テラーノベル
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目黒が言葉を失っていると、しゃがみ込んだままの康二が、静かに口を開いた。
「…ごめん」
その一言は、思いのほか、はっきりと聞こえた。
「体調、悪かったん…一言、言えばよかった…。自分のミスは棚に上げて、めめのことばっかり責めて…ごめん…。自分の気持ち、全然…コントロール、できんくて…ほんまに、ごめん…」
ゆっくりと、途切れ途切れに、しかし誠実に言葉を紡いでいく。それは、まるで懺悔のようだった。
目黒は、固まったまま、その言葉の一言一句に耳を傾けていた。
違う、お前は悪くない。悪いのは全部俺だ。そう心の中で叫ぶが、声にはならない。康二が謝罪の言葉を重ねるたびに、自分が彼をどれほど深く傷つけ、追い詰めていたのかを改めて痛感させられた。
謝る必要なんて微塵もないことを必死に謝ろうとする康二の姿に、胸が張り裂けそうだった。全力で否定したかったが、ただ聞くことしかできなかった。
やがて、康二がゆっくりと顔を上げた。熱のせいで潤んだ瞳が、まっすぐに目黒の視線を捉える。その瞳には、恐怖よりも、今はただ純粋な懇願の色が浮かんでいた。
「俺が…俺が悪かったから…。やから、お願いやから…」
その瞳が、必死に訴えかけてくる。
「…捨てないで…」
言葉と、視線と、その場の全てで、康二はそう懇願した。
その悲痛なまでの訴えを目にした瞬間、目黒の中で何かが固まった。迷い、後悔、自己嫌悪。渦巻いていた全ての感情を振り払うように、彼はぐっと唇を引き結ぶ。もう、逃げてはいけない。自分の言葉で、伝えなければ。
目黒は覚悟を決め、震える康二に向かって、ようやく言葉を発した。
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