ…!
私は期待に胸を膨らませ、久々に課題のこと以外でパソコンの電源を立ち上げた。
使い古したお気に入りのペンタブレットを握り、イラスト描画ソフトを立ち上げ、溢れ出るイマジネーション…それをこのタブラ・ラサに削り入れるかのように、ゴリゴリとペンを走らせる。筆圧は強めに。
眠らずにそれを仕上げた。
所謂、一日クオリティの絵だ。いい絵では無いかもしれないが、私の絵を待ってくれている人には申し分ないだろう。
SNSを開き、出来上がった絵を貼り付け、いざ送信!
さあ、みんなどんな反応をしてくれるのか…!
そんなことを考えたら布団に入ってももう眠れなかった…。