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「そんなに緊張すんなよ、お兄さん。あんた、こっから出たいんでしょ。あたしたちも船から脱獄する策略だから」
彼女が肩を組んできて、胸が左上腕に当たっていた。童貞の僕にはキツすぎる展開。アレがたっちまいそうだ。
「姉貴! それは言わないお約束じゃ……」
「そうだっけ?まあ、細かいことは気にすんな」
囚人の女だけあってか、態度がかなりデカい。肩から手を離した瞬間椅子にもたれかかり、大の字で座っていた。これ股が見えるんじゃ……恥じらいはないのか?と心配になってしまう。
そんな彼女の目の前には、褐色肌の男が座っていた。右目に包帯を巻いていて、怪我をしているのが分かる。左目は水色に近い瞳。
彼は女のツッコミ役としてはかなり優秀だ。知り合いだろうか。
男は丁寧に挨拶してきた。
「どうも初めまして。ボクはダニエル。あなたの隣に座っている彼女は、ルビー」
「よろしく〜!」
「二人は知り合い……?」
「恋人同士」
「ち、違うって!!」
ルビーがのっぺりした声で言うと、ダニエルの顔がトマトのように赤らみ慌てて隠そうとする。なんだ、リア充か……。僕には縁がないタイプだわ。逃げよう。
トレーを持って立ちあがろうとしたら、女に左腕を引かれた。彼女はにっこりと微笑ましい笑みを浮かべている。
「ねえ、お兄さんさ。アルマの知り合い?」
「え……?」
いきなり彼の名前が出てきて、戸惑いを覚える。この船では囚人同士だと番号しかわからないはずで、フルネームを知っている人は有名じゃなければ仲間や友達でない限り少ない。この人はアルマの知り合いなのだろうか?それとも名前だけ知っている?
僕はその場で座り、ルビーの赤い瞳に視線を移す。
「あたしこう見えて、元アルマの恋人なんだよね」
「恋人!?」
アルマも男である限り、好きな人と付き合うことくらいするだろう。青ざめるくらいショックではあるが、固唾を飲んで彼女の話に耳を傾ける。
「そう。2年くらい付き合ったかな? それでわかったことがいくつもあるんだ。聞きたい?」
「少しだけ……」
「ふーん。あいつのこと、好きとか思ってるの?」
「そんなわけないでしょ!? 相手は男だぞ。僕はノンケだ」
「性別なんて好きに関係ないわよ。あたしが言いたいのは、もしあいつに好意を抱いたら後で痛い目見るってこと」
それは、どういう意味だろうか?
彼女の話に興味を持った僕は、ルビーの話に耳を傾けることした。
ルビーが話した内容は以下の通りだ。
16世紀くらいの中世後期のヨーロッパでは、まだ殺人が貴族の娯楽として扱われていたという。警察と似たものは存在していたが、まだ制度は確立していない。警察の役割は、貴族や地方の領主が担っていることが多かった。だから、名誉から外れるのを恐れた貴族自身を裁くことが難しかった。
バートリ・エリザベートという名門貴族のお姫様が、ルーマニアの丘の上にある城に住んでいた。彼女が幼い頃。父は戦へ行って帰ることはなく、母だけが残り母はバートリに厳しい躾をした。彼女の心は歪み、母が死んで鞭打ち。血が顔にかかり、血を浴びた快感から殺人を行うようになった。
彼女は名門貴族であったせいか、誰も止めることができない。今では考えられないほどの娘を殺していく。その数600人以上。女吸血鬼の元になった人物だ。
警察の体制が整い始めたのは、近代に入ってから。しかし、人の急激な増加・貧困が加速して飢饉が起きたり警察の怠慢が蔓延していたりすると警察が機能しなくなることもある。犯罪が起きやすいのは、そのような時だという。
現在監視カメラの導入で犯罪は減っているが、やはり家庭内の環境や学校における環境により子供の心が左右されるのは今も昔も変わらない。
アルマの住んでいた街も貧困が蔓延っていて、周りで暴動が起きている状態だった。父と母の間に産まれた彼。お金がないので育てることができず、捨てられたという。孤児院で育ったアルマは他の子供達と馴染むことができず、動物を殺すことで心が安らいでいた。大抵の殺人犯は動物殺しから人間殺しに展開することが多く、彼もその一人。
殺人に走ったきっかけは、19歳の頃。アルマがお金をケースで持っていた男をナイフで惨殺したのが始まり。お金を手に入れる手っ取り早い手段を理解したものの、たくさん殺人を犯せば警察に捕まるのは目に見えている。ならば仕事をしてお金を手に入れようと心を切り替え、お菓子会社に就職。メキメキと働きながら自分が良い人に見えるにはどうするばいいか試行錯誤しながら、24歳になった頃。社長にまで上り詰めた。彼が社長になってからお菓子がたくさん売れて、大企業になっていった。そんなもの、アルマにとっては計算済みだったんだろうな。
彼は頭がいいやつだからね。社長という地位を維持しながら、殺人をしていたんだ。社長がそんなことしても、誰も信じないはずさ。
青年時はお金を奪うためだったが、社長になってから自分の気に入らない社員を呼び寄せて暗殺。アルマは自分の性欲を満たすために、かなりムゴい殺し方をした。警察が「これは人間がしたことなのか?」と驚くほどのな……。これについては、気絶するほどムゴいから質問するなよ。
社長に上り詰めたのも、自分が良い人に見せるために根回ししていたから。そんな奴は自分のことしか考えていないだろう。あいつに慈悲を求めても無駄だ。あいつが使えると思えば使うが、使えないと思ったらキッパリと仲間だとしても切る。
今は君のことを使える奴だと思っているんだろう。理由は知らないけどさ。でもいつか使えない奴だと思われたら、汚い言葉で罵られるかもしれない。だから、そういうやつからは距離をおいたほうがいいということだ。
ルビーの話を一通り聞き終え、納得してしまった自分がいる。
コメント
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おお、第8話読んだわ。ルビーとダニエルのコンビ、めっちゃいい味出してるな!特にルビーの「元アルマの恋人」発言にはビビったわ。アルマの過去がどんどん闇深くなってきて、社長でありながら殺人を重ねてたって…マジかよ。主人公が「納得してしまった」ってとこ、俺も同じ気持ちになったわ。この先どうなるんだろう、続きが気になる🔥
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