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――――同時刻――――
アミとユキは家内にて、今夜の夕食へ向けての準備の真っ最中であった。
「狂座の者が攻めて来たぞぉ!!」
突如、家外にて叫び声が響き渡った。
「アミ!」
まさか白昼堂々攻めて来るとは思っていなかったのか、ユキも思わず声を上げる。
“――嘘!? まさかここまで気付かれずに侵入してくるなんて……”
アミは狂座の者の侵入に対して、自然の警告の声が聴こえなかった事を疑問に思うが、今はそれ処では無い。
再び闘いが始まる。ユキは既に雪一文字を腰へ差していた。
ミオはまだ、帰って来ていない。
「ユキ!」
二人は顔を見合せる。
ミオ一人で狂座の者を相手にするのは、さすがに分が悪い。アミですら、狂座の師団長クラスには及ばないのだから。
「ミオが危ない!」
「急ぎましょう!」
ユキの号令を皮切りに、二人は家を飛び出したのだった。
*
“――果たして、どれ程の者が?”
家を飛び出し、二人走る最中ユキは攻めて来た狂座に対する戦略思考を施す。
師団長や軍団長クラスなら、彼にとっては全く問題では無い。ただもし、いや十中八九そうだろうーー“当主直属部隊”クラスが相手ならと考える。
勝てるかどうかも難しい上、周りにも多大な犠牲を出しかねない。
出来れば侵入する前に、片付けたかったと。
「ミオちゃんが敵に捕まっている。急いで!」
途中、前方から走ってきた住人に、すれ違い様に二人は声を掛けられる。
「ミオ……」
妹を心配するあまり、アミは表情が蒼白に引きつりながら呟く。
最悪の事態は回避せねばと、二人は走る速度を更に早める。そして、漸く見えてきた。
八間(約18M)程先にへ垂れ込んでいるミオに、それを見下ろしている一際目立つ蒼髪の人物の姿を。
周りには住人達が、恐れおののく様にがやついていた。
「アイツは!!」
ユキはその蒼髪の人物を目視確認するなり、目を見開きながら口を開いていた。
「フフフ、来たなユキヤ」
蒼髪の男はミオから目を離し、ユキを見据えて呟く。
「姉様! ユキ!」
“やっぱりこの人、ユキの知り合い? でも……狂座だよね? でも何か、この二人……”
相変わらず身体が硬直して身動きが出来ないミオだが、何故かこの二人が何処か雰囲気が似ている様な、そんな印象を受けていた。
「おのれ狂座め! 一人で此処に乗り込んで来るとは!!」
一人の男の怒号によって、突如静寂が破られる。一族の戦士が刀を構えて、蒼髪の男に斬り掛からん勢いで詰め寄っていく。
「狂座? 何を勘違いしているか知らんが、五月蝿い虫だな」
蒼髪の男は面倒臭そうに、相手の方を振り向く事無く、右指先を詰め寄って来た男の顔面へと向けた。
“丸腰で何をしてるの、この人?”
間近で見ていたミオが、その動作を不振に思っていたその時。
「そいつに近付かないでください!!」
突如ユキの焦燥した叫び声が、空気を切り裂くが如く辺りに響き渡った。
「目障りだ」
蒼髪の男が鬱陶しそうに呟いたその直後。
“ーーっ!!”
