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「来ないでッ!!」
康二の悲鳴にも似た叫び声が、目黒の脳天を直撃した。目の前が真っ白になり、思考が完全に停止する。広げた腕は行き場をなくし、何を言えばいいのか、何をすべきなのか、全くわからなくなってしまった。ただ、目の前で呼吸を荒くする康二の姿を、呆然と見つめることしかできない。
一方、康二の頭の中は、恐怖で真っ黒に染まっていた。目黒の絶望に満ちた表情が、じわじわと罪悪感となって心を締め付ける。しかし、それ以上に、彼への恐怖が勝っていた。立っているのが限界で、康二はその場にずるずるとしゃがみ込んでしまった。
その姿を見て、目黒ははっと我に返る。そして、まるで壊れ物に触れるかのように、ゆっくりと腰を落とし、震える康二の肩にそっと手を伸ばした。
「…やめて」
しかし、その手は、か細く、弱々しく放たれた康二の拒絶の声に阻まれ、あと数センチのところでぴたりと止まった。その声は、先ほどの叫び声とは違い、ただただ悲しみに満ちていた。
気まずい沈黙が、二人と、そして少し離れて見守る深澤の間に流れる。車の通り過ぎる音だけが、やけに大きく聞こえた。
やがて、その沈黙を破ったのは、しゃがみ込んだままの康二だった。
「…なんで、来たん…?」
顔を上げず、地面を見つめたまま、康二は言葉を紡ぐ。
「俺のこと…もう、いらんのやろ…?捨てに、来たんか…?」
その声は、ひどく震えていて、今にも消えてしまいそうだった。それは、怒りではなく、心の底からの純粋な疑問と、見捨てられることへの恐怖に満ちていた。
そのあまりにも悲痛な問いかけに、目黒は言葉を失った。違う、と叫びたかった。そんなこと、一瞬たりとも思ったことはないと伝えたかった。しかし、楽屋で康二を傷つけたのも、見舞いに来なかったのも、紛れもない事実。どんな言葉も、言い訳にしか聞こえない気がして、喉が張り付いたように声が出なかった。
ただ、康二の言葉が、鋭い刃となって自分の胸に深く、深く突き刺さるのを感じていた。