その夜──、彼の部屋を訪れた私は、今日のことを声を弾ませて話した。
「企画を任されたことが、とってもうれしくて。気張ってプランを立てようかなって」
「それは、よかったな」
温かな手の平が頭にふっと乗せられて、「えへへ……」と頬を緩ませる。
「その香水、実は……、」と、続きを言いかけ、ハッとして口をつぐんだ。
「うん? その香水がどうかしたのか?」
不思議そうに首を傾げる彼に、
「……後は、秘密です」
と、唇に人差し指を当てて見せた。
「秘密なのか? それは残念だな」
彼がフッと優しげに微笑んで、唇に当てがった私の指をそっと手に取った。
(だってあなたをイメージして香りを作るだなんて、やっぱりちょっと照れくさいもの……)
そう思い、少しばかり伏し目がちになっていると、
不意打ちで、握られた指先にチュッと口づけられて、肩が小さく跳ねた。
「貴仁さん……」
名前を呼びかけて、睫毛の陰で揺らぐ眼差しをじっと見つめる。
「秘密にされたので、キスで仕返しだ」
彼が本当にはそんな風に思っていない明かしに、口元には緩やかな笑みがたたえられていた。
「や…ん、だめ」
わかっていながら、キスを拒むように顔をうつむけて反発をしてみる私に、
「だめ? 本当にか?」
顔を上げるよう頬に添えた手で、彼が追い打ちをかけてくる。
貴仁さんだってきっとわかっているのに違いなくてと思いながら、「ううん……」と、うつむきがちに首を横に振る。
「……。こないだの”約束の証”を、憶えているだろうか?」
わずかな沈黙の後に問いかけられて、「うん……」と、小さく頷く。
部屋着の襟元にそっと手が掛けられ、露わになった胸の上部が覗くと、消えかかった数日前のキスマークが見えた。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!