「は、はあ? 何でお前らがここに?」
「そりゃあ、依頼だよな。空」
「勿論、依頼だよ。警察学校時代の同期、明智春っていう警察官を探して欲しいっていう依頼をしにきたんだ」
と、二人は、顔を合わせるなり「ねー」と笑っていた。その息のぴったり具合に、仲の良さを垣間見た気がする。
昔を懐かしんでいた矢先、これだ、とちょっとした運命を感じつつも、警察を辞めたと知ったらこいつらは失望するだろうな、と俺は自傷気味に笑うしかなかった。
赤黒い髪を無造作な団子にした俺よりも背が高い男は高嶺澪、警察学校時代より髪が伸びた感じがする。警察官として、それでいいのかと言いたくなるが、「死んだ親に切らないでって言われたんです~」などと、言い訳してきそうなため、言わない。
もう一人の青黒い髪の俺よりも少し背の低い男は颯佐空、彼は何も変わった風には見えない、彼も同じく髪が少し伸びたような気がする。首辺りの外ハネが前よりもえげつないことになっている。普通は、髪が伸びたら下にストンと落ちるものではないのだろうか。まあ、どちらにしてもとてもじゃないが二人とも警察官というふうには見えない。
そもそも、この二人とは卒業以来一度も会っていなかったし、連絡も取ってなかった。それなのに今更探すというのはどういうことだと疑問が頭の中を埋める。卒業したのは約三年前ぐらいなのに。本当に今更なのだ。
連絡を取り合っていなかったのは、互いに忙しかったからであり、配属先も部署も違ったためだ。
(よりによって、神津のいるときに……)
俺は、後ろの神津の気配を感じつつ、どうにか二人には帰ってもらおうと思考を巡らせる。ただでさえ、神津と初夜失敗の最悪な空気感だというのに、今度は警察学校の同期……
俺の事を知りたがる神津が黙っているわけもないので、きっと質問攻めに遭ってしまうだろう。最悪の状況を回避するためのも、取り敢えずは此奴らを追い返すことを考える。最悪に最悪を重ねたくない。
「そいつは死んだんだ。もういねえよ」
「いるじゃねえか、目の前に。明智春っていう男は」
「なら、依頼は終わりだ。明智春って男はいても、警察官の明智春はもう何処にもいねえんだよ。帰れ」
「ハルハル、矢っ張り警察やめてたんだ」
追い返そうとすればするほど、高嶺と颯佐は食い下がる。
だが、ここで引き下がってくれる訳もなく、寧ろ余計にやる気を出したようで、高嶺と颯佐は俺に向かって口を開いた。
それに俺は溜め息をつくしかなかった。
「春ちゃん、どうしたの?」
「げっ、神津……」
追い返そうと考えていたところで、後ろからそう声をかけられ、思わず「げっ」などと口走ってしまう。
振返れば、神津が少し怪訝そうな顔で俺を見ていたが、その目はすぐに俺ではなく高嶺と颯佐に向けられる。
「春ちゃん誰? 依頼人?」
「あ、ああこいつらは……」
「あー! 神津恭じゃん」
と、声を上げて指を指したのは颯佐だった。
どうやら、彼は神津の事を知っているようでビー玉のような丸く蒼い瞳を輝かせながら、彼の元へと駆け寄る。そして、彼はそのまま神津の手を握った。
突然のことに神津は驚いたように目を瞬かせる。
俺はと言うと、そんな二人の様子を見て頭を抱えた。神津は颯佐の手をやんわりと離すと、首を傾げた。触られた手は嫌そうに、俺の背中の方に当てていた。
「それで、春ちゃんあの人達誰?」
「あーえっと」
「何だよ。明智、俺たちのこと話してねえのかよ」
「あ~んなに仲良くしてたのに、紹介もなし?というか、ハルハルが神津恭と知り合いだったなんて、まずその事について教えてもらわないと」
「お前らなあ……」
俺が誤魔化そうとする前に、高嶺も颯佐も口々に言い出すので、誤魔化すタイミングを逃し、さらに神津に冷たい目で見られてしまう。
実際、神津が帰ってきたとき「友達は? 僕以外に恋人はいるの?」と聞かれたときに、友人はいないと答えてしまったからだ。ああ、これはややこしいことになる、どこから説明すれば良いのだろうかと迷っていれば、神津はスッと身を引いて扉を全開に開けた。
「まあ、立ち話は何だし、入ってもらおうよ。春ちゃん」
「お、おう……」
「それから、じっくり聞かせてね?」
と、神津はにこりと笑って言ったが、その笑顔が妙に怖く、目が笑っていなかったのを俺は見逃さなかった。
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