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20 プレイ。
「さすが、日本語好きなだけあるな。」
先生が、ちらっと私の目を見て言った。
あの質問の答えを今でも覚えてくれてるんだ…
と思っただけで、胸が苦しくなるから慌てて
「でもこの本、売れてるんですよね!」
ってまた、笑って誤魔化して持っていた本を本棚に並べた。
「ま、オレとしては生徒には教えたくない本だけどね。」
『 ふふっ、ディスりますね』
「ふふっ、お前だって」
好きなものが同じだと、共通点できた!って嬉しくなるのに、
苦手なものが同じだと共犯者みたいになるのはどうしてだろうか。
でも、垂直に嬉しくて口角が緩む。
「オレ、雑食的に読むけど正しく日本語使われてるのしか読まねぇし。」
『 そこが1番大事ですよね。』
「綺麗だったら絵本でもなんでも読むよ。作文なんかもいいんだよなぁ。」
『 先生、漢字中毒ですか?』
「ふはっ、深澤には漢字オタクって言われてたけどね。自分だって数学オタクな癖にな。」
先生はそう言って文庫本コーナーの方に進んで行った。
そういえば、先生は好きな作家の新作が出ても買わないことに気がついた。
先生が買うのは決まって文庫本。
家から持ってくるのも、文庫本。
今日もお会計の時に文庫本を買ってたから聞いてみた。
『 先生、なんでいつも文庫本なんですか?』
「ん?あー、文庫本ね」
「だって、デカいじゃん」
え、?笑
そんな理由なんだ、もっとちゃんとしたのあるかと思った
『 でも、読みたくなりませんか?新作』
「まぁねー。でもそれは」
『 はい?』
本を受け取り、動き出そうとした時
「焦らしプレイってやつよ」
クスッと笑いながら言い捨て、そのままカフェの方へ行ってしまった。
好きな人の口から、「プレイ」なんて言葉が出ただけで腰が抜けそう、、
・
でも現実は「プレイ」とか言われた所で、私はそんなコトどころか、キスだってした事ない。
男の人と付き合ったことだって、ない。
だって、私は15歳で先生と目が合ってしまった時から、他の男の人なんて目にならないんだから。
だけど、本来の意味である「遊び」だった言葉が妙に、色っぽく聞こえてしまうのは、
絶対に、先生のせいだ。
先生の、あの目が悪いんだ。
『 …無駄に色っぽいから、悪いんだ…』
カフェで店長と笑いながら話している先生を本屋のレジから眺めて呟く。
「何が色っぽいの?」
『 うわっ!』
「そんなビビらないでよ、ふふっ」
振り返るとここ数日、お休みだった手塚さんがいた。
『 …久しぶりですね』
「久しぶりだね。ねぇ何が色っぽいの」
『 えっ!?あっー、あの雑誌の表紙?!色っぽくないですか!?』
レジから見えるところに置いてある雑誌コーナーにあった写真集の表紙を指さしたら、
「あー、確かにね」
って納得したように頷いてくれた。
ホッと落ち着いてレジから出ると、カフェを見ていた手塚さんが「あ」って声を出した。
「○○ちゃんの先生だ」
ドキッとした。
べつに、私の先生って訳でもないけど。
「そっかぁー、今日って日曜か」
そんな私の事なんて気にせず、手塚さんは話しだした。
「土日も出勤してると、曜日の感覚無くなるよねー」
『 あー…』
「あれ?そうでもない?」
『 あっ、ううん!そうですね』
『 って、手塚さん昨日いませんでしたよね!?』
「あ、バレた?ふふっ」
って本当はそんなわけない。
だって、日曜日は先生が来るからいつも楽しみなんだもん。
だから、
月曜日は退屈だし、
火曜日はまだかー、ってなるし、
水曜日は3日しか経ってないって呆然とする、
木曜日は折り返し!ってちょっと嬉しくなる
金曜日はあと少しって浮かれてて、
土曜日は口元がニヤけてしまう
私は月曜日から、毎日毎日、先生のことを待ってる。早く日曜日にならないかーって
まぁ、先生が来たからっていい事ある訳じゃないけど。