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「……さっきは、ごめんね」
声の質が変わった。
さっきまでの湿り気が、
きれいに拭き取られたみたいに。
「驚かせるつもりはなかったんだ。
大人っぽかったからさ」
――あ、これ。
営業用の“優しさ”。
わたしは、少し拍子抜けする。
逆上するか、キレるか、逃げるか。
そのどれかだと思ってた。
「切り替え、早いですね」
「仕事柄ね。
人の空気、読むの得意なんだ」
距離は一歩分きちんと空けたまま。
表情も崩さない。
……さすが、No.1。
でも。
「ねえ」
わたしは首を傾げた。
「おっさんってきっついからさ。
ジュンって呼んでくれる?」
一瞬。
男の眉が、ほんの少しだけ動く。
「……ジュン、ね。いいよ」
柔らかい笑顔。
なのに、言葉の端に引っかかりが残る。
「でもさ。
“おっさん”は、正直ちょっと刺さったかな」
言い方は穏やか。
でも、話の軸がすり替わった。
わたしはスマホを持ち上げる。
画面はまだ暗い。
「今の、要注意ポイント」
「え?」
「“ごめん”って言いながら、
いつの間にか“傷ついたのは自分”の話にしてる」
ジュンの瞬きが、一拍遅れる。
「それ、よくある。
優しい声で主導権を取り戻すやつ」
街の音が戻ってくる。
ネオンが、やけに眩しい。
「わたし、配信者なの。
恋愛で迷子になる子、毎晩見てる」
一歩、前へ。
「“大人っぽかったから”は理由にならない。
判断を相手に預けた瞬間、アウト」
沈黙。
「……君、何者?」
わたしはスマホを点ける。
赤い●RECが灯る。
「恋愛教祖。
――次はね、逃げ道を塞ぐ褒め方、教える」
画面の向こうで、数字が跳ね上がった。