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水の音だけが響く沈黙の中、私は目を細めながら口を開いた。
『負け…ちゃいました、ね。』
私と清水先輩は、城西との試合が終わり水場でドリンクの片付けをしていた。
「うん。」
清水先輩は冷静に返す。
「…悔しい?」
『はい”。』
自分が思ったより、声がしゃがれる。
「…切り替えなさい。」
『はい”…!』
ドリンクを洗っている私の手の上で、水道水と涙が混ざっていた。
人がどんどんと帰っていく頃、私は仙台体育館の前で本を読んでいた。
(結構暗くなってきたな…、)
本来ならば烏野高校に戻っている頃だが、兄が車で迎えに来るので仙台に残るのを許してもらったのだ。もちろん理由もある。
(ちょっぴり寒い…。)
指先が赤くなっている自分の手を眺めて、小さくため息を吐く。
「! お前、何でいるんだ?」
『あ、岩泉さん!』
出入口には岩泉さんが立っていた。そう、残った目的は岩泉さん。
階段から落ちたことと、目のことを保健室で言うと、電話で兄に伝わり直接岩泉さんにお礼することになったのだ。
『岩泉さんを待ってたんです。』
『お時間、大丈夫ですか?』
「あ、ああ。大丈夫だ。」
私たちは体育館裏に移動した。私は岩泉さんの方を見ずに話しかける。
『岩泉さん。元気、ありませんね。』
「ああ。…負けたんだ。」
「悪いが今は愛想良くできねぇ。」
『悔しいのは私もです。』
「…」
『…岩泉さんは2回も私を助けてくれました。』
「あ?」
『だから、私も助けます。』
私が出来ることは、わずかしかないけど。
「……はあ。わかったよ。」
岩泉さんが大きなため息をついた後、ゆっくりと考えてること、気持ちを話してくれた。
ずっと私は視線を動かさなかったけど、きっと泣いていただろう。
ゆっくりとゆっくりと、涼しい夜空の下で私たちは話した。
「…もう時間だ。」
『ほんとですね。』
私は立ち上がって岩泉さんの手を引く。
『行きましょうか。』
それに合わせ、岩泉さんも立ち上がる。私が歩き出そうとすると、腕を押さえられる。
『? どうしました?』
「なあ、西川。」
「……」
『?』
岩泉さんが黙ってしばらく経った時、遠くからまた聞き覚えのある声が聞こえる。
「いーわちゃーん!!どこー!!」
及川さんだ。
「チッ…クソ川だ。」
「まあ、またメールかなんかで話そうぜ。」
『! はい!』
私がそう返事をすると、岩泉さんは及川さんの方へ走っていってしまった。