男の首から上が、まるで花火の様に赤く弾け散る。そして、突如本来在るべきものが無くなった首の断面からは、鮮血が噴水の様に吹き上がっていた。
頭部を失った男は糸が切れた人形の様に、ゆっくりと崩れ落ちていく。
『…………』
その刹那の惨劇に、まるで時が止まったかの様に周りは凍りつきーー沈黙。
“――な……何? これ……”
ミオは間近で起きたその惨劇に、状況が掴め無い。
飛び散った肉片、その鮮血の一部がミオの顔に降り注ぐ様に架かり、雫がその頬を伝う。
「ヒッ! ヒィィィィィィ!!」
静寂を破る誰かの悲鳴を皮切りに、凍りついた時が動き出す。
「ひっ……人殺しぃぃ!!」
「だっーー誰かぁぁぁ!!」
まるで雪崩式に次々と悲鳴が飛び交っていき、その場の群衆はパニックに陥っていくのであった。
「な、何……今の?」
アミは悲鳴が飛び交う中、その惨劇に吐き気を堪える様、口を掌で抑える。その現状に今一つ考えが纏まらない。
一つだけ確かな事は、今まで奇跡的に出なかった“遂に犠牲者が出てしまった”という事。
「今のは……過度の血液膨張による、体積の限界破裂です」
横でその現状を、ユキは何時もの冷静さを欠いた口調で解説する。
アミはそれが如何なる事かを想像し、思わず身震いをした。
「全く最悪ですね。狂座より厄介な事になるかもしれません……」
ユキの横顔を見て、アミは思わず目を疑った。
“――ユキがそこまで言うなんて……”
彼の額からは、一筋の冷汗が流れ落ちていたのだから。
彼女は少なくとも、ここまで焦るユキをそうそう見た事は無い。
思い起こせば、それはアザミとの闘い以来の事。
アミにとっても、あの蒼髪の人物がとてつもなく危険で在ろう事は、一見しただけで理解出来た。
“――でも、さっきユキの言ってた“狂座より厄介゛な事って?”
そう、間違いなくこの二人は、お互いがお互いを知っている。アミがそう考えあぐねていた時、突如ユキが声を張り上げた。
「死にたくなければ全員、今すぐ此処から離れてください!!」
それは何時もの冷静な彼とは思えない程の、焦りにも似た叫び声だった。
それでも腰を抜かしている者、恐れ怯える者多数で中々その場は収まらない。
「ミオ! 何をしているんです!? 早く其処から離れるんです!!」
ユキは急ぎミオへ発破を掛ける。とはいえ、ミオも恐怖と目の前で起きた惨劇により、腰を抜かして身体が思う様に動かせない。
そんなユキの言葉を嘲笑うかの様に、蒼髪の男はミオの肩へと手を伸ばす。
「やめてぇ!!」
訪れようとする惨劇。響き渡るアミの悲鳴。
だがーー
「ご苦労だったね、お嬢ちゃん。さあ向こうに戻りな」
蒼髪の男はミオの肩を掴んで立たせ、彼等の下へ戻るよう促す。
「アミ! 今です!」
ユキの言葉にアミは瞬時にミオの下へ駆け寄り、妹を抱き寄せたまま即座にその場から離れる。
その間、蒼髪の男は特に二人に手出しする素振りも無く、ただユキのみを見据えていた。
「姉様……ユキ……」
二人の下に戻ったミオは、アミの胸の中で小刻みに震え続け、その表情は恐怖の余り蒼白に引きつっていた。
「ミオ……良かった」
アミは無事だったミオを、きつく抱きしめ安堵する。
「ユキ、あの人は一体何者なの? 狂座……じゃないよね? それにあの力……」
血液を意図的に膨張させるなんて、ただ事では無い。一つだけ分かるのは、それはとてもおぞましく、恐るべき力だという事。
アミの疑問にユキは蒼髪の男を見据えたまま、そっと口を開く。
「奴は狂座の者ではありませんよ。それにあの力は、奴の能力のほんの一部に過ぎません……」
相手の血液を膨張させるだけでも、恐るべき力であろう。それでも恐るべきはそれだけではないと言わんばかりに、彼は衝撃の事実を口にする。
「奴は血液は疎か、あらゆる水分を意のままに操る特異能ーー“獄水”を持つ特異点が一人……」
「特異能? 特異点! じゃあ、あの人は……ユキと同じ?」
アミも言われて気付いた。ユキと何処か雰囲気が似ている事に。
「久しいなぁ、ユキヤよ」
蒼髪の男が感慨深そうに、ユキへ向けて口を開く。
「久し振りですね。二度と会いたくないと思っていましたが、何しに来たんですか?」
ユキも前に歩みながら、蒼髪の男へ向けて口を開いた。
場の雰囲気は凍りつき、空気が張り詰めていく。
「ーー特異点。“血痕゛のシグレ……」
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